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第14話 確執と正論、そして酔っぱらい

 俺と久保田は、しばらく話し合った。

 まず、2人とも同じ世界、同じ時代に生きていたことが分かった。

 住んでる場所も同じ東京。

 通ってる大学は違ったが、以外と近くに住んでいたようである。


 で、俺たちが召還された経緯をあれこれ推測する。

 おそらく、こちらの世界の魔法で俺たちの世界に干渉し、謎のファンタジー映画・小説・ゲームを出現させたんじゃないか。

 そしてそれに最初に興味を持った3人が選ばれたんじゃないか。

 召還魔法と機械の電源がリンクし、何かしら電源を切った瞬間にこちらに召還されたんじゃないか。

 そんな感じの推測を、思いつく限り口にした。


 気づけば、俺と久保田は完全に自分たちの世界に入り込み、周りの王族や軍人は俺たちに寄り付きもしなくなった。

 そりゃそうだ。

 東京だとかテレビだとかは、こっちの世界では意味不明な単語なんだからな。

 周りからすれば今の俺たちは、変な言葉で変なことを話し合っている変人にしか見えない。

 異世界者だからって理由で嫌な顔まではされていないだけだ。


 だが、そんな俺たちに話しかける2人の男がいた。

 眉の濃い精悍な顔立ちの中年と、無精髭を生やす飄々とした様子の中年の2人。

 フェニックス艦長のライナー=シュリンツと、ガルーダ艦長のアルノルト=フォーベックだ。


「戦闘の際は、申し訳ないことをした」


 シュリンツが突如、俺と久保田に謝罪の言葉を述べる。

 一体何を謝っているのかと質問してみると、彼はこう答えた。


「我々が敵揚陸艦への攻撃に移行したことで、第2艦隊と第3艦隊を危険な目に遭わせてしまったことだ」


 言われて思い出した。

 そうだ、なんであのとき村上は、突然敵の揚陸艦を攻撃したのか。

 あれのおかげで、結構危なかったんだぞ。


「あのとき、敵の揚陸艦が第2艦隊の揚陸艦に向けて動き出していたんだ。おそらく、そのまま体当たりするつもりだったのだろう。我々はそれを止めようとしたんだ」


 ほうほう、そういう理由があったのか。

 でもそれなら、きちんとそれを伝えてほしかった。


「だが結果的に、艦隊を危険に晒してしまった。あれは我々第1艦隊の不手際だ。本当にすまなかった」


 そう言って再び頭を下げるシュリンツ。

 彼は自分の非を認め、責任を感じているのか、その謝罪には重みを感じる。

 こんな風に謝られると、許さなきゃいけない気がするな。


「そんな、大丈夫ですよ。そこまで気にしてませんし」


 とりあえず俺はそれだけ言っておいた。

 久保田も同じようなことを口にする。

 それにシュリンツは「ありがたい」とだけ答えてさらに頭を下げる。

 一方のフォーベックは、ニタリとした笑みを浮かべていた。


「アイサカ司令は許しても、俺は許さねえぞ。そんなことされちゃ、こっちの寿命が縮んじまうだろうよ」

「悪かったよアルノルト。だが、お前と異世界者の司令なら切り抜けられると思ってな」

「へっ、そりゃそうだがよ」


 2人は随分と楽しそうに会話している。

 彼らは単に、艦長同士というだけの間柄ではなさそうだ。

 親友、なのかもしれない。


「まあ、俺とアイサカ司令、クボタ司令は寛大だから良いとして、問題はカミラだな」

「そうなんだよ。一体どう謝れば良いんだ……」


 カミラとは、スザク艦長のカミラ=オドネルのことだな。

 さっき久保田と話しているときに話題に上がって、冷静沈着で頼れる人だと久保田は褒めていた。

 でもフォーベックとシュリンツの言葉は、どういう意味なんだろうか。

 厳しい人なのかな?


「我ら共和国騎士団の勇敢さこそが、フォークマス解放を成し遂げたのだ!」


 突然、大広間にそんな声が響いた。

 発言者はパトリス=マニュエルという人物で、共和国騎士団の団長だ。

 城から基地まで一緒にいた、あの不機嫌な騎士。

 まだ若いが、失敗した最初のフォークマス奪還作戦で騎士団長が死亡して、その跡を継いだ偉い人だったらしい。

 にしても随分と自惚れな台詞だこと。

 おかげで、共和国艦隊の人たちと共和国騎士団の人たちが睨み合っちゃってるよ。


「フッ、我ら共和国艦隊がいなければ、城壁にも到達できぬ輩がよく言う」


 うわ、誰だ火に油注ぐようなこと言ったのは。

 なんかやたらとクールな女性の声だったけど、どっかで聞いたことあるな。

 この声は確か……あっ、オドネルだ。


「貴様! 我ら騎士団を愚弄するか!」

「愚弄も何も、あなた方が城壁に到達できなかったのは事実でしょう」

「艦隊の分際で偉そうに! 人間界を魔界から守るのは我らだ!」

「あら、そうだったんですか。てっきりあなた方が守るのはプライドだけかと思っていました」


 あ〜あ、パトリス団長の顔がどんどん真っ赤になっていく。

 それで酒も入ってるから、これは喧嘩へ一直線だろうか。

 あと、オドネルの言うことは正論だが、もう少し空気を読むべきだろ。


「またはじまったか……」

「やれやれ、だなあ」


 シュリンツとフォーベックがお手上げ宣言をしている。

 エリノル参謀総長に至っては、頭を抱えて今にもテーブルに突っ伏せそうだ。

 騎士団の連中も我関せず。

 王族や大臣は無視を決め込んだ。

 村上は知らん顔、久保田はなぜかパトリス団長を睨む。

 誰か止めてやれよ。

 俺は嫌だぞ。


「喧嘩は止めろい! 酒がまずくなるだろうが!」


 いきなり、ガラの悪いヤツが言いそうな言葉が響いた。

 なんでも良いが、喧嘩を止めてくれるならありがたい。

 誰の言葉だろう。


「パーシング陛下! これは、失礼しました」


 お、パトリス団長が背筋を伸ばして頭を下げているぞ。

 パーシングっつうと、さっきそんな名前の人が挨拶してきたな。

 ライアン=パーシングとかいう人だ。

 精悍な顔つきに目の下の深いしわが特徴の人。

 ガーディナ王国の王様。

 王様!?


「ほら、喧嘩してる暇があれば飲め飲め! それとカミラさん、あなたのそのお美しさに、先ほどのような言葉は似合いませんよ」

「……失礼しました」


 なんか、男にはともかく酒を飲ませて、女にはキラキラしながら気障な台詞を吐いている。

 あれがガーディナの王様かよ。

 大丈夫か、あんな感じの人が王様で。

 フォークマス自治領は復興するまでガーディナ領に編入らしいけど、心配だ。

 ロミリアの故郷が心配だ。


 そういやロミリアは、ガーディナの王様にどんな反応を示しているのか。

 そう思って彼女の方を見てみたが、ロミリアは特に気にする様子はなかった。


「ねえロミリアさん、あれがホントにガーディナの王様?」

「はい、酒好き女好きで有名な方です」

「え? それって大丈夫なの? 暴君みたいな人じゃないんだよね?」

「そういうことをする方ではないです。共和国で2番目に若い王様ですけど、国はきちんと安定してますし」


 40代に見えるけど、王様としては2番目に若いのか。

 まあ、国が安定してるならたぶん安心していいのかな。

 いやあ、インパクトの強い人だ。


「カミラちゃん、ああいうことはしないようにって、私言ったわよね?」

「……はい」

「もう一度、言った方が良いかしら?」

「……申し訳ありません」


 なんやかんやパーシングのおかげで、凍り付いた空気が解凍された。

 オドネルはエリノル参謀総長に説教されているようである。

 パトリス団長は騎士たちと一緒に、パーシングと酒を浴びるように飲みはじめている。

 フォーベックとシュリンツは、何事もなかったかのように談笑に戻っていた。


「ガーディナの小僧、やりおるな」


 その呟きはリシャールのものだ。

 軽蔑しているのか褒めているのか、口調からも表情からも読み取れない。

 ただ少なくとも、現状を楽しんでいるようには感じられた。

 どうもこのリシャールという人は、怖い。


「オドネル艦長の言っていること、間違ってはいません」


 意外な久保田の言葉だ。

 てっきり彼は、オドネルの言動に困惑しているもんだと思ったが。


「でももうちょっと場所を選んだ方が良かったんじゃない?」

「それはそうですが、それならパトリス団長の言葉の方が問題です。艦長はそれに毅然とした態度を示しただけじゃないですか」

「うん、まあ、そうだな」


 久保田の言うことは間違ってない。

 オドネルの言葉も間違ってない。

 ただ、正論で畳み掛けるのはやっぱり場所を選んだ方が良いと思う、俺の経験的に。

 文化祭……クラス会議……女子グループ……うっ! 頭が……痛い……。


「ところで相坂さん、映画の内容について教えてください」


 ちょっとしたゴタゴタはあったが、俺と久保田はすぐに元の話に戻る。

 その後パーティーが終わりの時を向かえるまで、稀に村上が参加しながら、俺たちはずっと話し込んでいた。


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