第9話 女の子!?
日暮の家はグレード・デーン公園からそう遠くない場所にあり、15分ほど歩くと辿り着いた。外観は和テイストの風情のある一軒家だった。玄関に入ると、すぐ横にある階段に昇り2階の部屋に案内された。ドアには「レナ」と書かれたプレートが吊り下げてある。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
部屋は広く10畳ほどの和室だった。
入り口から見て左側にベッド、右側にはテレビがある。テレビ台には録画機と一世代前のゲーム機が置かれている。
そして真ん中には四角形のテーブルと座椅子が3つ置かれている。あまり女の子らしい部屋って感じはしないが、シンプルでなんとなく落ち着く部屋だった。
「おやつと飲み物を持ってくるから適当にくつろいでくれ」
日暮パパはそう言うと部屋から出て行った。鳴海たちは向かい合うように座椅子に座った。
「そういえば零ちゃんも私の家に来るの初めてだね」
「そうだな。てか僕をその名で呼ぶな」
ゼロはどうやら、その呼び方がお気に召さないらしい。そういえばこいつの本名はなんと言うのだろう?
まさかゼロが本名ではあるまい。
「えー、いいじゃん、あっそうだ! 零ちゃん鳴海に顔見せてあげなよ」
「おお、気になるな。ちょっとそれ外して見せてくれよ」
「わかってる。……別に言われなくも外すつもりだった」
「零ちゃん人が多いところだとマスク外さないからレアだよ! それにとっても可愛いんだよ」
日暮が楽しそうに語るとゼロは不満げな声で「うるさい、余計なこと言うな」と言った。
「へー、そうなのか」
鳴海は特に期待もせず適当に返事をした。
ゼロがレインコートのフードを下ろし、ガスマスクを外した。今まで謎に包まれてい素顔が明らかになる。それは鳴海の想像を遥かに超えるものだった。
サラサラのショートボブに透き通るようなきれいな白い肌、斜に構えた性格からは想像もつかないくらい、ぱっちりとした大きな瞳で愛嬌のある顔立ちをしていた。控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い
「……じっと見てないで何か言えよ」
鳴海はどうやら、自分でも気づかないくらいゼロの顔をじっと見ていたらしい。
「……お前女だったのか?」
「なんだよ。悪いか?」
「いや、だっていつも顔見えないし。喋り方も男っぽかったからつい」
小柄でやたら声が高いなとは思ってたけど、まさか女だとは思わなかった。
「先入観だけで人を判断するとは愚か者め」
ゼロはやれやれと言わんばかりに両手でジェスチャーをした。
「間違える奴、俺の他にもたくさんいると思うぞ」
3人でしばらく雑談をしていると、日暮パパが「おやつと飲み物持ってきたぞ」と部屋に入ってきた。日暮パパはおやつと飲み物をテーブルに置くと「ゆっくりしていってくれ」と言い残し去って行った。
「ねぇ、3人でなにしようか?」
日暮がそう言って皿にあるおやつ?を手に取り口の中に放り込んだ。
「対戦ゲームとかはあるのか?」
ゼロもおやつ?を手に取りそれを口に運ぶ。
「あるよ! 3人でできるやつだとストリート土下座4と子宮防衛軍と大乱交スマ○コブラジャーズしかないけど。鳴海はやりたいのある?」
「え? あ、ああ……、強いていえば俺はストリート土下座4ってやつがほんの少しだけ気になるかな」
「僕はそれでかまわない」
「じゃあ、これにしよう!」
「鳴海さっきからじーっと皿を見つめてどうした? 食べないのか?」
ゼロが不思議そうな顔で鳴海を見た。
「え?、……ああ、せっかくだから頂こうかな」
鳴海はゼロに促されておやつ?を手に取った。二人とも当たり前のように食べているおやつは鳴海にとってあまり馴染みのないものだった。
円形の半透明の薄いシート
それは、どこからどう見てもオブラートだった。粉薬を包む時に使うあれである。
鳴海は流行に疎い自覚はあった。
オブラートをおやつとして食べるのは鳴海が知らないだけで世間では一般的なのかもしれない。鳴海はそう思い込むことにしてオブラートを口に入れた。無味無臭だった。
ストリート土下座4
ブラック企業に勤める猛者達が日頃の鬱憤を晴らすために相手をボコボコにして力尽くで謝罪させる対戦格闘ゲームだ。ちなみに鳴海は全くプレイしたことがなかった。
「2人には申し訳ないけど、私ストリート土下座4はすごく得意で1度も負けたことがないんだ。でも安心して二人が可愛そうだから手加減してあげる」
日暮が自信に満ち溢れた表情で宣戦布告する。
「ほう奇遇だな。僕もストリート土下座4は未だかつて敗北したことがない。本気を出してしまったら一瞬でケリがついてしまうので、実力の1/10くらいで戦おうとするかな」
ゼロも負けじと対抗意識を燃やしている。
鳴海には二人の視線がぶつかりあい火花が散っているように見えた。
「もう、お前ら二人でやってろよ」
鳴海は完全に蚊帳の外だった。
対戦結果は案の定だった。鳴海はフルボッコにされ早々に戦場から姿を消した。二人の実力は拮抗し引き分けとなった。
「まさか、これほどの実力とはな。少し想定外だった」
「やるねー、まさか零ちゃんがここまでやるとは思わなかったよ」
「ねぇ、お前ら手加減するんじゃなかったの? 初心者に38回も土下座させるってどういうこと?」
鳴海は二度とこのゲームをやらないと心に誓った。ゲームをしたり、話をしていると気がつけば外はもう暗くなっていた。時間が経つのは早いものだ。
「もう、こんな時間か。そろそろ帰ろうかな」
「僕もそろそろ帰るとするかな」
「うん、今日は楽しかったよ!また遊ぼうね〜」
日暮が笑顔で見送ろうとした時、何かを思い出したように「あっ!」と声をあげた。
「どうした日暮?」
「そういえば鳴海大丈夫なの?」
「何の話だ?」
「だって期限まであと少しでしょ? そういえば白井さんのパンツまだ手に入れてないんじゃない?」
「なんだそんなことか」
「え、だってさっき元の場所に戻したじゃない」
もし、白井のパンツが手に入っていなければ悠長に遊んでる場合じゃない。それがわからないほど鳴海は馬鹿じゃない。
「大丈夫、欲しいものはもう手に入った」
鳴海とゼロは顔を合わせ不適に笑った。