第5話 ゼロ
翌日、鳴海は学校の屋上へと向かった。日暮が言っていた協力者に会うためだ。
その協力者はみんなから「ゼロ」と呼ばれているらしく、かなりの変人だが頭はとてつもなく良いらしい。「昼休みはいつも屋上で、ご飯食べてると思うから会ってみて。ちょっと変わった格好してるからすぐわかると思うよ」と日暮は言っていた。
鳴海は屋上の扉を開けた。日暮の言うとおり、特徴的というか明らかにおかしい人物の姿がそこにあった。ゼロと思われる人物はフェンスに背を預け体育座りのような格好をしている。
黒いレインコートに身を包み、黒の手袋を着用している。全身黒づくめで怪しさ満点だった。おまけに特殊部隊がつけるようなガスマスクを装着しており顔がよくわからない。
一目見ただけでわかるキチガイっぷりに鳴海は気が重くなった。
でも日暮いわく力になってくれるとのことだったので話しかけてみることにした。
「すごい格好だな、バイオハザードでも始まるのか?」
ゼロがゆっくりと顔を向けてくる。表情が見えないので何を考えているのか全くわからない。鳴海はゼロの正面に立つと、ゆっくりと腰を下ろしあぐらをかいた。
「世界は細菌とウイルスで満ちあふれてるからな、それに紫外線が人体に及ぼす有害性は……」
「オッケー、そんなところだと思った。あんたがゼロだな?」
話が長くなりそうだと判断し、鳴海は早急に話をさえぎることにした。
「そうだ。お前は安藤鳴海だな。話はレナから聞いてる」
「そうか、話が早くて助かる」
「それで、眼球と腎臓どっちがいい?」
ん?
「ちょっと待って、なんの話だ?」
「え? いやレナが鳴海は僕の力になってくれるって言ってたから、てっきりお金の話かと」
「いや待て待て! なに出会い頭に人の臓器売ろうと考えてんの!?」
おい、何が力になってくれるだよ。全然話が違うじゃないか。
てか怖っ! なんでお金稼ぐ=臓器売買にすぐ結びつくんだよ。
「いや、だってそっちの方が手っ取り早いだろ? 高校生が稼げる額なんてたかがしれてるし」
「代償か大きすぎるわ! なんてパンツ1枚ごときで臓器失わなきゃいけないんだよ!?」
「大丈夫、眼球はともかく腎臓なら日常生活を送る上で大きな支障はない」
「そういう問題じゃない! とにかくそれはダメだ!」
「えー、なんだよ。じゃあいくら出せるの?」
ゼロが不満げな声を漏らす。
「一万が限界だ」
「うーん、しかたないなぁ、今回はそれで手を打ってあげるとしよう」
「サンキュー、助かるぜ」
どうにか臓器を失うことなく、手を貸してもらうことに成功した。
「ところで、なんでそこまでしてパンツ欲しいの?」
「えっと、それは……」
鳴海はありのまま事実を話すことにした。
ちなみに日暮にこの話をすると、驚くほどあっさりと信じてくれた。
「なるほどねー、パンツを手に入れなきゃ死ねのか、それは大変だな」
「なんだよ、信じてくれるのか?」
「いや、僕は自分の目で見たものしか信じない。だから今のところ鳴海の話は信じてるわけでわないけど、疑ってるわけでもない」
「そうか」
意外と物わかりいいじゃないかこいつ
「それで、どうやって手に入れるんだ?」
「ああ、僕に任しといて、そのくらいなら朝飯前だよ。ただちょっと準備が必要だから3日ほど待ってくれ。詳しいことは作戦当日に教えるよ」
「本当に信じていいんだな? 頼むぞ。残り6日しかないんだ。失敗は許されない」
「大丈夫、僕に不可能はない。大船に乗ったつもりでいてくれ」
ゼロの威風堂々とした振る舞いは謎の安心感があり不思議と信用できそうな気がした。
「わかった、ゼロお前を信じるぞ」