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第13話 はなちん


「まずは、あなたから蹴散らしてあげるわ」


 白井がゼロを指さして言う。


「己の実力もわからず強者に挑むとは愚かだな」


 ゼロが余裕の笑みを浮かべる。このゲームは最高4人対戦だが、白井は馬鹿にされたことに気に食わなかったのが1対1(タイマン)勝負を挑んだ。


 この2人は圧倒的な強さを誇る廃人ゲーマーだ。負ける要素はどこにもない。鳴海は約束された勝利を目の前に口元が緩むのが抑えられなかった。気分が高湯した鳴海は皿の上にあるオブラート数十枚を鷲づかみにして口の中に放り込んだ。


 ゲームを起動し操作キャラ選択画面が表示される。


「さくっと片付けてるか」


 ゼロがあくびをかきながら言った。

 白井は鼻歌を歌いながら、「定時上がりのホワイトヘイズ」というキャラを選択する。

 見た目は爽やかな笑顔の普通のサラリーマンだ。他のキャラに比べて華奢な体をしており、いかにも弱そうなキャラだった。


「おいおい、そんな社畜力の低い雑魚キャラで僕に勝つつもりか?」


「私ホワイトヘイズ使いなの」


「ゼロ、俺のためにもさくっとやっつけてくれ」


「楽勝だ。目をつぶっても勝てる」


 ゼロが片手を上げてひらひらさせる。

 そして試合が始まる。


「ほう」



「以外とやるじゃないか」



「ちょこざいな」



「くっ!」



「……」



 ゼロの口数が減っていき次第に無言になっていく。



 そして、


「私の勝ちね。あれ、目をつぶっても勝てるんじゃなかったかしら?」


 白井が勝ち誇った顔でゼロを挑発する。


「ちょっと手を抜きすぎたかな。もう1回だ」


 ゼロがもう一度白井に挑戦する。

 しかし、ゼロの攻撃はまったく当たらずに一方的に攻められていく。

 ゼロは10連敗したあたりで苛立ちを隠せなくなったのか、


「だあっ!」


 とコントローラー床に叩きつけた。


「零ちゃん!? それ私のコントローラ-!」


 日暮が叫ぶ。


「馬鹿な、この僕が10連土下座だと。何者だこいつ……」


 ゼロがワナワナと震え青ざめる。


「嘘だろ? ゼロでも勝てないのか……」


 何でこんな強いんだよ!?

 想定外の出来事に鳴海も困惑した。


「ふっふーん♪」


 圧倒的勝利に上機嫌になった白井はオブラートを1枚を手に取り口の中に放り込んだ。


「次はあなたの番かしら?」


 白井が挑戦的な笑みを浮かべ日暮を見る。


「大丈夫! 零ちゃんのかたきは私が打つ!」


「頼むぞ、俺の未来はお前たちにかかってるんだぞ」


「任せろ、親友!」


 しかし、白井の圧倒的強さの前では日暮でも歯が立たなかった。


「何で、何で? こんなに攻撃が当たらないの!?」


「あなたの動き手に取るようにわかるわよ。はいっ、フィニッシュ!」


 日暮が操作していた屈強な体をした男が地面にめり込むほど、無理矢理土下座させられ画面に敗北の文字が浮かぶ。


「強すぎるよ……」


 日暮は力尽きたようにテーブルに突っ伏した。


「お前まさか『はなちん』か?」


 静かに試合を見守っていたゼロが口を開いた。


「あら、今頃気づいたのかしら」


「やっぱりか、相手の行動パターンを把握し無力化するその動き、まさかとは思ったが」


「は?、何だよ『はなちん』ってさっきから何の話をしてるんだよ」


「あっ! 知ってる。そういえば私、動画で試合見たことある。世界ランカー2位の実力者! ホワイトヘイズ使いの『はなちん』」


「何だと!? お前モブキャラっぽい見た目して、そんな特技があったのか!?」


「こらっ、モブキャラ言うな」


 嘘だろ?

 せっかくパンツを手に入れるチャンスだと思ったのに

 まさか相手がよりよって世界ランカーとは……


「あなた達まとめてかかってきてもいいわよ? 世界ランカーの圧倒的な強さを味わわせてあげる」


 最後まで諦めるな。まだチャンスはある!

 完全に舐めてる白井を数の暴力で潰してやる。

 今こそ、3人の結束力を見せる時だ!


「望むところだ! 僕を舐めたことを後悔させてやる! 行くぞレナ!」


「うん、私と零ちゃんの最強のチームワークを見せてあげよう!」


「俺も微力ながら力になるぜ!」





 結果は惨敗だった

 白井の操るホワイトヘイズは異次元の動きをして鳴海たちを翻弄し圧倒的な勝利を収めた。さすが世界ランカー格が違いすぎる。


「2人ともけっこう強かったわよ。久しぶりに良い戦いができた。でも、私には遠く及ばないわね」


 ゼロと日暮はぐったりとテーブルに突っ伏したまま微動だにしない。まるで闇のゲームの敗北者のようだった。


「すっきりしたし、それじゃあ私帰るわね」


 白井は体を伸ばしストレッチした後、立ち去ろうとする。


「待て、白井!」


 鳴海は白井を強く呼び止めた。


「何?」


「頼む。パンツをくれ」


「はあ、負けた分際で何言ってるの?」


「頼む、この通りだ」


 鳴海は白井に土下座し懇願する。


「嫌よ、気持ち悪い」


「くれよぉ! どうしてパンツくれないんだよ!!!」


「大きな声出さないで、何でそこまでしてパンツ欲しがるわけ!?」


「だから、言っただろ!? お前のパンツがなければ俺は死ぬんだよ! 北海道も地獄の業火で焼き滅ぼされる」


「また、そのくだらない嘘?」


「頼む、くれよぉ……、もう、お前しかいないんだ……、もう本当に後がないんだよ……」


 鳴海は弱々しい声で言った。


「え、ちょっと、そんな泣かなくてもいいじゃない!?」


 鳴海は白井に言われて初めて自分が泣いていることに気がついた。


「だって、だって……、本当なんだよ。信じてくれよぉ」


 白井は鳴海をじっ見つめた後、


「……わかった。あげるわよ」


「えっ、本当か?」


「そこまで必死に懇願されたら断りにくいわよ。まあいいわ、今日はそこそこ楽しかったしめたし。そのお礼ってわけじゃないけど今日は特別にあなたの嘘にのってあげるわ」


「ありがとう、ありがとう……、お前は本当に命の恩人だ」


「お礼はいいからちょっと後ろ向いてて、恥ずかしいから……」


 白井は顔を赤らめながら言った。


「ああ、わかった」


 鳴海は素直に従い後ろを向いた。するっと衣擦れの音が聞こえる。


「もう、いいわよ」


 そう言われて、鳴海は白井のほうへ向いた。白井は顔を真っ赤にし視線を横にずらしている。


「はい」


 そして、右手を差し出しゆっくりと拳を開いた。

 手のひらに載せられた純白のパンツはまるで聖なる光を発してるかのように輝いて見えた。


 ついに

 ついに目的のもの手に入った。

 悪夢のような1週間からやっと解放される。


 そう思うと、涙が溢れだし止まらなかった。

 鳴海はパンツに手を伸ばしそれをしっかり掴んだ。


「暖かい」


 鳴海がポツリと声を漏らすと、


「はあ!? キモいこというな!」


 と日暮は恥ずかしそうに叫んだ。


「優しさが身にしみる」


「だから、キモいこと言うなって」


 そう言った日暮の顔は少し微笑んでいた。

次の話で最後になります。

ここまで、読んでいただきありがとうございます。

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