男運は全くないわけじゃ無かったかもしれない。
短編「男運のない私。」の続編です。こちらのみでもお楽しみいただけると思いますが、良ければ前作も是非。
ある穏やかな午後、というには少々外が騒がしいようだ。
ここはとある皇国の後宮の一室。そして私は数百人もいる妃の一人。実家の身分も伯爵家というまずまずの家柄だ。まあ母親譲りの顔には多少自信はあるが、皇帝に会わずに一生を終える人も少なくないここでは、どこにでもいる平凡な女だと自負している。そう、ごく普通の・・・、
「ここ数日皇帝陛下がいらしてるみたいですよ。めったに来ない方だから、後宮中が大騒ぎみたいです」
扉を見つめていた私の視線に気づいたのか、侍女のニナが教えてくれた。
「そう、皇帝陛下が」
「えぇ、皆様何とか見初められようと必死みたいで、侍女仲間も大変そうでした。平和なのはここくらいじゃないですか?」
「そんなこともないと思うけど、数少ないうちの一つでしょうね」
「エレン様は、ほんと興味ないですよね。もしエレン様が陛下に見初められたら、私のお給料も上がるかもしれないのに」
「残念ね。その可能性は全くないわ」
ですよねー。そういうニナとは幼少期からの付き合いだ。
故郷から付いてきてくれた彼女には悪いが、私にその気は一切ない。私はここに皇帝陛下のハートをゲットするために来たのではない。26歳にもなって嫁ぐ気のない娘・・・つまり生き遅れの娘を心配した両親によって入れられただけであって、おひとり様生活を満喫するためにここにいるのだ。後宮の片隅で、かわいい女の子たちと仲良くできればそれで十分だ。
「そういえば、陛下は薄い金髪に翠の瞳の女性のところを順番に訪れてるそうですよ。あれ・・・、エレン様と一緒ですね」
ぎくっ。
「そ、そんな娘、いくらでもいるじゃない。それに私の姿絵濃い茶色の髪に茶色の瞳だし」
姿絵というのは何百人もいる妃の中から、皇帝がその日渡る妃を決めるためのものである。多くの妃と同じように賄賂を画家に渡さなかった私の絵は、実際の姿とは似ても似つかない姿で描かれている。
「そういえば、陛下がこちらにいらっしゃるようになったのって、先日エレン様が図書室から汗だくで戻ってきた日の夜からですね」
「そ、そう。ぐ、偶然ねー」
「エレン様」
「・・・なにかしら」
「なにがあったんですか」
何気に鋭い侍女の視線に負けた私は、あの日のことを話すこととなった。
「・・・皇帝陛下とばったりお会いしただけでなく、名を聞かれたのにごまかして帰ってきた!?」
「・・・てへ?」
「てへじゃないですよ。何してるんですか!下手したら不敬罪で罰せられますよ!」
「それは大丈夫だと思うわ。・・・多分」
ニナはため息をつく。もうちょっと敬ってほしい。そう思ったのが伝わったのかどう敬えばいいんですかといわれた。冷たい。
「陛下が捜されてるのはエレン様なのですね」
「・・・多分?」
「・・・で、どうするおつもりですか」
そんなの決まってる。
「絶対見つからないようにするわ。協力してね。ニナ」
だって私は平和を愛するごく普通の伯爵令嬢だもの。・・・令嬢と自称するのは、少々おこがましい年齢かもしれないが。
それから数週間。陛下はだいぶ苦戦しているようだ。それもそのはずで、私の姿絵はどう見ても私には見えず、またこの後宮で一番権力を持つ宰相令嬢である娘から目の敵にされている私の情報をわざわざ陛下に告げる者もいないだろう。私にチャンスを与えることになるのだから。
「ふふふふふ。・・・ふふっ」
「エレン様。ご機嫌ですね」
「わかる?」
「はい」
「どうしてか聞いてもいいのよ」
「聞いてほしいんですか」
素直じゃない侍女のために、私がご機嫌な理由を話してあげた。基本後宮は、警護もしっかりしてるため後宮内であれば供のものを連れて歩く必要はない。一人で何もできないお嬢様は別だが、私の場合、専属の侍女を彼女しか連れてきていないのもあり、別行動をとることが多い。
「クレアさまとお友達になったのよ」
「宰相家の分家の方ですか?」
そうなのよ。だから宰相令嬢には立場上逆らえなかったのよね。
「子猫みたいにかわいらしい方よ。図書館でね、ばったりお会いしたの。ほら今、宰相令嬢のジュリア様も、陛下の目に止まろうと必死じゃない?それでお暇だったみたい」
「よかったですね。以前から仲良くなりたいと言ってましたものね。あ、そういえ・・・
「そうだったわ!今日も約束してたんだった。いってくるわね!」
「エレン様」
ニナが何か言いかけたようだったが、かわいらしい少女との約束に気を取られていた私は気に留めることなく出かけてしまった。
鼻歌を歌いながら、約束の場所に向かっていた私は声をかけられた。もちろん、厄介な令嬢たちに会わないようにちょっと遠いが回り道をしていた。
「ご機嫌だな」
「ふふふ、そうな、の・・・」
浮かれていた私はニナに答えたのと同じような調子で、振り返って、そして固まった。
目の前にいたのは黒に近いと蒼い瞳を持つ青年だ。男子禁制のこの場所にいる男はだれか、考えればすぐにわかる。いや、考えなくてもわかる。だって私はこの方に、一度会ったことがあるのだから。
「見つけたぞ」
「・・・・・・皇帝陛下」
こちらに向かって歩いてくる陛下に、私は思わず後ずさった。しかし背中には壁があり、逃げ場がない。顔の横に腕を置かれる。なんですか、デジャヴですか。
「・・・どうしてこちらに」
「後宮に来ることは既に伝わっているはずだが、聞いてなかったのか」
もしかしなくても、あの時ニナが言いかけたやつか。何してるの私。
「どこにいた。随分と探したぞ」
「あの・・・、お顔が近くて恥ずかしいので少し離れていただけませんか?」
初心な少女を演じてみる。そう、クレア様ならこういう反応をするかもしれない。可愛いなあクレア様。
「そんなことしたら、またお前は逃げるだろ?」
「逃げるだなんて・・・。人聞きの悪いですわ」
私の言葉に、陛下は器用に口の端を片方だけ上げて笑う。
「逃げないと誓うか」
「ええ、勿論ですわ」
誓うって誰にかしら。所詮神なんていないわ。聖職者に聞かれたら激怒されそうな事を考えながら微笑む。
「わかった」
腕が外された、今だ!
「・・・なんて言うと思ったか?」
・・・逃げようとした私は、後ろから陛下に捕まえられた。腰に腕を回され、今度こそ逃げれない。何故か先程より距離が近い。逃げようとした罰なのか。ごめんなさい神様。お許しを。
「へ、陛下!?」
「嘘つき」
「ひゃっ?」
耳元で囁かれ、思わず変な声を出してしまった。
「あの、陛下!」
「もう逃がさない」
「せ、正式にお召しくださいとお伝えしたはずですが」
「同意した覚えはない」
いや、何ですか、何様ですか・・・・・・皇帝陛下様でした。
「・・・探したぞ」
小さく呟く声に思わず振り返ると、蒼い瞳と目が合う。
「・・・随分とこちらに来られてた様ですが、お仕事はどうされたのですか」
「死ぬ気で終わらせていた」
苦笑する姿に胸がとくんと音をたてた。
「どうして・・・」
「ん?」
「どうして、私なんですか」
身分は高くないし、年増だし、顔だって多少綺麗かもしれないが、皇帝ならもっと美人な人を手に入れることだって出来るだろう。
「どうしてだろうな」
「陛下」
はぐらかさないで欲しい。
「理屈が必要か?」
「・・・それは、」
腕の力を緩められた私は、陛下と正面から向き合う形になる。
「気づいたら好きになっていた。隣でお前に笑ってて欲しい」
「・・・」
「駄目か?」
出会った時から俺様な人が急に不安げに聞いてくる。
「・・・ずるい」
恥ずかしくなってきて思わず目の前の胸に顔を伏せる。なんとなく伝わったのか、笑う気配がした。
「で、返事は?」
わかってるくせに。
「エレンです」
不思議そうな顔をする陛下にそう言い置いて、緩んだ腕の中から逃げる。
「正式にお召しくださいっ」
またもや呆気に取られて、そうして笑い出した陛下のお渡りがあったのは、その日の夜だった。
「クッ…ははははは」
「ちょっと、そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「いや、これは別人だろ」
彼が手にしてるのは私の姿絵だ。
「賄賂を贈らなきゃいけないなんて知らなかったんだもの」
「ふーん。それだけか?」
「ちょ、ちょっとだけラッキーと思ったけど」
そりゃ、皇国の正妃になるなんて御免だったもの。
「ったく、ひどいな」
「だって、」
「・・・今もか?」
「え?」
真剣な顔をする陛下に改めて向き直る。
「今も、面倒だって思ってるか?」
そうねぇ。
「この立場だけなら御免だわ」
いつもの余裕な表情が崩れる。
「でもね、陛下の・・・」
私の好きな蒼い瞳と視線が交わる。
「ラセルの隣なら、悪くないわ」
いつもの余裕で俺様な所も、時々自身を無くす所も、結構笑い上戸な所も、何だかんだで大切にしてくれる所も、・・・気づいたら好きになっていた。ううん、出会った時にはもしかしたら。
そう。理屈じゃないのよ。
男運が悪いと思ってたけど、そんなことも無かったのかもしれない。
まあ、良いとも言えないけどね。
久々に書きました。ヒーローの名前が最後の最後でようやく出せました。 前作の時に、続きをと仰ってくださる方がいらっしゃったのですが、ようやく書けました^^; 遅くなりすみません。
何か書きたい衝動が込み上げてきまして、2時間ほどで一気に書き上げたので誤字脱字等ありましたら、お伝え下さい。感想等もよろしくお願いします。
最近なろうサイトも、大変ご無沙汰でして、連載も放置してます。もうしばらくしたらリアルの方が落ち着くので、一気に仕上げていきたいと思います。
お読みいただきありがとうございました!




