第1話 不可視の略奪者
「犯行方法不明、そして一切証拠を残さない。ある被害者は盗れたことにすら気づかず、いつの間にかノーパンだったと言う。そんなことがあり得ると思うか、なあ少年よ?」
「さあ、どうですかね」
鳴海は見知らぬ警察官に絡まれていた。学校の帰り道、近場に海があると知っていたので、ただなんとなく寄り道をしようと思ったのが間違いだった。
道路沿いの歩道からぼーっと海を眺めていたら、突然警察官に声をかけられた。最初は当たり障りない世間話をしていたのだが気がつけば話が日頃の愚痴にシフトしていた。
「全く、とんだ変態野郎だよ。ただでさえ忙しいのにこれ以上仕事を増やさないでほしいもんだ」
警察官が腕を組みながら不満げに語っていた。
ただでさえ疲れてんのにこれ以上話しかけてくんなよ
「そうなんですか、大変ですね」
適当に相槌を打ってどうにか話を終わらせようと試みるも警察官は喋り続ける。
「ちまたでは、不可視の略奪者と呼ばれていてな。そいつのおかげで俺は毎日残業だよ。もう本当に見つけたら絶対に処刑台に送ってやるって心に誓ったね」
「お勤めご苦労様です」
マジでいい加減帰らして
いつまで喋るのこいつ?
「ところで、少年よ。その制服セントバーナード高校の生徒だな? 実はな俺の娘も同じ高校に通っていてな。もし、見かけたら仲良くしてやってくれ。俺に似てものすごく純粋で良い子なんだが、ちょっぴり変わり者で中々友達ができないと嘆いていてな」
「わかりました」
「そうかありがとう! 心優しき少年よ! それではまた会おう!」
いや、できればもう会いたくないです
鳴海の返事に満足した警察官は満面の笑みでぐっと親指を立てると自転車を漕ぎ去っていた。
ようやく解放された
さっさと家に帰ろう。そう思った時だった。
ふと浜辺を見ると、一人の女性がポツンと立っていた。
白いワンピースに少し変わったデザインの帽子をかぶっている。腰まで伸びたキレイな金髪にすらっとしたモデルのような体形をしている。
後ろ姿しか見えないが美人オーラがハンパじゃない。
もっと近くで見てみたい。願わくば仲良くなりたい。淡い期待を胸に抱き鳴海は歩き出した。
たまたま近くを散歩してただけですよ感を出しつつ金髪美女に近づく。
そして、顔がはっきり見えるほどの距離に辿り着いた。
海を眺める金髪美女、横顔しか見えないが鳴海の予想通りとんでもない美人だった。
いや、むしろ想像を遙かに超えていた。16年間生きてきたが、こんな美女は見たことがない。まるで女神だ!
ただ……
様子が少しおかしい
いや、めちゃくちゃおかしい
まず、遠くから見たとき帽子だと思っていたそれは帽子ではなく、パンティーだった。オーソドックスな女性物の白い下着。
さらに金髪美女の右手には黒いパンティーが握られてる。
そして、右手に握りしめたパンティーを鼻に当てて、まるで酸素マスクを吸うようにスーハー、スーハーと深呼吸をしている。
「いやぁ、潮風に当たりながら嗅ぐパンツの匂いもまた乙なもんですなぁ」
金髪美女が恍惚の表情を浮かべながら言った。
お巡りさん、こいつです
根拠はないけど、こいつがちまたを騒がせている不可視の略奪者で間違いない
そうとしか考えられない
110番をしようとスマホを取り出した時、金髪美人が鳴海の存在に気づく。
目が合うと、金髪美女は左手で頭に被っていた白いパンティーを外し
「少年よ、お前も1枚どうかね?」
とパンティーを差し出してきた。
いや、どうかねじゃねえよ
なに共犯者にしようとしてんだ
「いえ、けっこうです」
「案ずるな、鮮度は抜群だ」
「いや、そんな心配してないわ! この変態め! 俺の期待と胸のドキドキを返せ!」
ダメだ、こいつ早くなんとかしないと……
しかし、いつまでたっても110番に繋がらない。
「通報しようとしたって無駄だ。私の力を使えばその端末の力を無力化することなど造作もない」
「いや、お前何者だよ!?」
「神だ」
やべー、ガチなやつじゃんか
いるんだよなー、春の季節になると頭お花畑になっちゃうやつ
スマホを見ると圏外になっていた。クソ何でこんな時に限ってつながらないんだよ!
さっきまでアンテナマックスだったのに……
「お前さては信じてないな」
「当たり前だろ! 子供でもそんなの信じるか」
「仕方ないな、馬鹿にでも分かるように力を見せてやる。ほれっ」
何言ってんだこのアホ
そう思った時だった。鳴海の前で信じられない光景が繰り広げられる。