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第158話 トラブル

 第1艦隊とトメキア艦隊は、魔王艦隊の戦闘艦3隻を撃沈した。

 当然だ。

 アイツらはガルーダにしか攻撃してこないからな。

 でも3隻撃沈となると、アイツらも俺たちだけに構うことはできないらしい。

 ガルーダを後方から襲う光魔法の数は、すでに半分以下である。


 対して前方からの、スザクからの光魔法攻撃は凄まじい。

 おかげで何度も防御壁が消えそうになっては、修復を繰り返している。

 魔力カプセルの魔力はガバガバ減り、ガルーダの魔力残量は20万MP。

 そろそろ俺も魔力を使うことを考えるべきかもしれない。

 しかしスザクだって、これだけの高出力光魔法を連射すれば、魔力の減りは早いはず。

 一種のデスマッチだな、こりゃ。


 ほとんど攻撃せず、全ての魔力を防御に充てるガルーダ。

 防御装置を破壊され、全ての魔力を攻撃に充てるスザク。

 一方通行の光魔法ビームが、ただただ防御壁に消されるだけの戦闘。

 そんなものが数分間も続いた。

 

 事態が動いたのは、クルーによる報告からである。

 その報告は、決して嬉しいものではなかった。


「魔力カプセルの接続に不具合発生! 防御壁消失まで数秒です!」


 あまりに想定外のことだった。

 よりにもよってなんでこんなタイミングで、こんなことが起きるのだろうか。

 なんでこんなことは、こんなタイミングぐらいでしか起きないのだろうか。


 焦りのあまり口も開けぬ俺。 

 だがフォーベックは冷静さを失っていない。

 

「修理は可能か?」

「5分程で修理は完了します!」

「そうか。じゃあ3分で修理しろ。アイサカ司令、修理完了まで防御壁展開は頼んだぜ」

「わ、分かりました!」


 司令ともあろうが俺が、焦っている場合じゃない。

 魔力カプセルがダメなら、俺がやるしかない。

 自分で防御壁を展開させるのは久々だが、やるっきゃない!


「ロミリア、魔力残量を常に確認してくれ」

「はい!」


 最悪の場合を考えると、魔王を封印するための魔力は維持しておきたい。

 だから魔力の管理は、魔力そのものであるロミリアに任せるべきだ。


 強力な光魔法ビームに食まれ、今にも消えてしまいそうなガルーダの防御壁。

 俺は急ぎ光魔法をガルーダに込め、風前の灯であった防御壁を復活させた。

 これでなんとか、魔力カプセル修理まで耐えることができるだろう。


 とはいえ、実際に自分で防御壁を起動して気づいたことがある。

 スザクの光魔法は、思ったよりも高出力だ。

 1発ごとに500MPぐらいは軽く使ってるだろ、これ。

 あんな攻撃を受けても防御壁が消えぬように維持するための魔力は、バカにならない。

 本来は10秒展開に260MPの防御壁だが、今は1秒展開に300MPは使っている。

 となると、1分間に1万8000MP……。


「ダリオ艦長、モニカ艦長、スザクの攻撃を受け止めてください! それとガルーダは回避行動!」


 この期に及んで、魔王に魔力の使用を強要させるのはバカらしい。

 自分が危ないんだ。

 今は自分の身を守るべき。


 俺の指示通り、ガルーダは再び回避行動に移った。

 さすがに曲芸飛行はしないが、時速800キロ程度でフラフラするだけでも、スザクの攻撃を多少は避けられる。

 ダルヴァノとモルヴァノが間に入ってくれているのもあって、防御壁展開に必要な魔力量はだいぶ減った。

 これなら耐えられるかもしれない。


「魔力残量が10万を切りました!」


 回避行動開始からしばらくして、ロミリアがそう言う。

 彼女が言う魔力残量とは、俺の魔力だ

 俺の魔力、もう10万切っちゃったのかよ

 

 いや、あと10万も残ってると考えよう。

 今はポジティブシンキングだ。


「おい、修理はまだか?」

「かなり急いではいるのですが……やはり5分以上は必要です!」

「なんでもいいから急げ! このままだとアイサカ司令の魔力が5万以下になっちまうぞ!」

 

 やっぱりポジティブにはなれない!

 魔力5万じゃ、魔王との対決に自信が持てないぞ。

 そりゃ、魔王が魔力を使い切ってくれれば、問題ないさ。

 でも、万が一があるだろ。

 その万が一に、魔力5万で挑むのは御免だ!


 まったく、俺がグダグダ愚痴を言ってる間にも、俺の魔力は減っていく。

 ガルーダの操舵手も、ダルヴァノも、モルヴァノも、みんな俺のために頑張ってくれている。

 だがそれでも、スザク――魔王の光魔法は強力だ。

 このままだとこのデスマッチ、俺が負ける。

 

「魔力残量、8万を切ってます!」

「ニャー!」

「修理はまだか!?」

「もうしばらくお待ちを!」


 やばいぞ。

 これ以上の魔力の消費は……。


 手に汗握りながら、焦りを募らせる俺。

 なんとかしてこの状況を打開しないと、じり貧だ。

 でもどうする?

 スザクから離れようにも、光魔法を連射したまま追われたら、あまり意味がない。


 そこでふと、俺は思った。

 どうせ魔力が減るなら、一気に減らして、それで安全地帯に移動しようじゃないかと。


「超高速移動で逃げます! 適当な座標を!」

「し、しかし!」

「いいから!」

「りょ、了解しました! ……座標入力完了!」

「ガルーダ、超高速移動開始!」


 破れかぶれなのは分かってる。

 だが時には大胆さが必要だ。

 魔王だって魔力は減ってるんだから、無理して追ってくることもないだろう。


 そう思っていた俺は、甘かった。

 スザクから113キロ地点に超高速移動した直後、目の前にスザクが現れたのである。

 なんと、魔王はスザクを超高速移動させ、追ってきたのだ。

 これでお互い、3万MPを無駄にしたことになる。

 最悪だ。


「アイサカ様! このままだと魔力が4万を切っちゃいます!」

「しゅ、修理はまだですか!? フォーベック艦長!」

「あと1分程度だろうよ。もうしばらくの辛抱だ」


 クソ! 焦って変なことするんじゃなかった!

 まさか魔王も無理してくるとは、思いもしなかったぞ……。

 ダルヴァノとモルヴァノは置いてけぼりにしちまったし、本格的にヤバい。


 先ほどと何も変わらず、再びスザクからの光魔法攻撃に視界を遮られる俺たち。

 魔力残量は徐々に減っていき、修理を待つ俺の心は、もはや冷静さの欠片もない。

 

 しかしその時だった。

 俺たちの視界を遮った光魔法は消え、代わりに、巨大な艦影が視界を遮った。

 何が起きたのかは、その艦影を見れば分かる。

 フェニックスが現れ、俺たちの盾になってくれたのだ。


《おい相坂、なに苦戦してんだよ。これだからてめえは信用できねえんだ》


 せっかく助けてくれたのに、喧嘩を売ってきた村上の魔力通信で、俺の感謝の心は遥か彼方の銀河系に行ってしまった。

 そして俺の暗黒面が、村上の喧嘩を買ってしまう。


「ちょっとトラブっただけだ。それよりお前、魔王艦隊はどうした?」

《あいつら弱いからよ、最強の勇者様には退屈な戦いだったんだ》

「退屈? そんな理由で戦闘を抜け出したのか?」

《俺はてめえを援護するのが任務だろ! だからてめえを助けにきたんだ! それの何が悪い!》


 うっ……それを言われると何も言い返せない。

 確かにその通りだ。

 村上は何も間違ってない。

 ここは潔く、己の間違いを認めよう。


「……村上、助けてくれてあり――」

「アイサカ司令、修理が完了したとよ。ダルヴァノとモルヴァノも到着した。ようやくまともに戦えるぜ」


 そうか、それは良かった。

 逃げ回るのもこれで終わりだ。

 ここからはまた、正々堂々と魔王の攻撃を受け止めることができる。

 

 え? 村上への感謝?

 それはなんの話だろうか?


「よし。ローン・フリート全艦、スザクと戦闘――」

《こちらトメキア艦隊! 緊急事態だ!》


 なんだかやけに、話を遮られるぞ。

 今度は何だ? 

 緊急事態ってことは、あまり良いことじゃなさそうだけど……。


《魔王艦隊が宙間転移魔法を使って移動したのだ! 移動先は……我がエルフ族の領地の上空! おそらく、一矢報いようと我が領土を狙って……!》


 俺は驚くしかなかった。

 後方を確認してみると、実際に魔王艦隊はいない。

 トメキアの言葉通りだとすると、10何隻もの軍艦がエルフ族の領地を襲っていることになる。

 早く助けないと、エルフ族領地は壊滅だ。

 

 一方で、魔界首都上空、つまりここには、スザクしか敵がいないということでもある。

 魔王を倒し、久保田を解放するには、今がチャンスだ。

 そんなチャンスをわざわざ作ってくれるなんて、魔王は何を考えている?


《あれ? スザクが攻撃を止めちまったよ。どういうことだい?》


 不満そうな口調での、モニカからの報告。

 言われてみれば、スザクの攻撃を受けていないために、防御壁が元気だ。

 ホントに何を考えているんだ? 魔王は。

 

 いや、もしかしたらこれは、魔王の考えではないのかもしれない。

 支配率が変わり、久保田の意思が表に出てきた可能性は、十分にある。

 ならば俺は、どうするべきなのだろう……。

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