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第24話 先代勇者の昔話

 頭が混乱している。

 突然現れた魔界軍ヘル艦隊。

 そこに乗っているのは先代勇者のササキ。

 そんなヤツからの魔力通信。

 一体なんなんだ?


「ササキ・フミヤって、先代勇者の……」

「事故死したんじゃないのか?」

「おい、まだ本物か分からないぞ」


 艦内が騒然としている。

 そりゃそうだ。

 先代勇者は人間界惑星の英雄である。

 そして、62年前に事故死したはずの存在である。


 事前に歴史を勉強しておいてよかった。

 でないと、今のこの状況がまったく理解できなかっただろう。


《驚くのも無理はあるまい。我はとうに死んだことになっているからな》


 まるでこっちの状況を見透かしたような言葉。

 今は、コイツとの会話が重要だ。

 少し話をすれば、ササキの意図も分かるだろう。


「こちらガルーダ司令の相坂守」

《スザク司令の久保田直人です》

《ほお、日本人の名前を聞くのは何年ぶりだろうか。懐かしい》

「そっちの意図はなんだ?」

《我の意図を教える前に、1つ質問しよう。貴様らは異世界者として共和国艦隊の司令を任せられているはずだ。フォークマスでは貴様らに苦汁を飲まされもした。では何故、わずか2隻で宇宙を徘徊している?》

「それは……」

《当ててみよう。貴様らは共和国元老院に危険な存在と糾弾され、人間界惑星から逃げた。違うかね?》

「…………」


 コイツ、当てやがった。

 人間界惑星にスパイでも送り込んでいるのだろうか。


《答えぬということは正解であったということか。魔王様を封印してからでも遅くはなかろうに、元老院も愚かだ》

《……なぜですか? なぜ僕たちのこの状況を、知っているのですか?》

《我も、共和国から追い出された身であるがゆえに、だ》

《あなたも……僕たちと同じだということですか?》


 驚いた。

 元老院には前科があるのか。

 いや、まだササキの言ってることが本当かどうかは分からない。

 もう少し話を聞く必要がある。


《我の昔話をしよう。我は両親を事故で失い、ただ1人の妹と共に暮らしていた。辛い生活ではあったが、妹の笑顔を見るだけで、幸せであった。だが76年前、我はこの世界に召還された。妹をただ1人、元の世界に残して》


 俺には兄弟がいないから、その時のササキの気持ちは分からない。

 ただ、大切な人と離ればなれになるのは、辛かっただろうな。

 それが唯一の肉親となれば、余計にだ。


《妹のことが気がかりで、すぐにでも元の世界に戻りたかった。そんな我に元老院は言った。魔王を封印すれば、元の世界に戻れるだろうと。我はその言葉だけを信じ、5年の月日を賭けてついに魔王様を封印した。だが、元老院は、我に嘘をついていた! 元の世界に戻る方法など、ありはしなかったのだ!》


 ひどい話だな。

 ただ1つの希望のために頑張ったのに、それを成し遂げたとき、その目標は偽りだったなんて。

 俺だったら、元老院を決して許さないだろう。


《それからは毎日が絶望の日々であった。元老院の支配する人間界惑星にはいられず、ついに我は、魔界惑星へと亡命した。元老院が存在しないだけで、我は十分であったのだ》


 ある意味、今の俺とその時のササキの心情は似ているかもしれない。

 元老院のことを考えるだけでもイライラする毎日から逃げるには、それしか方法がないからな。


《62年前、河上に誘われ、我は一度だけ人間界惑星に戻った。しかしこれは罠であった。元老院は我ら3人の勇者を危険な存在と糾弾し、河上と冬月はヤツらにすでに殺されていたのだ!》


 先代勇者の死因は事故死じゃなかったのか?

 元老院が異世界者を殺した?

 なんだよそれ。

 腐ってるにも程がある!


《我は命からがら人間界惑星を逃げ出し、それ以来魔界惑星の魔族の一員として、今まで過ごしてきた。復活した魔王様に元老院の話をすると、魔王様は涙を流し、我にヘル艦隊の指揮を任せると仰られた。そう、魔王様は、我との因縁を許してくださったのだ!》


 多少、魔王を美化してる感があるな。

 もしかしたら、元老院を悪人に仕立て上げる作り話かもしれない。

 話が本当だとしたら、俺は元老院を許さないが。


《元老院は貴様らを必ず殺そうとする。人間界惑星に戻ろうなどと考えているのならば、それは懸命な判断ではない》


 おっと、そこまでお見通しか。

 たしかに、俺たちはこれから人間界惑星に戻るつもりだった。

 だがササキの話を聞く限り、それはたしかに止めた方が良さそうだ。

 でもだとしたら……。


《我と共に来い。魔王様は必ず、貴様らを暖かく迎えてくれよう》


 やっぱりそう来たか。

 ようやくササキの意図が分かった。

 これはヘッドハンティングだ。

 人間界惑星から俺たち異世界者2人を、引き抜くつもりなんだ。


《相坂さん……どうしましょうか?》


 困ったな。

 俺たちには選択肢がない。

 まったく、いいタイミングできやがったな。


「相手は魔界軍だ。油断はしねえ方が良いぞ」

《アルノルト、そうは言っても、私たちに行き場はない》

「おいおいカミラ、それ、どういう意味だ?」

《そのままの意味》


 フォーベックは慎重姿勢、オドネルはササキに同意か。

 まあ、オドネルは正義感が強そうだからな。

 場所も考えず正論を述べるヤツは、総じてそうだ。

 ササキの話を聞いて、元老院が悪であると判断するだろう。

 なら、久保田もオドネルと同じ立場かな?


「久保田さん、どう思います?」

《……僕は、魔界惑星に行くべきかと思います。元老院を許すわけにはいきません》


 そうだよな。

 そう答えると思ったよ。

 そういう正義感と真面目なところ、好きだぞ。


「アイサカ司令、もし魔界惑星に行くつもりなら、気をつけろ」

「分かってます」


 こう聞いていると、フォーベックも慎重姿勢なだけで、魔界惑星に行くこと自体は反対してないんだな。

 そりゃそうか。

 選択肢は他にないんだから。


「今は、魔界惑星に行くしかないでしょう」


 俺も決意した。

 ヘッドハンティングされるかどうかは別として、食料の問題は急を要する。

 補給ぐらいはしたい。

 ただ……。


「ロミリアさん、悪い」

「……いいえ、アイサカ様の決定です。我慢します」


 口は笑っているが、目は笑っていない。

 眉間にしわも寄っている。

 お父さんを魔族に殺されたロミリアは、今の状況に複雑そうだ。

 答えが『我慢します』だもんな。

 ホント、すまない。

 

《決まったのか? 我と共に来るかどうかを》

「ともかく、魔界惑星で補給させてください。そっちに住むかどうかは、後ほど」

《そうか。まあよい。我ら魔族は貴様らを歓迎する》


 貴様らって呼び方なんとかならんのかね。

 いや、貴様ってなにも貶し言葉の意味だけじゃないけどさ。

 なんか、癇に障る。

 最近のストレスのせいだろうか。


《ところで、ここから魔界惑星までは距離があるが、貴様らは大丈夫なのか?》

《それに関しては、御心配なく》

《ふむ、よかろう。付いてこい》


 さっそく、魔界惑星へ出発だ。

 まずは座標だな。


「魔界惑星の座標は?」

「安心しろ。とっくに割り出してある」


 さすがフォーベック艦長、話が早い。


「必要魔力量は3万4398・65MPです」


 ホントに細かい数字だよな、必要魔力量って。

 今回はロミリアが手伝ってくれてるから、作業自体は早く終わるだろう。

 不満そうだが、なんやかんや彼女はきちんと手伝ってくれるもんな。

 助かる。


《スザクの超高速移動準備、終わりました》


 早いな。

 ま、こっちもすぐ終わる。


「ガルーダ、準備完了」

「よおし、超高速移動まで1分だ」


 突然現れた魔界軍ヘル艦隊と、先代勇者であるササキ。

 果たしてヤツの言っていたことは真実なのか、その判断はできない。

 もしかしたら、これは俺らを殺すための周到な罠なのかもしれない。

 だけど、その時はその時だ。

 今重要なのは、食料の補給である。

 どっちにしろこのままじゃ飢え死にだからな。


 遠望魔法で魔界軍の様子を探る。

 ヤツらはさっきと変わらず、その場から動く気配がない。

 いや、ちょっと待て。

 紫の光が輝きはじめた。

 そして次の瞬間、稲妻が走るように光が強くなり、魔界軍の艦隊は姿を消した。

 もしや、あれが魔界軍の超高速移動なのか?

 なんか、かっこよくない?

 こっちなんか見た目、ただ消えるだけだぞ?


「5、4、3、2、超高速移動、開始」


 羨ましがってる場合じゃない。

 必要魔力量をメインエンジンにぶっ込み、超高速移動開始だ。

 いつものように窓の外が歪み、放射状の景色が広がる。

 移動は数十秒だ。

 宇宙での移動となると、さすがに一瞬で移動というわけにはいかない。

 数十秒で到着するんだから、十分すごいんだけどね。


 景色が元に戻った。

 スザクが数秒遅れて、左数百メートル先に現れる。

 さらに数十秒経って、魔界軍の艦隊が俺たちの斜め上に現れた。

 ヘル艦隊だ。

 あっちの方が先に出発したのに、到着はこっちが先なんだな。


 ガルーダの目の前に広がるのは、灰色の雲に覆われた惑星。

 雲の隙間から見える地上は赤黒く、海は茶色で、宇宙からでも厳しい環境であることが理解できる。

 太陽は遠く、全体的に暗い惑星だ。

 これが魔界惑星の姿か。

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