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いつか見た景色  作者: 恋風路とも依
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ACT2 一ヵ月後

         ACT2 一ヵ月後





何処かの街の喫茶店。

カウンターに女が一人。

カウンター越しの客席に少女が一人。

もちろん静香と貴美子だ。


貴美子   最悪。

静香    そう?

貴美子   この一ヶ月ばたばたしてて、好きなことなんて何一つ出来なかった。

静香    ここに来ることは好きじゃないと?

貴美子   いや、そういう意味じゃ......。

静香    私の珈琲は美味しくないと?

貴美子   そんなこと言ってません。

静香    そう?それは、ありがと。

貴美子   なんだかなぁ。

静香    はい。


静香、今日はハーブティーを出す。


貴美子   うわぁ、綺麗な色。

静香    でしょ?あたしの自信作よ。

貴美子   この香り。

静香    ラベンダー。

貴美子   へぇ。

静香    これ飲めばね、そんな気持ちどっか吹き飛ぶわよ。

貴美子   そうなんだ。

静香    そっ。

貴美子   静香さん。

静香    何?

貴美子   作り方教えてくれる?

静香    え?

貴美子   家で作ってみようかなぁって。

静香    それじゃ、うちで出す意味ないじゃない。駄目。

貴美子   えー、けち。

静香    けちで結構。

貴美子   残念。

静香    (少し笑って)そう言えば、きみちゃん友達できた?

貴美子   え?

静香    学校。

貴美子   …うん。

静香    どうかした?

貴美子   もう出来上がってるところに入り込むのはね。

静香    ああ。そうね。難しいね。

貴美子   うん。

静香    早くいい男とっ捕まえるんだよ。

貴美子   なんでそっちの話になるの?

静香    もうあたしが若い時なんてそこら中の男をバッタバッタと。

貴美子   ふ~ん。

静香    あらぁ、リアクション薄い。興味ない?

貴美子   いや、そういうわけじゃないけど。

静香    そう?


貴美子は絵を見つめる。

静香はそんな貴美子を見て、


静香    最近ずっとそうね。

貴美子   なにが?

静香    気がついたらあれ見てる。

貴美子   だって好きなんだもん。

静香    そう。

貴美子   なんか吸い込まれそうで。あんな景色の中にいたらどんな気持ちだろ。

静香    …。


扉の開く音。

扉の鈴が揺れる音。

一人の老人が入ってくる。


静香    いらっしゃい。

老人    ふん。


老人、自分の席だと言わんばかりに奥のテーブルに座る。

静香、珈琲を作り、持っていく。


静香    はい。


      静香は音も立てずに珈琲をそっと置いた。


老人    また戻したのか?

静香    いいの。

老人    おまえの母さんもそんなこと言ってた。でもな、そんなことしてても…。

静香    わかってる。

老人    何度繰り返すつもりなんだ。


その時、お湯が蒸発する音がする。


貴美子   静香さん、火。

静香    あー。

貴美子   止めるよ?


貴美子、カウンターに回り、

火を止める。

ふとカウンター越しの景色を見る。

いつかみた景色。


貴美子   あれ?

静香    ?

貴美子   ......あれ?

老人    !

貴美子   いや、こういうの前にあったような気がして。


静香と老人、顔を見合わせる。


貴美子   なんだったけなぁ。

静香    ありがと。いいよ。ほら、戻って。

貴美子   あ、それなんか言われた。こういうのデジャヴっていうんだよね?

      こんな長いの初めてだ。

静香    …そう。

老人    ほらみろ。俺は知らないぞ。

静香    ……。


老人、珈琲を残りの珈琲を飲み干し、

帰ろうとして、

少し躊躇して、

絵に手を伸ばす。

貴美子   駄目!

老人    !

貴美子   駄目、その絵は取らないで。

静香    !?

貴美子   なにこれ…まだ続いてる。

静香    ……。

老人    この絵は捨てるんだ。

貴美子   どうして?

老人    悪いな。お嬢さん。あんたには関係のないことだ。

貴美子   ……。

老人    この絵は……

貴美子   (老人の言うことを先読みするように合わせて)危険?

老人    ……言葉もいらないか。


老人はしばらく貴美子を見ていたが、

突然、諦めたかのように、入り口の扉に向かう。

扉に手を掛けて、うつむく静香に向かって、


老人    明日また来る。

静香    ……。

老人    そのお嬢さんは何も関係がない。他人を巻き込むな。

静香    ……。


老人は静かに店から出て行った。

静香は、うつむいたまま。

貴美子は、ふと絵をみつめる。


貴美子   静香さん。

静香    ごめんね。意味わかんないよね。

      あのおじいちゃんちょっとおかしいの。気にしないで。

貴美子   うそ。

静香    え?

貴美子   なんだろう。おかしいことなんて一つもない。

      知ってるの。デジャヴとかそういうのじゃない。

      どっかでみたことある。そんな感じ。

静香    ……。

貴美子   静香さん。あの絵って……。

静香    私の時と一緒ね。

貴美子   ずいぶん前……。

静香    そうね。ずいぶん経つわ。

貴美子   これを描いた人?

静香    正確に言えば、写したの。これの前に同じような絵があってね。

貴美子   一人ぼっちの絵。

静香    そうね……。待ちぼうけだわ。

貴美子   静香さんはその人が帰ってくるのを待ってるんだ。

静香    そうね。でも…待ちくたびれたわ。これじゃ母さんと一緒ね。

貴美子   じゃあ、静香さんのお父さんが?

静香    そう。

貴美子   きれいな絵。

静香    きれい過ぎたのよ。

貴美子   え?

静香    こんな景色どこにもない。

貴美子   ……。

静香    もういいわ。やめましょ、こんな話。

貴美子   静香さん。

静香    今日はもう店閉めるよ。


静香は店を閉める準備を始める。

貴美子は、その絵を見つめている。

その景色の向こう側。

なにが拡がっているのか。

それは、きっとこの景色のどこか向こうにいる、

彼が知っているような気がした。


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