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第23話 魔界からの使者

 宇宙ってのは、惑星が近くにない状況だと、とてつもない孤独感を感じる。

 太陽の光、無数の星々や天の川、星雲など、景色は美しい。

 しかしそれらは、遥かに遠く離れた場所にあるものに過ぎない。

 生物は存在せず、音もなく、ただただ空間が広がるだけ。

 ガルーダのみんなやスザクがいなければ、とっくに発狂していたかもしれない。


 人間界惑星を飛び出してから、すでに1週間以上は経過しているだろう。

 宇宙に昼や夜なんてものは当然存在しないから、時間の感覚がほぼない。

 せめて曜日感覚を維持するため、1週間に1回はカレーを作らせようかな。

 まあ、その食料がそろそろヤバいんだが。


 ガルーダもスザクも、訓練のために必要な物資しか積んでいない。

 1週間も宇宙を彷徨えば、食料も底をつきはじめる。

 このままじゃ確実に、餓死するだろう。


 そこで、久保田と話し合って決めた。

 スザクの修理は必要最低限完了しているし、魔力は1日半で完全に回復したのだから、1度人間界惑星に戻ろうと。

 人間界惑星に戻って、共和国艦隊と交戦してでも食料を確保する。

 食料を確保したら、また超高速移動で宇宙に逃げる。

 完全なる食料泥棒だ。


 ただ、さすがになんの情報もなく人間界惑星に戻るわけにもいかない。

 そこで、艦内で取っ捕まえた魔力干渉の犯人から情報を得ることにした。

 魔力干渉の犯人は、俺の予想通り共和国艦隊の人間だった。

 俺たちへの襲撃を確実にするため、元老院からの直接の命令でこの船に乗り込んだらしい。

 まったく、ロミリアがこいつの存在に気づいてくれて本当に良かった。


 俺は現在、ガルーダの独房の一室を前に、取り調べを見学中だ。

 取り調べ相手は当然、魔力干渉の犯人である。

 よく刑事ドラマである、取調室をマジックミラー越しに見ているみたいな感じだな。


 取り調べを行っているのは俺じゃなく、ガルーダ戦闘員部隊隊長のスチアという女性だ。

 年齢は17歳とこれまた若いが、フォーベックから絶大な信頼を得ている少女。

 実際、魔力干渉の犯人を捕まえたのもスチアだ。

 出身は、島嶼連合で代々冒険者家業をやっている家だそうで。


「おい! さっさとあたしの質問に答えろコラァ!」

「いや、だから、俺は命令されたことをやっただけで、詳しいことは……」

「ウソじゃないんだよねコラァ! ウソだったら舌切り落とすよコラァ!」

「や、やや、やめてくれ!」

「あ、でも舌を切っちゃったら喋れないか。じゃあウソついたら指切り落とすよコラァ!」


 スチアはショートヘアの似合う、まだあどけなさの残る少女。

 でも言ってることとその行動には少女らしさの欠片もない。

 彼女は犯人の人差し指を握り、思いっきり引っ張った。

 そして腰に携えていた短剣を抜き、握った犯人の指に刃を突付ける。

 小さな体に見合わぬ怪力を前にして、犯人は抵抗もできない。


「ウ、ウソじゃない! 誓ってウソじゃない! だから、指だけは……」

「……その顔なら、ウソじゃないね」

「ああ、そうだ! ウソじゃない! だから助けてくれ!」


 えっと、これは取り調べなのか?

 犯人は完全に怯えきってるし、これじゃ警察の取り調べじゃなく、暴力団の脅迫だ。

 よかった、ここが日本じゃなくて。

 日本だったら大問題だ。


「指は切り落とさないであげるね」

「あ、ありがとうございます!」

「本当に、なんにも知らないんだよね?」

「本当です! 本当ですから! 本当ですからホントお願いします!」

「ふ~ん」


 取り調べという名の脅迫を終えたスチアは、溜め息まじりに独房から出てきた。

 彼女の後ろで、小刻みに震えながら小さくなる犯人。

 怖かっただろうなあ、同情ぐらいはしてやるよ。


「ダメだよ、コイツ。本当になんの情報も持ってないもん」


 お手上げのポーズがなんとも可愛いく怖いスチア。

 ガルーダの中で数少ない戦闘員であり、動きやすさを優先した服装の彼女。

 筋肉質の体とそのセクシーな見た目に、最初は俺の目も釘付けになっていた。

 こんな性格だと知ってからは、あの筋肉と服装が恐怖の対象でしかない。

 怖いです早く短剣をしまってくださいお願いします。


「ねえアイサカ司令、どうする?」


 ああ、良かった。

 短剣を鞘に戻してくれた。

 これで話はできるな。


「仕方ない。必要最低限の情報があるだけマシだよ」

「なら、今から準備しないとね」

「……準備?」

「人間界惑星じゃいつ襲われるか分からないでしょ」

「あ、ああ……そういうこと……」


 だから剣を抜かないでください。

 戦闘を前に満面の笑みを浮かべないでください。

 もう、怖いよこの娘。

 年下だけど怖いよ。


「アイサカ様、フォーベック艦長が呼んでます」


 ああ、助かった! ロミリアだ!

 スチアとしばらく一緒にいると、ロミリアを見ただけでも落ち着く。

 なんかもう、ロミリア依存症になりかけてるぞ俺。


「アイサカ様? どうかしました?」

「いや、なんでもない。すぐに艦橋に行くよ」

「あたしはもう少し、コイツと話してるね」

「お、おう。頼んだよ」


 スチアの言葉に犯人がビクッとした。

 哀れなヤツだな。

 まあ頑張りたまえ。


「じゃ、行こうか」

「はい」


 一刻も早くスチアから逃げたいのもあって、俺は足早に独房を後にした。

 艦橋まではしばらく距離があり、その間に船員たちの顔を見ておく。

 みんな、さすがに疲れ気味だ。

 そりゃそうだろう。

 故郷を捨ててここにいるんだから。


 そういや、俺もある意味、故郷を捨てたも同然だよな。

 両親はどうしてるんだろうか。

 どこにも俺がいないんだもんな。

 もし向こうもこっちと同じ時間が流れてたら、俺は行方不明状態だ。

 2人とも心配してるだろうなあ。

 なんかもう、帰れるなら帰りたい。


 友達いないし、元の世界に俺を知ってるヤツは少ない。

 でも両親は違う。

 19年間も育ててきた1人息子がいきなり消えたら、悲しむよな。

 どんなに異世界であろうと、俺が生きてることだけでも教えておきたい。


 そう考えると、余計に共和国が許せない。 

 こっちの都合も考えずに勝手に召還して、勝手に殺しにきたんだから。

 これで元の世界に戻れませんなんてなったら、俺が魔王になるぞ。


 ロミリアも俺と同じだ。

 彼女だっていきなり生け贄に選ばれて、いきなり殺されそうになってんだ。

 しかもお母さんを人間界惑星に置いてきてる。

 大丈夫だろうか、ロミリアのお母さん。

 もしかすると共和国に捕まってるかもしれない。

 ロミリアは平気そうな顔してるが、お母さんのことを考えたら気が気じゃないだろうな。


 まったく、共和国のことは考えるだけでイライラするな。

 食料盗んだら、どっか住めそうな惑星を探して、そこを開拓するか。

 で、新しいコミュニティ作って、共和国とは無縁の暮らし。

 ……大変そうだな。


 いっそ、魔界惑星に住むってのもアリだな。

 俺たちは共和国に命を狙われてんだから、向こうは嬉々として保護してくれるだろう。

 でもなあ、ロミリアのことを考えると、そういうわけにもいかない。


 あー! 何を考えても答えが見つからない!

 イライラするなあ。


 気づいたら、艦橋に到着していた。

 窓の外に広がる宇宙と、そこにある星雲はなんとも幻想的だ。

 対照的に、乗組員の表情は緊張している。

 何かあったのだろうか?


「お、来たかアイサカ司令」

「艦長、どうしたんです? 何かの話し合いですか?」

「まあ、そんなところだ」

《相坂さん、遠望魔法で前方を見てください》

「久保田さんまで参加してるのか。どうしたの?」

《いいから、遠望魔法で前方を見てください》

「分かった分かった」


 なんだろうか。

 みんな、やけに緊張している。

 久保田に至っては、声を聞いただけでも焦りを感じるぞ。

 まあいいや。

 ともかく言われた通り遠望魔法で前方を見てみよう。


 宇宙は大気がないから、かなり遠くの景色もはっきりと見ることができる。

 どれどれ、前方に何かがあるんだろうな。

 うん? 星とは違う光り方をする物体が6つある。

 ズームして見てみよう。

 宇宙の暗闇に紛れる真っ黒い船体。

 紫の光が禍々しさを強調している。

 あれは……魔界軍!


「魔界軍の艦隊じゃないか!」

《そうなんです。つい先ほど、あの場所に突然現れました》

「あの現れ方、おそらく超高速移動だ。ヤツら、俺たちに会いにきた可能性がある」

「攻撃しに来たんですかね?」

「さあな。ただこっちは2隻、しかも1隻は手負いだ。対して向こうは、元気そうな軍艦が6隻。勝ち目はねえぞ」

《相坂さん、どうします?》

「どうすると言われても……」


 距離はまだ数百キロぐらい離れている。

 向こうの攻撃は届かないし、当然こっちのも届かない。

 しばらく考える時間はあるか。


「あの艦隊、超高速移動で現れたんですよね」

《おそらくそうです》

「攻撃してくるつもりなら、もっと近くに現れるんじゃないか?」

《魔界の艦隊がこちらの位置を正確に掴めていない可能性もあります》

「あ、そうか。いやでも……」

「不思議なのは、向こうが近づいてこねえことだ」


 なんだそれ。

 向こうの意図が全く掴めないぞ。

 最近、こんなのばっかだ。


「これは……。司令! 艦長! 魔界軍から魔力通信です!」

「はあ?」

《え!》


 おいおい、どういうことだ。

 あいつら、何を企んでる。


「繋げますか?」

「どうするよ、司令さん方」

《……魔界軍の意図を知るためには、繋げるべきです》

「そうだな。久保田さんの言う通りだ。魔力通信を繋げよう」

 

 俺らの決定にすぐさま通信士が動き、魔界艦隊との魔力通信が繋がる。

 第一声は、向こうの老人のような声であった。


《こちらは魔界軍ヘル艦隊の佐々木文哉だ。名前は知っておろう》


 あまりの驚きに、俺は椅子から転げ落ちそうになった。

 その名前、明らかに日本人のものだ。

 いやそれ以前に、ヤツの言う通りその名前は知っている。

 ササキ・フミヤって、先代勇者の1人じゃないか。

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