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真っ白な空間から飛ばされた俺は、気が付くと昔さながらの木造の建物が並んだ道の真ん中に立っていた。
「おぉ、ここが清州城下か」
現代の渋谷などに比べると人の数は少ないが、それでも戦国時代としてはかなり人が多い気がする。
織田家は交易で銭を稼いでいたという話もあるし、それに桶狭間を過ぎてるとなると、関所の関税も廃止しているだろうし、それで人が多いのもあるのだろう。
って、さっさと智哉に連絡しないと。
招待IDでやると紹介者が自動的にフレンドになるって智哉も言ってたしな。
なので早速智哉に連絡する。
えーっと……この葛城 裕哉ってのがあいつの名前か。
「えー……清州城下の初めてログインした時の場所の近くにいる……っと」
あとはこっちでのキャラの特徴を書いてっと。
まぁゲームをやるのはわかっているだろうし、すぐ来るだろう。
っと、さっそく返信が返ってき……はぁぁぁぁ!?
「清州に着くまであと三十分は掛かる……って嘘だろ!?」
そこで俺は気づいた。
このゲーム、転移装置とかは一切ないんだと。
ってことは今あいつは馬とかでかっ飛ばして向かってるんだろう。
てかこれもし甲斐とかの山国や雪国だと移動するだけでも大変なのでは……?
なんつーところをリアルにしてんだ運営!
仕方ないため、智哉が来るまで近くの露店を見ていた。
その後、連絡通り三十分後に智哉が来た。
智哉は俺と同様に黒髪ショートで基本の顔のパーツはそこまで変わらないのだが、何故か髪を立てていた。
「はぁ……はぁ……疲れた……」
「お、おう……お疲れ……」
馬から降りてグロッキーになっている智哉に背中を擦る。
正直すまなかったとは思っている。
しばらくして息を整えた智哉が改めて自己紹介する。
「ってことで、こっちでは葛城 裕哉って名前でやってる。裕哉でいいぞ」
「俺は毛利 スグルって名前にしたわ。よろしくな裕哉」
「おう、スグル。ってことで早速移動するか」
「移動ってどこに?」
「俺の上司に当たる人のとこにだよ。お前そっちの所属になるんだろ?」
そういえばそうだった。
裕哉の下に就きたくないから、裕哉の上司の下で部屋住みになるんだった。
「んで、どこに向かうんだ?」
「俺の上司が治めてるのが小幡城だ」
「おば……どこだそこ……」
「プレイヤー用に合わせて昔立てられてた城とかを復元してんだよ。だから架空の城とかもあるから知らねえのも無理ねえな。俺も知らなかったけどな」
「おい……」
「ともかく、距離としては一時間ぐらいで着くはずだ」
「一時間!? 徒歩でか!?」
「いやいや、アイテムボックスに馬が入ってるはずだ。それで呼べば召喚できる」
俺は言われた通りにアイテムボックスを開いてみると、本当に『馬(一般)』というアイテムがあった。
そのアイコンをクリックすると、召喚とあったのでそれを押してみた。
注意文として、周囲に人はいませんか。と出たので、周りを確認して了承を押す。
するとすぐ側に茶色の毛並みをした通常の大きさの馬が現れた。
「それに乗って移動するぞ」
「俺馬なんて乗った事ねえぞ!?」
「女には乗った事あんだろ」
「誰がうまい事を言えと!」
「馬だけにか?」
「はっ倒すぞお前!」
馬鹿な事を話していると、俺が呼び出した馬がヒヒーンと鳴いて催促する。
俺は慌てて呼び出した馬に乗る。
馬に乗った事がない俺でも、何らかのシステムアシストのおかげか、俺の馬が乗りやすいのかわからないが、無事乗ることができた。
それを確認した裕哉も自分の馬に乗って移動し始める。
比較的整備されている道を通り、裕哉の宣言通り一時間後に小幡城の城下町に着いた。
所謂支城というところなんだろう。
清州城下に比べてしまうと本当に小さいが、それでもそこらの街よりは賑わっていた。
これも城主の采配結果なのだろう。
「んで、お前の統治してる村はどこなんだよ」
「こっから十分ぐらい南に行ったところだ」
「へー、んで何人ぐらい兵いるんだ?」
「千石程度の小さな村だしな。大体十人ちょいってところだ」
「千石ってどんなもんだっけ……」
「大体四十石で兵士一人って考えりゃいいよ」
「つまりお前の場合は二十五人ぐらい雇えるのか。何で半分なんだ?」
「千石つっても非戦闘員の村人だっているしな。だから半分ぐらいにしてんだよ」
なるほど。
石高一杯雇えばいいということでもなく、村の内情も考えて雇うってことか。
裕哉から簡単な説明をしてもらいつつ、俺は小幡城内へと入っていった。
城内には武士以外にも、この場にに使わない人が何人か見えた。
ってことは、あれがプレイヤーか。
ぱっと見わかんねえなぁこれ……。
俺はそのまま裕哉に上司の元まで案内され、扉の前で一度止まった。
「よし、入るぞ」
「お、おう」
「ふぅ……失礼します。城南村の葛城 裕哉です! 友人を連れてきましたのでお目通り願います!」
「入れ」
「はっ!」
普段のだらけっぷりが嘘のような態度で話している裕哉に驚きつつも、俺と裕哉は部屋の中に入っていった。
「そいつがお前の友人か?」
「その通りでございます」
部屋の中には、巻物がいくつも置いてある机の上で今も作業をしている女性と、その護衛であろう小姓が側に控えていた。
女性は一度筆を置いてこちらを見る。
女性の少し目が吊り上がっているが、狐目というのではなく、広すぎず狭すぎない程度の目の大きさで髪は黒のロング。
そして青色が基調の着物を着ていた。
「私が小幡城城代の今井 咲夜だ。わかると思うがプレイヤーだ」
「裕哉の友人の毛利 スグルです。よろしくお願いします」
「ふむ……」
咲夜さんは俺をじっと品定めするように見ている。
「それで? そいつと一緒にいるのか、私の下に就くのかどっちなんだ?」
「流石にこいつとゲーム内も一緒は嫌なので、咲夜さんの下でお願いします」
「おまっ!? 言葉遣い!」
「よい。お前は調子に乗りそうだからきちんとさせてるだけだ」
「酷くないっすか!?」
「フフッ。なら認められるぐらいの事をしてみろ」
咲夜さんは軽く笑って裕哉にもっと頑張れと檄を送る。
「ではスグル。お前は私の部屋住みという形で働いてもらうぞ」
「わかりました。でも部屋住みって何をすれば……?」
「まぁ急に言われてもわからんよな」
そう言うと咲夜さんは説明をし始めた。
「通常の部屋住みと違って、プレイヤーに使われる部屋住みは少し意味が違ってくる。プレイヤーの場合にはその部屋住みの主の配下という形だ。だから主によっては、部屋住みに兵を預けて指揮させたりすることもある」
「じゃあ何で裕哉は部屋住みにならなかったんだ?」
「結局部屋住みだと主の気分や相性次第で全く出世が見込めないんだよ。兵を預けてもらえなければ活躍はできないしな。まぁ呂布みたいな一騎当千できるなら別だが。だからそういう主の場合見限って、別の主のところに行くとかが初期の頃はあったんだよ」
あー……。
結局兵を預けて下手に活躍されたりすると、その主の立場がなくなったりする事もあるのか。
そういうのを避けるためにそのまま、っていうのもあるわけだ。
「まぁ私はそういう事をせずに、活躍した者には周辺の村の統治や、正式に武将として上に推薦したりするから安心したまえ」
「ってことは裕哉が村の統治をしてるのは……」
「こいつの場合は部屋住みで兵持たせて鍛えさせるより、内政させた方が何故かうまくいってな。そういう意味で村の方に配置してる」
まぁあいつ内政系のラノベや漫画好きだしな。
「だが、兵の扱いも悪くはないのだ。ただうまくもなくてな……」
ここでも指導力が試されるとは……。
「だが内政寄りの城代として、いずれ採用されるかもしれないから多少は買ってるのだよ」
「お前良かったな」
「褒めてるのか貶してるのかどっちかはっきりして!?」
「ともかく、私の部屋住みとなるなら最初に足軽五名を預けている」
「何故ですか?」
「その足軽たちをうまく育てられるかを見ているのだ。ダンジョンに行って素材を集めて装備を整えてあげるもよし、自ら鍛えてやるもよし、好きにせい」
「部下が付いたってことですし、頑張ります」
「なら話は以上だ。後でお前に充てる足軽と、スグルの組の屋敷の案内をさせる。少し城内でも回ってろ。お前の所属する城なのだからな。歩いて配置を覚えろ」
「わかりました。では失礼しました」
「失礼しました……」
部屋を出た俺と裕哉はお互い向き合った。
「良い人じゃねえか」
「良い人だけどさ! 何でお前の当たりは優しいわけ!? 納得いかねぇ!」
少し目が吊り上がっててSっぽい上司っぽいイメージだったけど、実際話してみたら結構優しいし、見た目で損しちゃってるタイプの人なんかねぇ?
まぁ城内を回ってろって言ってたし、早いところ配置覚えねえとな。