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第40話 大規模艦隊の衝突

 1500キロの距離で対峙する共和国艦隊と魔界艦隊。

 さすがにこの距離まで届く兵装はどちらも積んでいないので、数分は睨み合いが続いた。

 この間に両者とも混乱を抑え、戦闘態勢に入ったのだろう。

 俺もその間に、戦況を理解しておいた。


 共和国艦隊は20隻の戦闘艦と2隻の補給艦で編成されている。

 戦闘艦のうち1隻はフェニックスで、7隻がジャベリン級。

 残りの12隻は全てレイド級だ。


 対して魔界艦隊の編制は、戦闘艦が20隻に揚陸艦が4隻。

 戦闘艦の数では共和国艦隊と変わらないな。

 揚陸艦は戦闘力皆無だから、気にしないで良いだろう。

 ただ、イカ型とゼンマイ型はおそらく強い。

 ドラゴン型も、長距離砲みたいなのを積んだのがいる。

 長距離砲を積んだのは龍型とでも呼ぶか。

 わりと、共和国艦隊の方が戦力的には不利かもしれない。


 ただ、ここは人間界惑星のすぐ近くだ。

 共和国艦隊には援軍が見込める。

 それにフェニックスの遠距離攻撃は打撃力が強い。

 戦力の差は十分に覆せる。


 俺たちはどう動こうか……。

 戦闘がはじまるまで分からんな。

 今は、いつでも戦闘に参加できるように近づいておこう。


 魔界艦隊が現れて10分近くが経った。

 両艦隊は徐々にその距離を詰めていき、近づいていく。

 最初に攻撃を加えたのは、共和国艦隊だった。

 当然だが、フェニックスの攻撃だ。

 早くも魔界艦隊の戦闘艦1隻に損害を与えている。

 幸先良いぞ。


「あんまり近づくと、魔界艦隊に攻撃されるかもしれねえ。気をつけろ」


 フォーベックからの忠告だ。

 だが、さすがの俺もそれぐらいは分かってるさ。

 魔界艦隊との距離を500キロまで詰めてからは、その距離を維持している。


 フェニックスの一方的な攻撃の後、ついに魔界艦隊も共和国艦隊を射程に入れた。

 最初は長距離砲を持つ戦闘艦同士の戦い。

 それもしばらくすると、全戦闘艦による大規模な戦闘に発展していった。

 人間界惑星の地上から約4000キロの宇宙空間。

 そこで繰り広げられる、艦隊同士の戦い。


 俺は遠望魔法で見学しているのだが、すごい迫力だ。

 両艦隊とも突然の戦闘だから、きちんと散開できていない。

 特に魔界艦隊は密集しており、軍艦と軍艦の間の距離は数百メートルもないだろう。

 そこに共和国艦隊が熱魔法と光魔法を一斉発射し、魔界艦隊は防御壁による防戦一方。

 赤いビームと青白いビームが雨のように魔界艦隊に降り注ぎ、それをなんとか紫の防御壁が吸収している。

 22対24の戦いは凄まじいぞ。


 共和国艦隊は防御壁を薄くし、光魔法を大量に放っているな。

 それができるのも、フェニックスのおかげだろう。

 フェニックスは魔界艦隊の射程外を維持し、長距離砲でアウトレンジから一方的な光魔法攻撃を続けている。

 だから魔界艦隊は防御壁に魔力を集中せざるを得ず、光魔法を放てない。

 そこに共和国艦隊の光魔法が襲ってくるんだから、たまったもんじゃない。

 やっぱりフェニックスは強いな。

 ……村上じゃなくて、フェニックスが強いんだからな。


 戦闘が始まって数分、フェニックスの光魔法が魔界軍艦1隻の防御壁を破る。

 すると共和国艦隊は一斉に、その軍艦に攻撃を集中させた。

 何十何百の赤いビームが、1隻の軍艦を焼き尽していく。

 ビームが命中し吹き飛ぶ艦橋、潰れるエンジン、千切れる船体。

 数秒で1隻の軍艦は残骸と化し、大爆発を起こした。

 といっても宇宙だ。

 炎は一瞬で消えてしまう。

 残ったのは、粉々に飛び散った軍艦の破片だけ。

 それからすぐに、魔界艦隊の別の軍艦1隻も同じ最期を迎えた。


 さすがにマズいと感じたか、魔界艦隊も作戦を変えてくる。

 イカ型がゼンマイ型の前に出て、揚陸艦が最後尾に移動。

 ドラゴン型は4隻ずつに固まって分散、レイド級3隻にそれぞれ集中攻撃を開始する。

 この作戦変更が功を奏しやがり、レイド級2隻が防御壁を破られた。

 あとは、さっきの仕返しとばかりの熱魔法集中攻撃だ。

 2隻のレイド級は溶けるように崩壊し、宇宙の塵となった。


 だが、魔界艦隊は素直に喜べないだろうな。

 レイド級2隻を撃破しても、フェニックスは元気だ。

 すぐに共和国艦隊が反撃し、魔界艦隊は3隻の軍艦を失った。

 戦闘艦のみで数えると、18対15。

 魔界艦隊の防御壁は限界を迎えそうだし、こりゃ共和国艦隊の勝ちか。


 対して俺たちはなんて平和なこと。

 ここでただ見学してるだけじゃないか。

 おっと、あくび出てきた。


「俺たち、やることないぞ」

「だからってアイサカ様、あくびは緊張感がなさすぎでは……」

「ニャー」

《あたいの活躍が見せられなくてつまんないね》

《まあ、私たちが働かなくて済むなら、それで良いじゃないか》


 ちょっと気が抜けてきたな。

 ロミリアの言う通り、緊張感がなさ過ぎか。

 でもさ、このままなら共和国艦隊が圧勝だぞ。

 ほら、また魔界艦隊が1隻沈められた。

 これじゃあホントにすることない。


「おいおいアイサカ司令、油断してる場合じゃねえみてえだ」


 俺の安心した心を打ち砕くフォーベックの言葉。

 何が起きたんだろうか?


「敵揚陸艦を見てみろ」


 言われた通り、遠望魔法で敵の揚陸艦を見る。

 魔界艦隊の最後尾に並ぶ、蛇の装飾が目立つ4隻の四角い船。

 フォークマスに上陸した揚陸艦と同じ形だ。


 ただ、あの時とは決定的な違いがある。

 側面のハッチが開き、艦内から何かが出てきているぞ。

 あれは、黒い体に大きな翼、長い首と長い尻尾を持った生き物。

 知ってるぞ、あの生き物。

 ファンタジーの定番、ドラゴンじゃないか!

 それほど大きくはないが、何十匹ものドラゴンが揚陸艦から〝発進〟してる!


 俺は直感した。

 あの揚陸艦、俺の元いた世界における強襲揚陸艦だ。

 で、ドラゴンはそこから発艦する戦闘機だ。

 つうかドラゴンって宇宙でも飛べたのか。

 なんてこったい。


「防御魔法は魔法以外を止めらんねえ。速度も機動力も高いし、ドラゴンに直接噛み付かれちゃ共和国艦隊もマズい」


 そうか、そうだよな。

 共和国艦隊軍艦の防御壁内側にドラゴンが入り込み、破壊される可能性がある。

 確かにヤバい。

 しかも共和国艦隊には、戦闘機と呼べるようなものは存在しない。

 重力魔法、機関、操縦、攻撃と、最低でも4人は必要になる小型機は、非効率だとかいって開発されていないんだ。

 バスみたいな小型輸送機はあるけど、武装してないし数も少ない。

 ドラゴンに対処する術が、共和国艦隊にはないじゃないか。


 ここにきて共和国艦隊圧勝の可能性が消えた。

 それどころか、負ける可能性まで出てきた。

 ホントにマズい。


 ……でも待てよ。

 俺たちの任務は、共和国艦隊を勝たせることだ。

 こういうときのために、俺たちは準備してたんじゃないのか?

 今こそ俺たちの出番じゃないのか?


「フォーベック艦長、ガルーダでドラゴンは撃ち落とせますか?」

「……ダルヴァノやモルヴァノじゃ機動力が足りねえが、ガルーダなら無理じゃねえ」


 無理ではない、ということは、可能ということだ。

 なら答えは1つ。


「そうですか。じゃ、やりましょう」


 艦橋にいる人間全員が驚きの表情を浮かべた。

 ロミリアも例外じゃない。

 だがフォーベック1人だけが、不敵な笑みを浮かべている。


「ヘッ、決断が早いじゃねえか。作戦は?」

「作戦は……そうですね……」


 輸送艦2隻を置き去りにして超高速移動を使えば、戦地まで一瞬で行ける。

 ダルヴァノとモルヴァノは対ドラゴン戦が不利らしいし、そうするか?

 でも魔界艦隊の攻撃はどうする。

 ドラゴンと14隻相手は無理だぞ。


 俺は艦隊司令だ。

 1隻で戦うことばかり考えるんじゃない。

 艦隊で戦うことを考えろ。


「……ダルヴァノとモルヴァノは魔界艦隊をひきつけてください。攻撃はしないで、防御魔法に集中です。その間にガルーダが超高速移動で敵ドラゴン部隊の付近まで飛び、攻撃を開始します。ガルーダの機関と操舵、敵のマーキングは俺に任せてください」


 俺が今考えられる中で一番の作戦。

 さてどうだろうか。


「よし、アイサカ司令の作戦で行く。ダリオとモニカ、聞いてたか」

《大丈夫です。いつでも行けます》

《あたいに任せな!》

「だそうだ」


 どうやら作戦は決まりだな。

 頼れる仲間たちで良かったぞ。

 でも時間はない。

 やるなら今すぐだ。


「じゃあ、これより作戦を開始する。ダリア艦長とモニカ艦長、頼んだ」

《了解》

《見てなよ!》


 講和派専属艦隊としての初戦闘。

 孤独な艦隊の力で、任務は必ず成功させてやる。

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