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第3話 善は急げ

 白井 花

 特別可愛いわけでもなければ、何か優れた特技を持っているわけでもない。どこにでもいるような普通の女子高生。ありふれた存在。ザ・モブキャラ。それが白井に対する印象だった。


 鳴海は授業中ずっと考えていた。

 どうやって、白井のパンツを手に入れようか?

 鳴海の貧困な発想力ではこの二択が限界だった。


 1、どうにか説得してパンツを手に入れる。

 鳴海がパンツを手に入れなければならない理由を説明して、相手を納得させる必要がある。しかし、馬鹿正直に「神様にパンツを取ってこいと言われました」とありのままの事実を伝えれば、おまわりさんコース、もしくは精神科コースのどちらかだろう。それは絶対避けなけばならない。難易度は相当高いし、かなり高レベルな話術が必要だろう。


 2、盗む

 これは論外だ。犯罪を起こすつもりはないし、そもそも盗む方法も思いつかない。


 鳴海は消去法でプラン1を選択した。入学して間もないので、できるだけ目立たずトラブルを避けたかったが、悠長に考えてる暇などない。勇気を振り絞り行動を起こさなければ待ち受けるのは無慈悲な死だ。


 しかし、これは難題だ。白井とはあまり接点がないしほとんど話したこともない。

 いや、仮に仲が良かったとしても難しいだろうけど……


 何はともあれ善は急げだ。鳴海は休み時間に白井に「放課後にちょっと話があるんだけどいいかな?」と伝えた。すると白井は「うん、いいよ」と返事をしてくれた。


 オーケー。まずは第一段階クリアだ。鳴海はターゲットの接触に成功した。


 放課後の教室で二人きり

 告白の時のありふれたシュチュエーションだ。だがこれからすることは告白よりも、はるかに難易度が高い。鳴海と白井は一つの机に向かい合うように座っている。


「鳴海くん、話って何かな?」


「単刀直入に言おう。君のパンツを譲ってくれないか?」


 鳴海はさらっとその言葉を口にした。ここで怖じ気ついてはいけない。

 おどおどすれば、変態感がましてしまうので紳士的に威風堂々とした振る舞いが重要となってくる。


「何言ってるの? 大丈夫?」


 白井がどん引きした表情で鳴海を見た。まあ当然の反応だ。この辺は想定内なので特に問題ない。


「大丈夫、俺は正常だ。どうかな、もちろんただとは言わない。君のパンツの元値より良い金額で買い取る」


「本当に気持ち悪い……、ありえないんだけど」


 普通の人間なら心が折れ膝から崩れ落ちて号泣するだろう。しかし、鳴海は違った。

 生死の瀬戸際に追い詰められた生き物には想像を絶するほど強靱な精神力が宿る。

 己の言ってることは何一つ間違っていないと強力な自己暗示をかける。


「気持ち悪い? それはどういう意味かな。白井は俺がパンツを手に入れて気持ち悪いことするとでも思っているのか?」


「馬鹿じゃないの!? それ以外に何があるの?」


 白井が声を荒げて言った。


「静かにしてくれ。人が集まってきたらどうするんだ? その点に関しては安心してくれ。俺はパンツを手に入れて常人が想像もつかないほどの異常な行為をするつもりはない」


「そんなわけないじゃない! 私のパンツを手に入れてどうするつもりよ!?」


「別にどうもしないさ。ただ訳を話すと長くなる」


 鳴海はパンツを入手しなければならない理由をどうやって説明するか最初は悩んでいた。

 しかし、適当に話をでっち上げてもボロが出る可能性が高いと踏んだ。だからあえてパンツが必要な事情を説明しないことにした。


「マジ無理、本当に気持ち悪い……」


 こいつは気持ち悪いしか言うことができないのだろうか?


 そもそも、自分のパンツが必ずいかがわしいことに使われると信じて疑わない発想のほうが気持ち悪いと思ったが口にしなかった。下手なことを言って、相手を怒らせ交渉決裂するのはなんとしても避けたい。


「なるほど、白井が俺のことを気持ち悪いと思っているのは十分わかった。俺もそれを受け入れるとしよう。それで本題なんだが、どうかな一万までなら出せるんだが?」


「嫌に決まってるでしょ! 死ね!」


「馬鹿な、まさか一万を超えるほどの高価な下着を履いているのか!?」


 もし、そうだとしたら鳴海の敗北は決定する。


「いや、違うけど……、って、そういう問題じゃない!」


「どういうことだ? 俺の取り引きに応じれば今、身につけている下着より良い物が買えるんだぞ? 白井にとってメリットしかないはずだ。なんなら……」


 鳴海は最後まで話すことができなかった。

 なぜなら話してる途中に交渉相手が急に立ち上がり、右手で強烈なアッパーを放ったためだ。

 立ち上がる勢いと、体重を乗せたアッパーは鳴海を吹き飛ばした。


「死ね」


 白井は汚物を見るような目で鳴海を見下し吐き捨てるように言った。

 白井が立ち去り教室のドアを強く閉める。ピシャンと強く締められたドアの音が殴られた左頬に響くような気がした。


「どうしてこんなことに……」


 終わった

 こんなに嫌われた相手のパンツを入手するのはおそらく不可能だろう。


 1週間後に神の裁きを受け鳴海は絶命する。

 そして、生まれ故郷の北海道は地獄の業火で焼き滅ぼされる。


 ごめんな、北海道のみんな

 鳴海が絶望に打ちひしがれていると突然教室のドアが開いた。


 そして女子生徒が入ってくる。

 一瞬、白井が考え直してパンツを譲ってくれるのかと期待したが違った。


 教室に入ってきたのは長い黒髪の生徒だった。顔の作りは美人だが目の下のクマが濃く少し不健康そうに見える。黒髪の生徒は真っ直ぐと鳴海を見つめると口を開いた。


「どうやら、お困りのようだね」


 そう言い放った黒髪の生徒の両手には手錠がかけられていた。

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