ACT4 十年後
ACT4 十年後
カウンターにいるのは貴美子。
昔ながらの器具を使って、珈琲豆を挽いていた。
お湯の沸騰する音。
貴美子 お湯止めてくれる?
一人の男が出てくる。
よく見ると先ほどの青年のようだ。
ずいぶん年月が経ったようだが、
昔の面影を残していた。
和馬 ああ。
和馬、コンロの火を止める。
貴美子 ありがとう。
和馬 来るかな?
貴美子 来るよ、必ず。
和馬 ああ。
そして……。
店の木で作られた扉が開く。
扉に付けられた風鈴の音が響く。
一人の男が入ってくる。
貴美子 お待ちしてました。
男 ?
男、ふと足を止めて、
飾られている絵を見つめる。
和馬 僕が描きました。
男 君が?
和馬 彼女が二人にして欲しいと言ったんです。
男 ……ありがとう。
貴美子 ひとりぼっちは嫌ですから。
男、少し流れた涙をふき取り、
貴美子を見る。
貴美子 静香さん、奥で待ってます。行ってあげてください。
男 ああ。
男、奥に向かう。
貴美子と和馬それを見守る。
向こうから静香の感涙の声。
貴美子と和馬、目を合わせ、少し微笑む。
貴美子 やっとで完成したね。
和馬 ようやくね。
貴美子 この景色だったんだね。
和馬 そうだな。
貴美子 次はどんな景色を描くの?
和馬 さぁ、まだわからない。
貴美子 そっか。
和馬 そのうちね、見つかるよ。
貴美子 なにが?
和馬 俺らが見たい景色。
二人は、飾られた絵をみつめる。
何処かの街。
新興住宅が立ち並ぶ。
遠くから電車の走る音。
自転車のベル。
子供のはしゃぐ声。
どこの街にもある風景。
日常。
そんな言葉が当たり前のように過ぎ去っていく。