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第167話 異世界日録 佐々木文哉 1

『異世界日録 佐々木文哉』


『人間界惑星暦3440年7月24日、異世界に召還されて1ヶ月と20日になる。

ようやくノートが用意できたので、元の世界と同じく日々の記録をしておこうと思う。

だが、記録するにも何を記録すればいいのか分からない。

僕はまだ混乱している。

少なくとも、この世界が異世界であり、僕が異世界者に選ばれたのは事実のようだ。

 

 この2週間、河上恒樹、冬月静、そして使い魔だというジョエル=ド・ラクロと共に、迫り来る魔界軍と戦い続けた。

共和国は島嶼連合まで追いつめられたが、幸い魔界軍は海を超えるのが苦手だった。

転送地から離れたのもあって、連戦連勝。

僕の強力な魔力を使えば、魔族も大したことはなかった。


 そんなことより、元の世界に残してきた結衣が気になる。

元老院は戦争が終われば、元の世界に帰れると言った。

両親を失った結衣を、1人にするわけにはいかない。

なんとしてでも、早くこの戦争を終わらせないと。』


『3440年11月11日。

シェンリンの一部奪還に成功した。

驚いたのは、作戦実行のために必要だった多くの船を、ジョエルが全て1人で用意したことだ。

戦いに参加するのを渋っていたシェンリンを説得するとは、ジョエルの政治力はやはり高い。

彼と一緒なら、戦争を終わらせて、結衣のもとに帰る日も近い。』


『3441年9月19日。

シェンリンの重要都市が魔界軍に奪われた。

撤退戦では、河上の活躍で被害が最小限に抑えられた。

ただの馬鹿だと思っていたけど、たまには河上も良いところを見せる。』


『3441年12月5日。

魔界軍への反撃作戦が成功した。

これで魔界軍の士気と戦力は落ち、超大陸への再上陸は大手になる。


 ヴィルモン王都の奪還はまだ時間が掛かるだろう。

だけど、王都には僕たちを召還した召還の間がある。

あの場所さえ取り返せば、元の世界に帰る方法が見つかるかもしれない。

再上陸作戦は、そのための第一歩になる。

 

 ついでに、冬月が僕を真似て日記を書き出したようだ。

イケメンにしか興味がない冬月が、まともな日記を書けるとは思えない。

どうせ、三日坊主になるだけだ。』


『3442年10月7日。

魔界軍が再びシェンリンに攻勢を仕掛けてきてから1ヶ月以上が経った。

共和国軍は市街地戦を繰り広げている。

河上や冬月は別の戦場で忙しく、しばらくは僕1人で、共和国軍と共に戦うしかない。


 召還の間への到着は遅れるばかりだ。

気づけば2年もこの世界で戦っているが、結衣は無事なのだろうか。

元の世界とこの世界、時間の流れはどれだけ違うのか。

まだまだ分からないことばかりだ。


 ともかく、今は戦おう。

それしかない。』


『3443年2月2日。

魔界軍の大規模な部隊が降伏、シェンリンでの勝利は確実になった。

僕はさすがに疲れた。


 ジョエルはこれを機に、魔族の捕虜から情報を集めるべきだと言っていた。

敵の情報を知るだけではなく、人間界と魔界の関係を探ることで、この世界と元の世界の関係が分かるかもしれないと言っていた。

ジョエルは僕が元の世界に帰れるよう、多くのことで協力してくれている。

彼には感謝だ』


『3443年9月8日。

ついに超大陸再上陸に成功した。

騎士団は大きな被害もなく、対して魔界軍は、多数の死傷者を出した。

もう魔界軍に余力はない。

騎士団はこのまま、ヴィルモン王都奪還を目指す。

 

 捕虜から話を聞いていたジョエルは、召還の間と転送地に興味を持っていた。

彼の話を聞く限り、召還の間や転送地は、異次元と関係がありそうだ。

早く調べたい』


『3443年11月10日。

ヴィルモン王都を奪還してから4日が経った。

元老院は僕たちを召還の間に近づけさせようとしない。

ジョエルによると、強大な力を持つ僕たちを元老院が手放したくないらしい。

結局、魔界との戦争に勝たなければ、僕は結衣のところに帰れないようだ。

正直、元老院が邪魔だ』


『3444年6月9日。

魔界に攻め込んでから3日。

転送地を調べようとしたところ、共和国軍に止められた。

元老院の許可がないらしい。


 まただ。

また元老院は、僕のことを邪魔している。

勝手にこの世界に召還しておきながら、どうしても僕たちを返したくないらしい。

仕方がない。

魔王を倒せば、僕の強大な力が見せつけられるはずだ。

それしかない。』


『3444年10月1日。

先日の作戦失敗は、目に見えていた。

僕はずっと、あの作戦には反対していた。

なのに共和国騎士団は聞かず、元老院も僕を無視した。

結果はこれだ。

もうしばらく、共和国軍は進軍することすらできない。


 元老院は愚かだ。

どいつもこいつも、考えているのは別の王を蹴落とすことばかり。

魔界との戦争が順調だからって、油断のし過ぎだ。

ハッキリと思う。

元老院は信用ならない。』


『3445年3月15日。魔族の生活は興味深かった。

寿命の長い魔族は、あまり欲がないそうだ。

魔族の生活は、質素で、その日その日を大事にしている。


 それと、魔族には魔族という概念がないらしい。

それぞれの種族がそれぞれの種族として、他の種族とは交わることなく独立している。

だから、種族同士の争いはほとんどないとか。

でも、みんながバラバラに行動するのも良くないので、魔王が魔界を統治している。


 同じ種族同士で戦い続ける人間とは大違いだ。

元老院が支配する人間界よりも、魔界の方がよっぽど過ごしやすい。

結衣にもこの世界、見せることができたら良いのだが。』


『3445年4月30日。

ついに魔王を倒した。

これでやっと、元の世界に帰れる。

結衣に会える。

こんなに嬉しいのは、人生ではじめてかもしれない。』


『3445年5月12日。

魔王は倒し、戦争も終わった。

だが元老院は約束を破った。

そもそも、最初から約束を破るつもりだったんだ。

異世界者を元の世界に返す方法を知らない?

ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな!

元老院は僕を騙していた!』


『3445年9月2日。

ジョエルによると、召喚の間はその昔、処刑場だったらしい。

僕はこの世界に召喚されたことで、処刑されたのだ。

もはやこの苦しみに、耐えられない。


 僕はジョエルと共に魔界へと移り住んだ。

もう、元老院の支配は受けたくない。

あいつらは、僕を元の世界に返す気なんかない。

元の世界に帰り、結衣と再開するには、こうするしかないんだ。


 河上は元老院に従属したらしい。

もっと骨のあるヤツだと思ってたけど、やはりあいつは、ただの馬鹿だったんだ。


 驚いたのは冬月だ。

冬月はいきなり姿を消してしまった。

どこに行ってしまったのかは誰も分からない。

本当に自由人だ、冬月は。


 ともかく、僕は魔界で元の世界に帰る方法を探る。

いつ帰るかは分からない。

でも僕は、必ず結衣のところに帰ってみせる。』


『3450年10月20日。

河上がとてつもない発見をした。

魔界と人間界は同じ宇宙に浮かぶ、惑星同士だと言うのだ。

最初は信じられなかったが、実際に遠望魔法を使ってみると、確かに魔界から人間界を見ることができた。


 魔界惑星と人間界惑星。

あの河上が、そんな大発見をするなんて。

僕は、元の世界とこの世界の関係性を、何一明らかにしていないというのに……。』


『3453年6月25日。

8年間、研究を続けてきた。

成果はなかった。

転送地をいくら調べたところで、意味はなかった。

あの転送地は、魔界惑星と人間界惑星を繋ぐだけの存在だった。

元の世界との繋がりは、あそこにはない。


 研究に協力的だった魔族には申し訳ないが、転送地をこれ以上調べても無意味。

それ以前に、この世界へ召還されて13年。

きっと結衣は、もう……。』


『3453年7月9日。

17日に、河上と冬月に顔合わせをすることとなっている。

これは召還の間を研究するチャンスだった。

ところが、元老院が許可をしなかった。


 私はこの世界に閉じ込められたのだ。

元老院によって、私は大切な存在を奪われたのだ。

共和国が、私を不幸に陥れようとしているのだ。

処刑はまだ続いているのだ。

許さん。』


『3453年7月14日。

私は元老院を、共和国を許しはしない。

私をこの世界に閉じ込めた連中を、必ず滅ぼす。

他に何をすれば良いのだ?』


『3453年7月15日。

共和国と元老院を葬り去るには、私の力が足りない。

だがひとつ、方法がある。

私が魔王になればいい。


 醜い人間と違って、魔族は強く、優れている。

魔王になって、魔族を率いれば、共和国と元老院など、人間界惑星など、簡単に潰せる。

私をこの世界に閉じ込めた連中に、私を閉じ込めたことを後悔させてやる。』


『3453年7月16日。

明日は河上と冬月に会うのだ。

その時に、魔王を封印した剣を奪おう。

何をしてでも、奪おう。

人間界惑星を滅ぼすためなら、私はどんなことでもする。』

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