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いつか見た景色  作者: 恋風路とも依
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ACT3 いつかみた景色

         ACT3 いつかみた景色





雨は止んだ。

ラベンダーティーのおかげだろうか。

しかし、貴美子にとっては、

天気よりも何よりも、心配なことがあった。


目の前に見える一枚板の扉。

一昨日よりも、

昨日よりも増して、

重く感じる扉。

貴美子は扉を開けて、店内に入った。


そこには、カウンターでうつむく静香と、

テーブルに腰掛けた老人がいた、

老人のテーブルには、あの絵が置かれていた。


貴美子   どうして……。


貴美子がつぶやくと、

老人は貴美子を察してか、話し出した。


老人    繰り返さないためだよ。お嬢さん。この絵を捨てて、全て捨てて、これで終わりだ。

貴美子   まだ終わってないのに……。

老人    終わらせるんだ。

貴美子   こんな終わり方でいいの?

老人    いいんだ。

貴美子   静香さん。

静香    ……。

貴美子   静香さん。

静香    いいの、もう。

貴美子   そんな…もうすぐ来るのに……。

静香    誰が?

貴美子   この絵を写したいって言う人が来るの。

静香    そんな……。

老人    ならなおさらだ。もう繰り返すわけにはいかない。

貴美子   お願い!

老人    駄目だ!

貴美子   どうして?

老人    もう嫌なんだ。

貴美子   娘さんのこと?

老人    ……どうして……

貴美子   わからない。わからないけど知ってるの。

老人    じゃあ、わかるだろ。繰り返したくないんだ。

      この絵が、この絵が悪いんだ。ずっと待ちぼうけだ。

静香    あの人は……

老人    そう言って何年経つ?

静香    ……。

老人    わしの娘もずっとそう言って、いつのまにかお前まで置いて逝っちまった。

      こんな景色あるわけないだろう。

静香    ……。

貴美子   無いなら作ればいい。

静香    え?

貴美子   無いなら作ればいい。せっかく知ってるんでしょ?変えちゃえばいい。

老人    そんなこと……

貴美子   できる。

静香    ……。

老人    無理だ。

貴美子   彼は、あの景色の向こうにいるよ。

老人    景色の向こう?

貴美子   景色がここにあるなら、なんだってできる。

静香    ……貴美ちゃん?

貴美子   静香さんも一度は考えたんでしょ?景色のせいなら景色を変えればいい。

静香    でも……。

貴美子   景色が変わってわかることもあるからさ。

静香    え?

貴美子   少なくとも私はここに来て変わったと思うから。

静香    おじいちゃん。

老人    駄目だ。

静香    彼女も、私も大丈夫。

老人    でもな。

静香    大丈夫。


老人、絵から手を離す。


静香    きみちゃん。

貴美子   うん、知ってる。

静香    そう。

貴美子   彼、もうすぐここに来る。

静香    あのね?この絵の描いた人……

貴美子   静香さんの恋人?

静香    ……

貴美子   その人と出逢ったのもここでしょ?

静香    うん。

貴美子   今から来る人もこの絵を描き写す。

静香    そう。

貴美子   大丈夫、一人ぼっちの絵にはさせないから。

静香    ……ありがとう。

貴美子   来た。


扉の開く音。

扉の鈴が揺れる音。

一人の青年が入ってくる。


静香    いらっしゃい。

貴美子   ……。

和馬    ……。

貴美子   いらっしゃい。

和馬    ……。

貴美子   こっちに来なよ。そこにいたって珈琲は出てこないよ。


青年は、カウンターに向かう。

が、ふと足を止める。

青年の視線の先には、一枚の絵が飾られていた。

どこかで見たことのあるような、

でも見たことのない不思議な景色。


貴美子   きれいでしょ?

和馬    名前は?

貴美子   いつかみた景色。

和馬    いつかみた景色?


青年は絵に見入っている。

貴美子も静香もどこか絵の向こうにある

遠くの景色を見つめている。

静香    ほらっ、こっち来て。今おいしい珈琲いれるから。

和馬    ……はい。

貴美子   ねぇ。

和馬    ん?

貴美子   あなたって、絵描いたりする?

和馬    描くけど……なんで?

貴美子   お願いがあるの。


貴美子、青年の手を引いて、

カウンターテーブルに座る。

静香、少し流れた涙を拭いて、

カウンターに戻る。

老人もいつもの席に戻る。


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