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第69話 3つの作戦

 ガルーダの修理・改造が終わり、試験運行でも問題がないことが確認された。

 そのことをヤンに伝え、ガルーダは正式に講和派勢力専属艦隊へと戻ってくる。

 約2ヶ月ぶりに艦隊旗艦へと戻ったガルーダ。

 これで専属艦隊完全復活だ。

 

 ついでに、専属艦隊の名称をローン・フリートに変更してもらうよう申請中である。

 やっぱり講和派勢力専属艦隊って名称、ちょっと味気ないからな。

 名称変更が認められることを祈る。


 12月22日、元の世界ならもう少しでクリスマス。

 キャッキャウフフな気分の人と、ギャッギャウググな気分になる人が続出するこの季節。

 こちらの世界では何でもない日のようだ。

 そりゃキリスト様がいないんだから当たり前だけど、過去の異世界者が伝えるとかもなかったのね。

 高層ビルとかは伝えたのに、不思議だ。

 もしや先代異世界者のカワカミさんは、キリスト教を嫌っていたのかもしれない。

 いや、普通に考えて非リア充だった可能性の方が高いか。


 さて、そんな22日なんだが、マグレーディにエリノルが現れる。

 共和国艦隊の人間として、マグレーディに駐屯する共和国艦隊を視察に来たらしい。

 だが当然、講和派勢力の使者として俺のところにも訪ねてきた。

 そろそろ任務が与えられると思っていたが、たぶんそのことだろう。

 

「直接会うのは久しぶりね、マモルちゃん」

「ご無沙汰してます」

「ロミリアちゃんはピサワンぶりだったわね」

「はい。あの時はいろいろとありがとうございました」

「ニャーム」

「フフン、どういたしまして。ロンレンちゃんは頑張ってる?」

「ボクはいつだって頑張ってますよぉ」

「あれ? そうだったかしら……」


 マグレーディ城の客間で会談する俺たち。

 挨拶の時点では、ものすごくのほほんとした空気が流れている。

 少なくとも、戦争を終わらせるための組織の人間がする会話ではない。

 つうかエリノル以外はみんな10代だから、学校っぽさすらある。

 

「今日は、どうしたんですか?」


 俺はさっさと本題に入るのが好きだ。

 ということで、いきなりだがエリノルがここに来た理由を尋ねてみた。

 するとエリノルは、仕方がないかのような表情をして、説明をはじめる。


「まずは報告。マモルちゃんが申請してた名称変更の件、認められたわ」


 お! いきなり良い話じゃないか。

 ようやくあの味気ない名前ともおさらばか。

 

「これからマモルちゃんは、ローン・フリート司令ね」


 できればローン・フリート・コマンダーと呼んでほしいが、まあいいだろ。

 それはちょっとやり過ぎだ。

 名称変更が認められただけでも感謝すべきである。

 あとは『名称変更すると言ったな、あれはウソだ』みたいな展開にならないのを願うだけだ。

 まあそんなことないだろうけどさ。


「で、本題はここからよ」


 さっきまでのにこやかな笑みが、エリノルから消えている。

 前参謀総長だけあって、真面目な表情をする彼女は頼もしい。

 いつもの艶かしさがどこへやら、そんじょそこらの男より鋭い顔つきである。

 エリノルから笑みが消えたら、その時はだいたい重要な話だそうだ。

 だから客間の空気も、真面目なものに塗り替えられる。


「今回は3つの作戦をひとまとめにして実行するわ。まず1つ目が、トメキア卿の魔界惑星帰還の護衛。これはそんなに難しい任務じゃないから、ダルヴァノかモルヴァノどちらかの小型輸送機さえあれば十分ね」


 共和国艦隊は、人間界惑星に入ってくる船の監視は厳しくても、出て行く方はそうでもないらしい。

 しかもトメキアらは、エリノルが処分したことになっている。

 死んだはずの魔族が人間界惑星を出て行くとは、共和国艦隊も予想だにしないはず。

 これなら確かに、難しい任務じゃなさそうだ。


「もう1つの作戦が、グラジェロフのお姫様の確保。リナ=シュリギンっていう名前の子なんだけど、ちょっと面倒な立場にいるお姫様なのよね。講和派勢力にとっては見捨てられない存在だから、無事に確保してあげないと」


 こりゃまた意外な任務だ。

 面倒な立場のお姫様とは、久々のファンタジー要素だな。

 気になる。


「そのお姫様、何かあったんですか?」

「実はね、グラジェロフの後継者争いで微妙な立ち位置にいるのよ。もしかすると命を狙われるかもしれない。だから、ナオトちゃんの使い魔のところに預けようって話に決まってね」

「久保田の使い魔って、確か元グラジェロフの大臣でしたっけ」

「そうよ。エフゲニーさんはリナ殿下とも関係が深いはずだから、きっと助けてくれるわ。そこでマモルちゃん、ナオトちゃんにこのこと、伝えておいてほしいの」

「なるほど、分かりました」


 ここで久保田の使い魔の名が出てくるとは、驚きだ。

 後継者争いに巻き込まれるお姫様とか、いかにも面倒そうだけど、講和派勢力の任務となりゃ断れない。

 これはすぐに久保田に伝えないと。


「ただ、リナ殿下の確保も難しくはない。これもダルヴァノかモルヴァノの小型輸送機だけでなんとかなるわ」

「そうですか。ってことは、トメキア卿とお姫様をガルーダに乗せて、魔界惑星に連れて行くと」

「ええ、その通りよ」

「じゃあ、もしかして3つ目の作戦も、誰かを魔界惑星に連れて行くとかですか?」

「正解」

「その3つ目の作戦、俺が必要になりますか?」

「絶対に必要よ」


 むむ、なんだかイヤな予感がする。

 よく分からんが、すごくイヤな予感がする。

 エリノルの次の言葉が怖い。


「マモルちゃんにやってもらう3つ目の作戦。それは、異世界者ムラカミ=マサキの説得よ」


 イヤです! やりたくありません!

 アイツの顔はもう2度と見たくないんです。

 俺はあいつが嫌いなんです。

 どうか別の人にやらせてください!


「あわわ……アイサカ様が子供みたいです……」


 あ、ロミリアに俺の拒否反応が伝わっちまった。

 取り乱す俺に、彼女まで微妙に取り乱しているじゃないか。

 いかんいかん、落ち着けよ俺。


「フフン。私だって、マモルちゃんとマサキちゃんの関係ぐらい知ってるわよ。なんていったって、マサキちゃんにマモルちゃんと仲良くしなさいって言ったら、あの子ものすごい顔して拒絶してたもの」

「え? お互い嫌い合ってるんじゃ、俺が説得したって無駄なんじゃ……」

「たぶん無駄だと思うわ。だから、武力行使になると思う。でもね、それでも真っ正面から向き合えば、お互いの距離が少しは近づくと思う」


 そりゃあり得ない。

 理想はそうだが、世の中そんなにうまくいかない。

 ああいう絆を大事にするヤツは、絆の外に対しては徹底的に排他的なんだ。

 

「マモルちゃんには、ヴィルモン城に潜入して、直接マサキちゃんを説得してもらうわ。無理なら武力行使でも何でもして、無理矢理ガルーダに連れ込んできてね。強制的に魔界惑星に連れて行くから」


 まったく、この人は勝手なことを。

 そんな面倒事、さすがにやりたくないぞ。

 

「村上を魔界惑星に連れて行って、なんか意味あるんですか?」

「大有りよ。あの子ね、魔界惑星についての知識が1つもないの。魔族に対するイメージは全部、リシャール陛下からの刷り込み。マモルちゃんへのイメージもそうよ。マサキちゃんを講和派勢力に引きずり込むためには、まずは真実を知ってもらう必要がある」

「そんなに簡単にいくでしょうか……」

「大丈夫よ。マサキちゃんは単純な子だから、真実を知れば少しは気が変わるわよ」


 う〜ん、そう言われてみるとそんな気もしてくる。

 アイツは俺のことなんてほとんど知らないし、魔族のこともほとんど知らない。

 そこにリシャールの言葉巧みな刷り込みがあれば、間違った認識を抱いてる可能性も考えられる。

 真実を目にすれば、もしかするとあっという間にこっち側の人間になるかもしれない。

 絆を大事にするヤツは、手の平返しも早いからな。

 そこを狙うのか。

 

「……分かりました。やります」

「フフン、助かるわ。じゃあ、ヴィルモンへの潜入についてはこっちが準備しておくわね。最悪見つかっても、パーシングがなんとかしてくれるわ」

「ボクも手伝いますねぇ。ヤン商店なら、馬車の用意ぐらいできますし」

「あら、それは頼もしいわね。ロンレンちゃん、お願いね」


 すごくイヤだが、俺は講和派勢力から新たな任務を与えられた。

 トメキアとお姫様の2つの任務はなんてことない。

 むしろ簡単そうな任務だ。

 でも村上の説得及び確保は、なんとも面倒そうだ。

 ただでさえ人間界惑星への潜入任務って時点で面倒なのに、相手が村上だからな。

 今回の任務、本音を言うとマジでやりたくない。


「私も、できる限りのことはしますね」


 俺の思いを知ってか知らずか、ロミリアが優しくそう言ってくれる。

 はぁ……仕方ないな。

 これも戦争の早期講和のためだ。

 悲しむ人を、これ以上は増やさないための任務だ。

 どんなにイヤな任務でも、本気でやろう。

 

 そういや、エリノルは武力行使しても良いって言っていたな。

 なら、村上をボコボコにできると思えば良いんだ。

 おお! 俄然やる気が出てきたぞ!


「もう、アイサカ様ったら……」

 

 またも俺の本音が漏れ出たか、ロミリアが溜め息をついた。

 いやはや苦労をかけて悪いね。

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