表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

神様のお願い

 和哉が辿り着いたのは、一人の老人がポツンと座る部屋の中だった。

「ワシのところにお客さんとは珍しいこともあるもんじゃな」

 老人の風貌は、七福神の寿老人(注1)に似ている。だが少し気難しそうだ。

「お主は他の神々にも見捨てられたか」

「それは、どういうことだ?」

 和哉は見捨てられたという部分に引っ掛かりを感じた。

「この世界は、神々の争う世界。神々の力はそれぞれの信者の数で決まる。ワシなんぞ弱小底辺の木っ端のようなものじゃよ」

「随分と卑下するんだな」

「ほっほっほっ、髭なら自慢できるがの」

 真っ白な顎髭(あごひげ)は腹の中程まで垂れている。

「で、お主には二つの選択がある。この先、閻魔大王の元まで送られて、天国か地獄へ行く正規の道。もう一つはワシらの世界へ転生し、神々の争いに協力する道じゃ」

「こういうのって、美しい女神(注2)が迎えに来てくれるんじゃないの?」

「オーディンの奴は、色仕掛けで多くの者を集めたが、狼(注3)に全部食べられおったわ」

 既にラグナロクは終わっていた。

「今は他の神々も、その者が望むものを提示して協力関係を結んでおる。お主の望みは神々の力を超える壮大な内容だったようじゃのぅ」

「楽して暮らしたいって、壮大か?」

「少なくとも、他の神々の手に余ったのは事実じゃ」

「じゃあ、爺さんは、俺の願いを叶えられるのか?」

 落ち目の底辺では、何も力がないのではと和哉は思った。

「バカにするでない。落ちぶれても、ワシはここに在る。かつては全知全能(注4)の神だったのじゃ。どんな願いでも叶えてやれる」

「だったら、信者が減ることはないんじゃね?」

「それがのぅ、神々の取り決めで、あまり世界に干渉できないんじゃよ。信者を通じてしか奇跡が起こせなくての。ワシの信者は欲が薄くて奇跡を起こす機会が少ないんじゃよ」

「なるほど」

 和哉は納得して見せたが、内心では目の前の老人を怪しく感じていた。

「しかし、転生して赤ん坊に戻ったら、爺さんに協力はできないぞ?」

「そこは、お主を希望する年齢にしてから転生させよう。なあに、緩い世界だから急に人が増えても誰も驚きはせん。むしろ処女を妊婦にしても奇跡と喜ばれたわい」

「じゃあ、十八とかに若返るとして、知識は?」

「知識は今のお主が持つままじゃ。もちろん、技能もな」

 好条件を示されて、和哉は生唾を飲み込んだ。

「協力するとして、信者を増やす以外に何か条件はあるのか?」

「いや、特にないの」

「爺さんは、信者が増えれば、それで満足なのか?」

「左様、信者が増えればワシの力も強くなり、お主により強い加護を与えられる。他の神々から信者を奪うのも簡単じゃろうて」

 和哉は迷った。条件が良過ぎて、ブラック企業の甘い罠にしか思えなかったからだ。

「それでは、ワシの信者を見せてやろう」

 そう言って老人は一枚の鏡を和哉の目の前に出現させた。

声の想定(ボイスイメージ)

・桐下 和哉  鈴木達央さん

・謎の老人   石田彰さん



注1 寿老人

 長い頭に豊かな髭を蓄えた姿の寿老人も、福禄寿と混同されて時々七福神から外されたりする。

 切ないのぅ、切ないのぅ。


注2 美しい女神

 北欧神話でワルキューレ(ヴァルキュリア)と呼ばれる女神。

 九柱の姉妹で、非業の死を迎えた英傑(エインヘリアル)を、オーディンの宮殿があるヴァルハラへ連れて来る役目を負う。というか、オーディンの罠で命を落とす英傑(エインヘリアル)を連れて来る。

 恋愛で能力が上昇するとかはないので注意したい。

 時の三女神と混同されることもある。


注3 狼

 北欧神話では悪神ロキの息子として、氷の狼フェンリルが登場する。

 最終戦争(ラグナロク)はフェンリルが繋がれた紐から解き放たれることで始まり、オーディンを飲み込んでしまう。


注4 全知全能

 一神教に多い全知全能の設定は「何で全知全能なのに、この世の悪事を消せないのか?」という問いに答えられないので、注意したい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 本編も面白いけど後書きが笑える。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ