表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/178

第82話 傀儡化阻止作戦

 1月30日。

 フードから任務のお達しがあった。


《グラジェロフ王の後継者は、原則として長子が継ぐと、グラジェロフ憲章に規定されている。しかしニコライの長子ヤコフは、6年前に急死している。そこでグラジェロフ憲章に則り、王の後継者はヤコフの長男であるユーリ王子に決定した》


 おっと、俺の疑問が1つ解決した。

 リナとユーリのお父さんであるヤコフがいて、なんで後継者争いが起きるんだと疑問に思っていたんだ。

 そうか、ヤコフはもう死んでいるのか。

 でもそうなると、ヤコフの長子はリナのはずだ。

 ユーリが後継者に選ばれたのはなぜだろう。


《しかしユーリ王子はわずか7歳。さらにリシャールは、元老院におけるユーリ王子の後見人に決まる可能性が高い。このままではグラジェロフは、ヴィルモンの傀儡と化す》


 後継者争いってのはただでさえ醜い。

 そこを外国勢力につけ込まれるなんて、グラジェロフは大丈夫なんだろうか。

 古い国で伝統を大事にするらしいが、古すぎて組織にカビが生えてるのかもしれない。


《そこで我々は、リナ王女をグラジェロフの王に推薦、もしくはユーリの後見人に立てることで、グラジェロフの傀儡化を阻止すると決定した。そこでアイサカ司令には、クボタ司令と共にリナ王女の護衛を行ってもらう》


 なるほど、リナの出番とはそういうことか。

 ヤコフの長子であるリナが王になるのは、何も問題ないはず。

 むしろ第2子のヤコフが王になる方がおかしい。

 もしかするとその辺は、憲章とやらが関わってくるのかもしれない。


《詳細はリナ王女自身から聞け。では諸君の健闘を祈る。以上だ》


 詳しいことまでは教えてくれないようだ。

 まあいいだろう。

 ここで長々と説明されても困るからな。


 フードからのお達しから3時間後。

 マグレーディから約60万キロ離れた位置にスザクが現れた。

 俺たちは久保田らを迎えに、すぐさまガルーダでそちらに向かう。

 作戦の詳細を聞く必要もあるため、俺とロミリア、ミードン、フォーベックは小型輸送機でスザクに乗り込んだ。


 フォーベックは久々の任務だ。

 最近はガルーダの活躍がなくて、暇そうだったからな。

 心なしか彼のあくびの回数が増えている気がするし。


 スザクに乗り、艦橋に到着する俺とロミリア、ミードン、そしてフォーベック。

 ミードンはリナの姿を見るなり、彼女のもとに駆け寄り、甘えだす。

 リナは困惑しながらも、嫌な顔はしない。

 それを可笑しそうにしながら、久保田が俺に話しかけてきた。

 

「相坂さん、リナさんに協力してくれてありがとうございます」

「任務だからな。当然だ」


 本当は、任務じゃなくても協力していたと言いたかったが、恥ずかしくて言えなかった。

 いくら友達相手でも、やっぱり照れてしまう。


 久保田に続いて、今度はリナが話しかけてきた。

 はじめて出会ったときの仏頂面はどこへやら。

 彼女の表情は笑顔だ。

 

「お久しぶりです、アイサカ司令にロミリアさん」

「どうも」

「お久しぶりです」

「……そちらの方は?」

「はじめまして、お姫様。ガルーダ艦長のアルノルト=フォーベックです」

「フォーベックさん……信じられる方なんですね?」

「こう見えても俺は、あのアイサカ司令に信頼されてるもんでね」

「フフ、それなら安心です」


 人を疑う癖は止めていないが、リナは随分と明るい様子だ。

 今までの彼女を覆っていた闇が、かなり薄まったように見える。

 これは、久保田やルイシコフと一緒にいたおかげなのだろうか?

 それとも、これからの作戦に心躍らせているのだろうか?


「では、作戦の説明をします。ルイシコフ、お願い」

「承りました、お嬢様」


 ルイシコフが俺らの前に立ち、口を開く。

 鋭い目つきに油断できぬ雰囲気。

 本来の政治家の顔をするルイシコフだ。


「作戦の概要は、ご存知ですね?」

「ああ。リナ殿下を王に、もしくは後見人に据えるんだろ」

「その通りでございます。しかし、これにはグラジェロフ政府から大きな反発があると予測できます。我が国の憲章において、女性が王になることは禁じられていますので」


 ああ、そういうことだったのか。

 これじゃ長子であるはずのリナが王に選ばれないはずだよ。

 リナを王にするには、憲章の改正が必要になる。

 面倒だしハードルが高いぞ、これ。


「憲章の改正はできるのか?」

「我が国の憲章の改正には、王とグラジェロフ議員半分の同意が必要です。現在は王位が空ですので、議員の3分の2の同意が必要。しかし我が国の憲章は、長らく改正されることはなく、今では絶対不可侵の聖書として扱われています」


 うわ〜面倒にも程がある。

 グラジェロフは伝統を大事にする国らしいから、3分の2の同意を得るのは難しいだろう。


「ただ、我が国の憲章にはこうも書かれています。ピシカ教の神に選ばれた者が、王の位に就かなければならないと。この条文に則ると、お嬢様は王になる義務が生じます」

「ピシカ教の神?」

「妾になつく、このネコちゃんのことです」

「ニャ?」

「え?」


 ミードンを高く持ち上げるリナ。

 突然のことに首を傾げるミードンとロミリア。

 

「グラジェロフの国教であるピシカ教では、ネコが神として崇められております。ネコの命を吹き込まれたぬいぐるみのミードン様は、我が国ではまさに神。そんなミードン様がお嬢様に甘えるのですから、お嬢様は王となる義務を負ったと言える」

「ミードンが神様!?」

「……なんだそりゃ」

「大出世だあな」

「ニャーム?」


 まさかの展開に俺は唖然とし、ロミリアは驚き、フォーベックは面白がる。

 神に認定されてしまったミードンは、可愛らしく首を傾げるだけ。

 だがルイシコフは真面目な表情だ。

 どうやら冗談ではないらしい。


「ミードン様は、ただお嬢様と共にいてくだされば、それでよろしい。どうかお願いいたします。お嬢様を王にするため、ミードン様にも協力をしていただきたい」

「ううん……俺は良いけど、ミードンはどうなんだ? ロミリア、聞いてくれ」

「はい」


 数秒間黙り込むロミリア。

 ミードンと思念による会話をしているのだろう。

 しばらくしてから、ミードンが元気に答えた。


「ニャーニャーニャーム!」

「……ミードンは、リナ殿下を助けてあげたいって」

「おお! それは助かりまする! 良かったですな、お嬢様」

「…………」


 あれ、ロミリアの表情が晴れない。

 もしかしたら、ミードンが政争に利用されているようで嫌なのかな。

 

「どうした? やっぱり、ミードンが危ない目に遭うのが心配?」

「いえ……ミードンがやると言っているので、私は止めません」


 覚悟はしているし、半分諦めてもいる。

 ミードンが好きだからこそ心配し、ミードンが好きだからこそ邪魔しない。

 ロミリアはそんな感じだ。

 複雑な気持ちだろうな。


「ロミリアさん、ミードン様のことは心配しないで。我が国でネコちゃんは神なんです。誰も悪いことはしません」

「……はい」


 なんとかロミリアも受け入れてくれたようだ。

 いやはやまさか、ミードンが活躍する時が来るとはね。

 世の中分からんもんだ。


「お嬢様、これで王になれる可能性が高まりました」

「ルイシコフ、妾はリシャールからグラジェロフを守れればそれで良いの。王になるかどうかは牽制でしかない。本来の目的は、ユーリの後見人になることでしょ?」

「王になるという意志がなければ、後見人にもなれませぬ」

「……変わらないのね」


 どうやらルイシコフには、ある程度の野心があるようだ。

 リナを王に据えようと、執念を燃やしているようにも見える。

 対してリナは、純粋に祖国を守ろうと張り切っている。

 しかし2人の目的は同じ、心配はいらない。

 むしろ、頼もしいくらいだ。


「相坂さん、僕たちはリナ殿下を影から護衛します。人間界惑星に再び侵入することになりますが、良いですか?」

「当然。任務なんだからな」

「そう言うと思いました」


 俺と久保田も、だいぶ気が合うようになったな。

 友達であるコイツのためなら、俺はいくらでも協力したいところだ。


 久保田は笑みを浮かべ、しかし気合いの入った表情をする。

 そして今度はリナの方を向き、力強く言った。

 

「リナ殿下、僕があなたを絶対に守ります。何があってもです」

「ありがとう、クボタさん」


 改めて宣言する久保田。

 そんな彼を信用し、自らの命を預けるリナ。

 俺の知らないうちに、この2人には強い信頼関係が築かれているようだ。

 これだけ全員の結びつきが強いんだ、任務は成功するだろう。


「なあアイサカ司令、クボタ司令って、あんなに暑いヤツだったけか?」

「正義のためなら、彼はいつもああですけど。ただリナ殿下と一緒の時は、いつもより暑くなってるかもしれませんね」

「ほお、そうか、そういうことか」


 ヘッヘッへと笑い出すフォーベック。

 そういうこととはどういうことなのか。

 いまいち分からないが、たぶん気にしたって意味のないことなのだろう。


 その後俺たちは解散し、それぞれがそれぞれの準備をはじめた。

 この時間を利用して、俺はササキのことを久保田に伝える。

 先代異世界者の死と元老院は、関係ないというあの話だ。

 これに久保田は、きっとササキは勘違いしているんじゃないかと結論づける。

 俺も目の前の作戦のことで頭がいっぱいで、ササキの話はそれだけで終わってしまった。

 

 葬儀の予定は明後日、作戦は決まった。

 あとはそれを実行し、グラジェロフのリシャールによる傀儡化を阻止する。

 今までも無茶な作戦を成功させてきたんだ。

 今回だってきっとうまくいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=887039959&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ