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最終話 おパンティ同好会へようこそ

 鳴海は浜辺に来ていた。

 そして、慣れた動作でパンティ様を召喚する。激しい雷鳴が轟くと共にパンティ様が降臨する。


 端整な顔立ちをした金髪美人はあいかわらず、女神のような美しさだった。


 目をつぶっていたパンティ様がゆっくりと瞼を開け鳴海を見る。


「見違えたぞ少年よ。今のお前には滝を登りきった鯉のような気迫に満ちあふれている。言葉を交わさずともわかる。ついに手に入れてきたのだな?」


 鳴海はポケットから、パンツを取り出しパンティ様に献上する。


「パンティ様、これを」


「うむ」


 パンティ様は鳴海からパンツを受けとると、目をつぶり呼吸を整え出した。そして、右手に掴んだパンツを鼻に近づけ深呼吸をする。


「こっ、これは!?」


 先ほどまで穏やかな顔をしていたパンティ様が突然開眼する。そして、ハァハァと獰猛な獣の如く呼吸が荒々しくなる。


「良い! すごく良い!!! 素晴らしい!!! 秀逸だ!!!! 劇的に良いぃぃぃ!!!!!!!!」


 パンティ様は雄叫びを上げた。

 そして幸福の頂きに達したパンティ様はパンツを顔面にかぶせ、両手を挙げ天を仰いだ。


「これだ……、私が求めていた真実はこれだ……、私はなんて未熟者だったのだ。まさかこんな世界があったとは」


 パンティ様の被っていたパンツが鼻血でみるみる赤く染まり出す。しばらくして、落ち着きを取り戻したパンティ様が鳴海を見て敬礼をした。


「少年よ。大義であった。お前のおかげで私は愚かな自分を見つめ直すことで、真実にたどり着くことができた。感謝する」


「いえ、もったいないお言葉」


「約束通りお前は自由の身だ」


「はい!」


 鳴海はようやく悪夢から解放された。本当に長い1週間だった。何度も心が折れかけたが、それでも前に進み勝利を掴みとった。ずっとこの瞬間を待ちわびていた。これで、やっと平穏な日常に戻れる。そう思うと自然と顔がほころんだ。


「それにしても、お前は本当によくやってくれた。私の部下に欲しいくらい優秀な人材だ」


「ありがとうございます」


「もし、次合うようなことがあれば共にパンティーの道を極めようではないか」


 嫌です

 鳴海は否定も肯定もせず静かに微笑んだ。


「さらばだ少年よ。なんだか名残惜しいな……」


 パンティ様が鳴海に背を向け海の方へと一歩、二歩と歩き出した。身体が徐々に透明になり景色と溶け込んでゆく。完全に姿が消えるまで、後少しのタイミングでパンティ様が口を開いた。


「少年よ、最後に聞かせてくれ」


「何ですか?」


「パンティは好きか?」


「まあ、嫌いじゃないです」


「……そうか」


 去り際のパンティ様の声音はとても優しかった。








 あれから、約1週間がたった。

 鳴海は平穏な日常を送っていた。

 試練を達成した後も、日暮とゼロとは交流があり、いつの間にかよく遊ぶ友達になっていた。人生本当になにが起きるかわからないものだ。


 この2人とはパンティ様の一件がなければおそらく、関わることはなかっただろう。そういう意味ではパンティ様の試練に鳴海は感謝していた。


「いってきます」


 家を出た鳴海は学校へと歩を進める。

 今日の放課後も日暮、ゼロの3人で集まり遊ぶ予定だ。何して遊ぼうか考えるもさっきから、鳴海の後ろで、ずっと咳をしている人物が気になって集中ができなかった。


 わりと近い距離で2〜3分以上ずっと咳き込んでいる。わざとじゃないかと思うくらいしつこい。いい加減鬱陶しいなと思い、鳴海は振り向き正体を確認した。


 振り向くと、そこには白井がいた。白井は鳴海と目が合うと歩を早め鳴海と歩を同調させた。


「や、やあ……なるみ、久しぶりだね」


 白井がぎこちない様子で話しかけてきた。


「お、おう、久しぶりだな。咳大丈夫か? 生命の危機を感じるレベルだったぞ」


「大丈夫。たった今、急に治まった」


「そうか、それは良かったな」


「うん、良かった」


「……」


「……」


 気まずい


 鳴海はあの日以来、白井と一切会話をしていなかった。

 それも当然だ。必死にパンツをくれと懇願したあげく号泣したのだ。どの面下げて関われば良いのかわからない。そもそも、自分は白井にすごく嫌われている。鳴海はそう思いこんでいた。


「そ、そういえばさ」


 白井が沈黙を切り裂くように口を開いた。


「何だ?」


「日暮さんとゼロさんとはどう?」


「どうって?」


「いや、ほらあの。元気にしてるのかなというか、いつもと変わったことはないのかというか、なんというか……」


 白井はそわそわとした様子で落ち着きがなかった。

 それに、要領を得ずいまいち何を言いたいのわからなかった。


「別にいつも通りだよ。普通に話して、放課後に遊んだりするくらいで、これといって変わったことはないかな」


「そっか、よく遊んだりするの?」


「んー? ここ最近は毎日のように遊んでるな。みんな帰宅部の暇人だし」


「毎日のように!?」


 白井が驚いた顔で大きな声を出した。いや、驚く要素どこにあったんだよ?


「まあそうだな」


「へ-、そうなんだ」


「……」


「……」


「……何して遊んでるの?」


「うーん、別に普通だぞ。飯食いに行ったり、買い物行ったり」


「他には?」


「カラオケ行ったり」


「他には?」


「ボーリング行ったり」


「他には ?」


 何これ?

 いつまで続くの?

 鳴海は尋問を受けてるような気分になっていた。


「うーん、あとはアリジゴグ捕まえに行ったり」


「アリジゴク!?」


「なんだお前アリジゴクも知らないのか?」


「いや、驚いてるのそこじゃないから! 知ってるわよアリジゴクくらい。ウスバカゲロウになる奴でしょ?」


「はあ? 何だその訳のわからない生き物!? アリジゴクはアリジゴクだぞ」


「あんたアリジゴクが何かわからずに捕まえてたの……」


 え? 何が言いたいのこいつ?

 ウスバカゲロウって何だよ?

 訳のわからない呪文みたいなの唱えやがって


「って、今そんなことどうでもいいの! 他には?」


「他にはって言われても、そんくらいだよ」


「いや他に何かあるでしょ! ほらもっとこう。家で出来そうなやつとか」


 一体何を求めてるんだこいつは?


「そんなこと言われても、あー、あれかオブラート早食い神経衰弱」


「なにそれ!? 知らないわよそんなの!? あなた達の独自の文化押しつけないでもらえる?」


「いやだってお前が家でできそうなものって言うから」


「ほら、もっとこうあるでしょ。手先とかよく使う遊び」


「うーん、だとしたらゲームくらいかな」


「それよ!」


 白井がザッツライトと言わんばかりにビシッと鳴海を指さす。


「そういえば最近ゲームやってなかったな。今日は久々に集まってゲームでもするかな」


「……もしよけば私がゲームのコツ教えてあげてもいいわよ。ほら鳴海くん下手でしょ。あれじゃ、いつまでたってもあの二人にはかなわないわよ」


「ああ、大丈夫。あの二人にビシバシ鍛えられたら普通に上達したわ。互角とは言わんが一泡吹かせるくらいには強くなったぜ」


「そう……」


 さっきまで無駄にエネルギッシュだった白井が突然シュンとして俯いた。


 ん?

 もしかして、こいつ一緒にゲームしたいのか?


「良かったら、白井も今日一緒に遊ぶか? 大人数の方が楽しいし、俺の腕も上がりそうだし」


「行く!」


 白井の顔がパアと明るくなった。わかりやすいなこいつ


「オッケー、それじゃあ放課後な」


「うん、それと何か突然私のアドバイスが必要な時が訪れるかもしれないから、一応連絡先も交換しておこうか?」


「お、おう、そうだな」


 やけにやる気だな、こいつ

 それにしても、白井には思いのほか嫌われていなかったらしい。絶対嫌われたと思ったが本当に良かった。あんだけ、失礼なことをしたのに心の広いやつだな。







 白井と話しながら歩いてるうちに学校に辿り着いた。鳴海は教室に入り自分の席に着くと、一限目の授業の準備をするため机の中をあさり教科書とノートを出そうとした。


 すると、1枚の手紙が出てきた。

 見覚えはないし、もちろん、鳴海の物ではない。誰かが入れたのだろう。


 手紙には可愛らしい、ハートのシールが張ってある。

 ついに自分にも春が来てしまったか。期待で胸が高鳴る。内心めちゃめちゃ嬉しいが、表情を崩さず冷静に装う。


 鳴海は周りをキョロキョロと見回した後、そっとシールを剥がし手紙を手に取った。

 手紙には可愛らしい手書きの文字でこう書かれていた。



『あなたの重大な秘密を知ってます。破滅を免れたければ放課後、補習室に来てください』



 一体どんな補習が始まるのだろう?

 鳴海は別の意味で胸の鼓動が早くなった。

 期待を打ち砕かれ頭が痛くなった鳴海は午前中の授業は寝て過ごすことにした。


 そして、放課後

 鳴海は補習室に向かっていた。

 正直、破滅するほどの秘密を抱えている覚えはないが、どうにも落ち着かなかった。ただの悪戯ならそれでいいのだが万が一もある。



 補習室に向かうと扉の前に日暮、ゼロ、白井がかたまって何か話し合いをしてる様子だった。


「あ、鳴海!」


 鳴海の存在に気づいた日暮がこっちを見た。


「お前ら、どうしてここに? もしかしてあの手紙お前たちの仕業か?だったら趣味が悪いぜ」


「やっぱり、お前にも手紙が届いてたか」


 ゼロが1枚の手紙を見せながら言った。見た感じどうやら鳴海と同じものらしい。


「え?もしかして、お前達も訳わからない手紙が届いたのか?」


 鳴海が3人を見ながら確認すると、3人ともコクっとうなづいた。


 手紙の差し主は自分たちのことを知っている?

 誰だ? 一体何が目的なんだろう?


「なんだろうねー、これ?」


「面白い、僕に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」


「悪趣味な悪戯よね。さっさと確かめてこの間の続きをやりましょう」


 白井はゲームのことで頭いっぱいな様子だった。


「そうだな」


 鳴海たちはドアを開け室内に入った。

 すると、がらーんとした教室には一人の人物がいた。


 嘘だろう……

 いやな予感しかしない……


 鳴海たちに背を向けていた人物がゆっくりと振り返る。女神のような金髪美人は元気な声でこう言った。


「待ちわびたぞ、諸君! おパンティー同好会へようこそ!」


 もしかすると、本当の悪夢はこれから始まるのかもしれない。鳴海はそう思った。

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