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第50話 市民議会脱出

《小型輸送機は、市民議会の2階東バルコニーに寄越してくれ》


 モルヴァノには俺がそう伝えておいた。

 小型輸送機はピサワンの首都付近を飛んでいるから、これですぐに到着するはず。

 あとは、ロミリアたちがバルコニーに到着すればこちらの勝利。


 それにしてもジェルンのヤツ、詰めが甘いな。

 2階には魔族がほとんど配置されていない。

 階段から魔族が現れることもあったが、スチアの剣とロミリアの魔力で足止めできた。

 まあ、魔族だって大挙して市民議会に集まるわけにはいかなかったんだろう。

 現実的に考えて、限られた人員で確実にロミリアたちを殺すなら、1カ所に兵士を集め一気に叩くのが上策、とジェルンは考えたんだ。

 現実主義が仇になったな、ジェルン将軍さんよ。

 こちとら現実離れした強さのスチアがいるんだから。


 しばらく走り続けるロミリアたち。

 角を曲がると、ようやくバルコニーの入り口が見えた。

 あそこに行けば、市民議会を脱出できる。


「まだ小型輸送機が到着してませんねぇ」


 若干だが息を切らし、絞り出すようにそう言ったヤン。

 確かに、小型輸送機の姿は確認できない。

 それでもロミリアたちは、バルコニーに行く以外の選択肢はないのだ。

 ヤンの言葉を気にせず、3人は走り続ける。


「ヒャッハー! いたぞ!」

「ここは通さねえぜ!」

「殺せ!」


 もう少しでバルコニーだというところで、3匹のワーウルフが道を遮った。

 全員が、肩に刺の付いた鎧を着ており、1匹は兜もつけずモヒカン頭。

 台詞も含めて、なんとも世紀末感漂うトリオだな。

 これをスチアはどうするのか。


「チッ……邪魔だコラァァ!」


 雄叫びと同時に、スチアは右手に持った剣をワーウルフに向け投げ飛ばす。

 さらに左手で短剣を鞘から抜き、それも同じく投げ飛ばした。

 風を切る音と共に、剣先をワーウルフに向け、ただ真っ直ぐと、迷いなく飛ぶ2つの剣。

 彼女ってよく剣を投げるよな。

 たぶん得意技なんだろう。


 スチアの攻撃を、ワーウルフは避けられなかった。

 仕方ないだろう。

 投げ飛ばされた剣の早さは、おそらく弓矢以上だったし。

 剣は1匹のワーウルフの胸に、短剣はもう1匹のワーウルフの眉間に刺さる。

 死んだかどうかは分からないが、戦闘能力は確実に奪った。


 さて、モヒカンのヤツ1匹が残ったな。

 ヤツをどうするのかと思ったら、スチアは廊下に飾られていた壷を手に取った。

 そしてその壷を、さっきの剣みたくワーウルフに向けて投げつける。


 壷は見事にモヒカンワーウルフに直撃、一瞬で粉々になる。

 壷とはいえ、弓矢以上のスピードで無防備な頭に当たれば、ただじゃすまない。

 下手すると、モヒカンワーウルフの頭蓋骨も粉々になっていそうだ。

 壷が直撃したモヒカンワーウルフは、その場に倒れ込み動かない。


 あっさりと3匹の世紀末ワーウルフを片付けたスチア。

 なんか、荒々しさ的にはスチアの方が世紀末な気がするな。

 彼女は倒れた3匹から自分の剣と短剣を抜き、そのままバルコニーに向かった。


「あ! 小型輸送機が来ました!」


 バルコニーに出た瞬間、ロミリアが叫んだ。

 まだ遠いながらもこちらに向かう小型輸送機が、確かに見えている。

 にしても、青空が綺麗だな。

 さっきからバイオレンスな光景ばっかり見せられてるから、なんとも落ち着く。


「ハァ、ハァ……敵も来ましたよ……」


 お疲れな様子のヤンの言葉。

 彼の視線の先、バルコニーに繋がる廊下には、こちらに向かって走ってくる大量の魔族。

 何が何でも逃がすまいと、全員が真っ赤な顔をしている。

 ヤツらも必死だな。


「ロミリア、お願い」

「はい」


 スチアに細かく指示されなくとも、ロミリアは自分のやるべきことを理解する。

 彼女は両腕を突き出し、炎魔法を使ってバルコニーの入り口を燃やした。

 バルコニーの入り口は炎の壁で封鎖されたのだ。

 だが、ロミリアはそれだけで満足しない。

 今度は土魔法を使い、魔力により生成された土で出入り口に土壁を作る。

 炎の壁と土壁による2重の封鎖。

 これで魔族たちをしばらく足止めできる。


 魔法を使い終え、振り返るロミリア。

 すると目の前には、すでに小型輸送機が到着していた。

 小型輸送機が発する風に、ロミリアたちの髪がなびいている。


 後部ハッチを開き、バルコニーに後ろ向きで近づく小型輸送機。

 すでに乗り込める距離だ。

 スチアはヤンを柵の上に乗せ、そのまま小型輸送機に押し込む。

 続いてロミリアが小型輸送機に乗った。


 緊張感から解放されてか、ロミリアが機内の床に座り込む。

 しかしすぐに、小型輸送機に乗ったスチアに肩をつかまれ、席に座らされた。

 直後に後部ハッチが閉じ、エンジン音が強くなる。

 ロミリアの視線に見切れる窓の外を見ると、結構な勢いで高度を上げているのが分かるな。


『よし! 脱出成功だな!』

『はい……』


 市民議会からの脱出にハイテンションな俺。

 対して疲れ切った様子のロミリア。

 疲れ切っているのは彼女だけでなく、ヤンもだった。


「ハァ、ハァ、ハァ……もう走れませんよぉ……」


 席に座るヤンは、ぐったりとしている。

 アイツが運動してるとこなんて見たことないし、たぶんヤンは運動不足なんだろう。

 久々に全速力で走ったから、疲れたんだな。

 分かるぞ、今のお前の苦しみ。


 そんな2人に比べて、スチアはピンピンしている。

 今だって休むことなく、鋭い目つきで後部ハッチの窓から外を見ていた。

 そんな彼女が口を開く。


「……まだ終わってないみたい」


 その言葉の直後だ。

 小型輸送機が急旋回、ロミリアたちは大きく揺られた。

 そして窓の外に火柱が通り抜ける。


《敵のドラゴンが追跡してきます!》


 パイロットによる報告。

 完全に安心しきっていた俺は、またも緊張感に包まれる。

 なんてこった! 今度はドラゴンを相手しなきゃならんのかよ!


 ドラゴンの最高速度と小型輸送機の最高速度はほぼ同じ。

 だからスピードで振り切ることはできない。

 しかし小型輸送機に武装はない。

 ダルヴァノやモルヴァノまで逃げれば反撃できるが、そもそも距離的に間に合うか微妙。

 さて、どうする?


 ここで俺は閃いた。

 ピサワン上空105キロ地点に、ガルーダがいるじゃないかと。

 ロミリアとのリンクを切って、俺自身がこの小型輸送機を援護すればいいじゃないかと。

 そうだ、それしかない。

 そうと決まればさっさと行動だ!


『ロミリア、パイロットにガルーダに向かうよう伝えてくれ。俺がガルーダで援護する』

『え? は、はい! 伝えます!』

『必ず助ける。待っててくれ』


 俺はすぐにロミリアとのリンクを切った。

 リンクを切った瞬間、視界が真っ暗になる。

 それと同時に、懐かしい体の感覚が脳に伝わってきた。

 数時間ぶりの俺の体。


 まずはゆっくりとまぶたを開けた。

 すると最初に目に入ったのは、俺の腹の上に乗っかるミードン。

 ああ、可愛い。

 可愛いが、今はそれどころじゃない。

 ミードンを抱き上げ床に降ろす。


「お? 帰ってきたか」


 俺が動いたのに気づくフォーベック。

 でも挨拶している暇はないんだ。


「ダルヴァノとモルヴァノ、ロミリアたちを乗せた小型輸送機がドラゴンに追われてる! 援護し拾ってやってくれ!」

《それは大変だ! すぐに向かいます》

《お嬢ちゃんたちは必ず助けるよ!》


 いつも通りの頼もしい返事。

 ホントに、あの夫婦が仲間で良かったよ。


「なるほど、そのためにアイサカ司令は戻ってきたってわけか。となると、アイサカ司令がドラゴンをマーキングし、ガルーダで攻撃だな?」

「え? ええ、その通りです」

「だろうと思ったぜ。全員戦闘準備! アイサカ司令のマーキングした敵を撃て!」


 なんとも話が早い。

 フォーベックは、俺のダルヴァノとモルヴァノへの指示を聞いただけで、俺の命令を完全に理解したんだ。

 いやはや、さすがだね。

 

 すぐに俺はガルーダを動かし、遠望魔法で小型輸送機の飛んでいる場所を見た。

 こちらに向かって飛ぶ小型輸送機は、辛うじてドラゴンのブレスを避けているな。

 ドラゴンの数は10匹。

 あの数なら大丈夫だ、問題ない。

 いいからマーキングだ。


「射程に入り次第撃て!」


 俺の指示は、それだけで十分だ。

 こちらに近づいてくる小型輸送機。

 あそこに乗るロミリアらを救う、それだけが今の目的なんだ。


「中距離砲の射程内!」


 砲術士が叫ぶと同時に、魔術師乗組員たちが中距離砲で熱魔法を発射する。

 発射された熱魔法ビームは、小型輸送機をかすめてドラゴンに殺到した。

 今日はドラゴンにとって、晴れ時々ビームだな。

 倍以上の数のビームを避けられず、7匹のドラゴンが熱魔法に頭を吹き飛ばされ、落ちていった。


 残ったドラゴンは3匹。

 これでだいぶ、小型輸送機も楽になっただろう。

 ただし、その残ったドラゴンは、あろうことか小型輸送機を盾にして、ガルーダの攻撃から身を守りはじめた。

 小型輸送機ごと撃っては意味ないので、こうなると俺たちはどうしようもない。

 ドラゴンめ、本当に頭が良くて困る。

 過激な保護団体が作られないことを願おう。


 でもまあ、問題はない。

 ドラゴンを攻撃できるのは、なにもガルーダだけじゃない。

 小型輸送機の援護に、全速力で向かう2隻の輸送艦がいるからな。


 牽制のためにガルーダから放たれるビーム。

 これらは全て、宇宙から地上に向けて撃っている。

 つまり宇宙に向けて飛ぶドラゴンからすれば、正面から攻撃されているわけだ。

 だからヤツらの注意は、正面にばかり集中している。


 突如、ドラゴンの横っ腹を熱魔法ビームの弾幕が襲った。

 それも左右両側から。

 側面からの攻撃に油断しきっていた3匹のドラゴンは、体をずたずたにされ、あっけなく人間界惑星へと落ちていく。


《どうだい! またドラゴン撃墜の大手柄だよ!》

《小型輸送機の方は、無事ですか?》


 ダルヴァノとモルヴァノの援護が間に合ったみたいだ。

 良かった良かった。

 さて、ダリオの言う通り小型輸送機は無事だろうか。


「こちら相坂より小型輸送機、それにヤン、大丈夫か?」

《エンジンが被弾し出力が下がっていますが、飛行に支障はありません》

《さすがはアイサカさんですねぇ。また借りができちゃいましたよ》


 どうやらなんともなさそうだな。

 警護対象が無事なら、脱出作戦自体は成功だ。

 どうせスチアは無事だろうし。


「ロミリアは?」

《私も大丈夫です》


 よし! 3人とも無傷だ!

 脱出作戦大成功!

 嬉しさのあまりガッツポーズなんてしてしまった。


 とはいえ、まだ完全に不安が払拭されたわけでもない。

 小型輸送機がガルーダに到着するまでが、脱出作戦だからな。

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