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第143話 見えない敵

 故障中のものを除き、ローン・フリート全艦の砲が、見えない敵に向けられた。

 帝国艦隊の死のカウントも、着々と進む。


「5、4、3、2、射撃、開始!」


 フォーベックの雄叫びと同時に、51の砲から連射される光魔法ビーム。

 青白い光が、真っ白な霧に色を塗るかのように、ロミリアの示した座標へと向かう。

 何百発という異常な数の光魔法ビームが、帝国艦隊の防御壁を破壊するためだけに飛んで行った。


 今回の攻撃、敵艦3隻のうち、動き始めた敵は放っておいた。

 俺たちが狙うのは、相も変わらずお空に浮かんだ無防備な2隻の軍艦。

 攻撃対象が減ったおかげで、2隻への攻撃はより集中的になる。

 つまり、防御壁を時間内に破壊できる確率は一気に上がったということだ。

 1撃で3隻全てを落とせないのは残念だが、そう考えれば悪いことばかりじゃない。


 今頃、魔力カプセルの魔力は恐ろしい勢いで減ってるんだろう。

 それだけ、俺たちが放つ光魔法の数は多い。

 連続超高速移動のときもそうだったが、魔力カプセルはいろんな戦術を可能にしたな。


 攻撃から10秒程度が経過した。

 帝国艦隊は大慌てしていることだろう。

 どこからともなく光魔法が飛んでくりゃ、誰だって慌てるもんだ。

 

 それからさらに10秒程度が経過。

 もう敵艦の防御壁も限界を迎えてるはず。

 しかし霧に隠れ、相手の防御壁を破ったのかは定かでない。

 だから光魔法攻撃は続ける必要がある。

 

 光魔法は物理に対する影響がほぼ皆無だから、敵艦に被害は与えられない。

 でも、俺たちの仕事は敵の防御壁を剥がすことだから、それで十分だ。

 帝国艦隊にとってのホントのサプライズは、ここからである。


 攻撃開始から、もう30秒は経ったはず。

 魔力レーダーにぼんやりと浮かぶ2隻の敵艦は、未だその場を動けていない。

 第1艦隊の放った長距離熱魔法は、すぐそこだ。

 こりゃ、行けるな。


 太陽が出て気温が上がったため、霧はだいぶ薄くなってきた。

 おかげで、遠くの方に複数の微かな赤い光を発見。

 その赤い光は、ある2つの地点で全てが消え、直後、巨大な2つの火球が霧の中に浮かび上がった。


 衝撃波がやってきたのは、数秒後。

 壮大な破裂音が、装甲に包まれたガルーダの艦橋にまで響き渡る。


《こちら第1艦隊フェニックス艦長のシュリンツ。着弾は確認できたか?》

「ああ、確認できた。随分とド派手な爆発だぜ」

 

 第1艦隊の攻撃を、防御壁もなくまともに食らった敵艦2隻。

 もはやあの2隻には、反撃はおろか自己を飛ばし続ける機能も失われている。

 霧の中、地上へ向けてゆっくりと、2隻の巨艦は墜落していくのだ。


《ハッハー!! 見たか勇者様の力!!》


 わざわざ魔力通信を使って、喜びと自己満足を大爆発させる村上。

 だが意外だったのは、彼の次の言葉だった。

 

《おい相坂、てめえはさっさと残った1隻、沈めてこいよ。てめえも一応は勇者様なんだから、俺の足引っぱんな!》


 なんということでしょう。

 あの単純バカ村上が、現状をきちんと把握しているなんて。

 そう、帝国艦隊はまだ1隻残っている。

 残った1隻を沈められるのは、俺たちだけなのだ。


 言っておくが、村上に言われなくとも、俺は自分のやるべきことを理解している。

 俺は村上からの魔力通信を無視し、さっさと次の指示を下した。


「ローン・フリート全艦、残りの敵を撃墜する。敵の位置は分かります?」

「偵察機が敵艦をマーキングし続けています」

「うん? ロミリアはまだ敵の近くに?」

「そのようです」


 敵の位置を確認したらすぐに帰ってこいと言ったのに……。

 まあでも、だいぶ薄まったとはいえ、霧が敵を隠していることに変わりはない。

 ロミリアが敵の位置をマーキングし続けてくれているのは、非常に助かる。


 すぐさま俺は、マーキングされた位置を確認。

 確かに、小さな魔力反応が南へ向かって動いている。

 あの小さな反応が、巨大な敵艦の居場所と見て間違いない。

 急いであれを撃墜しないと。


「マーキング位置へ急行! エンジン全開!」


 毎度思うが、ガルーダの加速力は、ガルーダが巨大艦であることを忘れさせる。

 まるで小型の戦闘機のような感覚だ。

 今だって、エンジンに魔力を込めてから数秒後には、時速100キロを優に超えたのだから。


 グラジェロフ王都の上空を、低空で駆け抜けるガルーダ。

 いくらマーキングされた敵とはいえ、超高速移動を使われたら終わりだ。

 帝国を打ち倒すため、この戦いは完勝しなくちゃならない。

 なにより、ロミリアが心配だ。

 スピード重視のガルーダ、その能力を活かさないと。


 どうやらダルヴァノとモルヴァノは、ガルーダの加速に追いつけないようだ。

 敵に近づけば近づく程、あの2隻との距離は離れていく。

 しかし敵は1隻だ。

 今は艦隊行動よりも、敵の撃破が優先と俺は考える。


《アイサカ様、私です!》


 そろそろ敵艦への攻撃を指示しようとしたとき、ロミリアから魔力通信が届いた。

 彼女の言葉には、焦りが色濃く現れている。

 わざわざ魔力通信封鎖を破ったのだから、きっと緊急事態だ。


「どうした?」

《帝国軍の小型輸送機に見つかったかもしれません!》

「なに!? 相手は武装型か?」

《たぶんそうです!》


 最悪じゃないか。

 相手がレイド級ならまだしも、小型輸送機じゃ困る。

 標的が小さすぎて、この霧の中じゃ見つけ出せないぞ。

 ともかく、ロミリアには逃げてもらわないと。


「いいかロミリア。すぐにその場から離れて、こっちに来るんだ!」

《ちょっと待ってください! もう1機の小型輸送機を見つけました! 2機の小型輸送機をマーキングします!》

「そんなことしなくていいから、早く帰ってこい!」

《あと少しなんです……》


 珍しいことに、ロミリアが俺の言うことを聞いてくれない。

 責任感が優先してしまっているのだろうか。

 これはマズい。


「アイサカ司令。嬢ちゃんも心配だが、攻撃の指示も頼むぜ」


 ああ! 忙しい!

 ロミリアの心配とフォーベックの催促、優先すべきは……。


「ともかくロミリア! しばらく耐えろ! ローン・フリート全艦、敵に一斉攻撃!」


 感情的にはやはりロミリアを救いたいけど、俺は司令だ。

 戦いの目的を忘れてはいけない。

 最悪撃墜されても生き残る使い魔と、帝国打倒のための戦闘、どちらを選ぶかなんて、分かりきってる。

 優先すべきは、いつ超高速移動を使うとも知れぬ帝国艦隊の軍艦撃沈だ。

 すまん、ロミリア。


 皆は攻撃の準備を済ませていた。

 だから、俺の指示を聞けばすぐに、攻撃を開始する。

 ガルーダと、その後方にいるダルヴァノ、モルヴァノの光魔法が、マーキングされた位置に殺到。

 青白い光のビームたちは、敵艦の防御壁にダメージを与える。


 敵艦との距離は近い。

 もはや薄まった霧の先に、敵艦の艦影がぼんやりと浮かぶ程だ。

 あと数秒もあれば、落とせる。


「ガルーダは熱魔法攻撃に移行。ダルヴァノとモルヴァノは光魔法攻撃を続けてください」


 肉眼でも、こちらの攻撃はかなりの数、敵艦に直撃している。

 おそらく防御壁も、まもなく消失する。

 それならば、熱魔法で相手を溶かし尽くすべき。

 決断は早い方が良い。


 青白い光に代わり、ガルーダの砲から撃ち出される真っ赤なビーム。

 それらは、霧を彩り、まるで吸い寄せられるように、敵艦へと食らいついた。

 

 どうやら敵艦の防御壁は消えていたようである。

 ガルーダの放った熱魔法ビームは、南へ向かう敵艦のエンジンに直撃、炎上させた。

 動力を失った敵艦は、その後に続く熱魔法ビームを避けられず、次々と大穴を空ける。

 炎と黒煙に包まれた鉄のかたまり。

 死にゆく巨艦は、徐々に地上へと落ちて行く。


 無事、グラジェロフ上空に陣取る帝国艦隊を撃沈。

 共和国艦隊の任務は終わった。

 だが、俺の任務は終わっていない。

 

 気づけば、マーキングが2つ増えている。

 動きは激しく、反応も小さい。

 きっと、ロミリアに襲いかかる敵の小型輸送機だろう。

 いくら敵に襲われても、マーキングを欠かさないロミリアは、やはりハイスペック。

 そんな彼女を何としてでも助けなければ。


 ロミリアの位置は、ロミリア自身の魔力が教えてくれる。

 魔力から推測するに、確かにロミリアの偵察機、その真後ろに敵の小型輸送機がいる。

 相変わらず霧のせいで、目視ができないのが辛い。


《ア、アイサカ様! 被弾しました!》

「おいおいおい、被害は!?」

《エンジンが停止、このままだと墜落です!》


 ウソだろ……。

 早く敵の小型輸送機を落とさないと。

 まあ、墜落してもロミリアは死なないのが救いか。

 

 すぐにロミリアの援護をはじめよう。

 マーキング位置は、ここからそう遠くはない。

 短距離砲でも十分に届く距離だ。

 いくら武装した小型輸送機でも、ガルーダなら瞬殺できる。

 

 俺は乗組員たちに指示を出し、すぐさまガルーダの短距離砲が光り輝いた。

 霧の中に放たれた数発の熱魔法攻撃。

 その内の1発が、火炎を作り出し、マーキングが1つ消える。


「敵機撃墜!」

「もう1機だ! 急げ!」


 やはり軍艦を相手するよりは、だいぶ楽だ。

 しかし、乗組員の次の言葉によって、俺は焦りの渦に叩き込まれる。

 

「偵察機墜落! 偵察機墜落!」


 手が震えた。

 俺の心は大きく動揺し、鼓動が激しくなるのが自分でも分かる。

 司令の俺は、新たな事態に次の指示を出さなければならない。

 だが俺の口は、言葉どころか息をすることもできない。

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