第138話 共同戦線
超高速移動をせず、その場に留まった第4艦隊の2隻のレイド級。
後方にいるため2隻の姿は見えないが、どうやら攻撃を仕掛けてこない。
こちらに攻撃をしてこない時点で、訳ありなのは確実。
直接、魔力通信で話しかけてみよう。
と思ったのだが、村上からの通信が先にやってきた。
どうせあの2隻のレイド級に関してだろう。
《相坂、第4艦隊が2隻だけ残ってんだけど、てめえは後方から攻撃しろ》
「うん? ちょっと待て、その2隻は第1艦隊に攻撃してんのか? 少なくとも俺らには攻撃してこないけど」
《俺たちに攻撃? してこねえぞ。つうか、戦闘中も攻撃してこなかった》
「……第3艦隊には?」
《誰にも攻撃してねえよ。あっちが攻撃してこねえんだから、今がチャンスだろ!》
何も考えてないとはこのこと。
第4艦隊の一員なのに、俺たちに1発のビームも放たない。
もうそれ、完璧にアレだろ。
「バカかお前。あの2隻は帝国艦隊離反組だ。俺たちの味方だよ」
《……ああ、だから攻撃してこねえのか。つうかてめえ、バカっつったな! バカはてめえだ!》
俺の言ってることを理解はしてくれた模様。
ただし、低レベルな喧嘩は続けるらしい。
めんどくせえヤツ。
「ともかく、攻撃すんなよ」
《うるせえ! てめえに言われなくたって攻撃なんかしねえ! さっきから偉そ――》
うるさいのはお前だ、村上。
面倒なので、俺はフェニックスとの通信を切った。
「……アイツ、大丈夫か。ちゃんと攻撃を控えてくれりゃ良いんだけど」
「大丈夫だ。フェニックスの艦長は、俺と同じ史上最強の艦長、ライナーだぜ」
「まあ、そうですね」
「しかし、ライナーも大変な司令を抱えたもんだなあ。ヘッヘッへ」
まったく、人間界惑星を救う勇者様は、とんだアホだ。
力だけ強くて、頭も統率力も弱い、きちんとした味方がいなけりゃクソみたいな野郎だ。
でも待てよ、勇者ってだいたい、そんな感じじゃね?
じゃあいいのか。
そんなことはどうでもいい。
村上のせいで気を取られたが、俺たちにはやらないといけないことがある。
第4艦隊を離反したであろう2隻に、その真意を確かめないと。
「あーあー、こちら共和国艦隊の助っ人的存在、ローン・フリートだ。留まった2隻に聞く。君たちの真意はなんだ?」
《緑の一本線か。私たちは、共和国に忠誠を誓った者たちだ。帝国艦隊第4艦隊を離反し、エリノル参謀総長率いる共和国艦隊に合流したい》
《我々も、帝国艦隊を離反する。あんな訴えを聞かされて、帝国に味方できるほど我々は愚かじゃないからな》
ほお、レイモン大臣の暴露とジョエル陛下の呼びかけは、大成功のようだ。
予想以上に早く、順調に、味方が増えていく。
今頃はヤンも有頂天だろう。
そして今頃、リシャールの顔は引きつってんだろうな。
「共和国への助力、感謝します。一緒に戦争を終わらせましょう」
《もとより我々の任務は、戦争を終わらせることだ。よろしく頼む》
《以前、私はガルーダを攻撃したことがある。あの時のこと、今ここで謝罪する》
「え? いいですよ、そんな謝罪なんて。俺たちはもう味方なんですし」
《ありがたい。緑の一本線と共に戦えて光栄だ。お互い、共和国のために尽くそう》
えらく頼りになる人たちが味方になってくれたぞ。
さすがは共和国、いろんな人に愛されてるのね。
それにみんな、さっさと戦争を終わらせる気満々だし。
なんかもう、まともな人が続々と離反する帝国が哀れになってきた。
まさしく帝国の天下は、3日天下だったというわけか。
「ロッド司令、第4艦隊から2隻のレイド級が離反しました。第3艦隊に合流させてください」
《了解した》
よしよし、話が早いのはホント助かる。
離反組の扱いをこんなに早く決められるなんて、戦場では良いことだ。
戦場で最もやってはいけないのは、グダグダグダグダすることだからな。
さて、それにしてもまだ、第4艦隊の行き先は分からないのか。
いっそのこと、離反組に聞いてみよう。
「こちら相坂から離反組へ、第4艦隊は超高速移動でどこに行ったか、分かります?」
《確か、司令はマグレーディへ攻撃を仕掛けると言っていました。セルジュ陛下の訴えを聞いて激怒していましたから、おそらく陛下の故郷を破壊する気かもしれません》
おいおいおい、それはマズい。
いつぞやの冷酷現実主義龍族将軍と同じ展開じゃないか。
マグレーディはほとんど武装していない場所なんだ。
騎士団の相手するだけでも大変だろうに、艦隊相手なんて無理だろう。
「そんな……。ロンレンさんやエリーザ殿下、それにマリア殿下が危険です。アイサカ様、すぐに助けに行きましょう!」
「ああ。俺たちはマグレーディ救援に行く。第1艦隊と第3艦隊は――」
「ちょっと待てアイサカ司令。魔界艦隊を見てみろ」
急いでマグレーディを助けに行こうと思ったのだが、フォーベックに止められてしまった。
魔界艦隊がどうかしたのだろうか?
久々に、魔界艦隊の方角に視線を向ける。
するとどうも、さっきまでと状況が違うようだ。
あんなに魔界艦隊、少なくなかったはずだけど……。
「さっきから魔界艦隊の軍艦が、次々と宙間転移魔法で撤退してんだ。戦争終結って意味では良いことなんだが、戦闘は続いてるみたいだぜ。下手するとエルフ族の美人さん、苦戦してるかもしれねえ」
なんてこった。
俺も、そっちまでは気が回ってなかった。
そうだよ、この戦いは人間と魔族の共同戦線だ。
俺たちの都合だけで戦うわけにはいかない。
「トメキアさん、こちら相坂です。そっちは大丈夫ですか?」
《アイサカ司令殿か。魔界艦隊の大半は、戦争終結に賛同し撤退した。だが一部の艦が反発し、戦闘に発展している。可能なら、援軍を寄越してほしい》
「分かりました。ちょっと待っててください」
魔界艦隊への援軍か……。
マグレーディ救援に、艦隊は3つもいらない。
なら、誰を援軍に向かわせよう。
「遠距離攻撃ができるムラカミさんの艦隊を援軍に送るのは、どうです?」
珍しいことに、ロミリアが戦闘に関する提案をしてきた。
彼女の言う通りだ。
異世界者が魔界を守るって点でも、その方が良い。
「おい村上、お前は魔界艦隊の援軍に行け。俺たちと第3艦隊は、マグレーディの救援に向かう」
《だからてめえ、なんでてめえが仕切ってんだ! つうかてめえ、共和国艦隊じゃなくてただの助っ人艦隊だろ!》
「そうだが何か? そんなことより、魔界艦隊の救援に行くのか?」
《行くに決まってんだろ! 人間界と魔界の共存とかなんだかの象徴になって、俺は最強のビッグになってやるんだ! 勇者なんだからな! 相坂は黙ってろ!》
……よく分からないが、村上は魔界艦隊の救援に向かってくれるようだ。
どんな単純バカでも、ビッグになるための方法はきちんと理解しているわけか。
リュシエンヌやシュリンツ艦長もいるし、俺が思ってるより村上は大丈夫そうである。
なんで俺が怒鳴られてるのかは、納得できないけど。
妙にイライラするけど。
まあともかく、役割分担は決まった。
次は第4艦隊の位置確認である。
そのためには、マグレーディ管制所に確認を取るのが一番。
「こちらローン・フリート司令相坂。そっちに帝国艦隊が向かったらしいですけど、どうです?」
《こちらマグレーディ管制所。南西ゲート付近から帝国艦隊によるドームへの攻撃を受けています! 至急応援を!》
おっと、管制官の藁にも縋るような口調が、マグレーディの状況を端的に語っている。
こりゃ急いだ方が良いな。
「分かりました。すぐに救援に向かいます。超高速移動の準備!」
「了解」
「第3艦隊は、中距離から敵を牽制してください」
「お任せを」
着々と進む、マグレーディ救援の準備。
あとは超高速移動の座標を入力するのみ。
しかし、ロミリアの表情は晴れない。
「どうしたロミリア?」
「いえ、さっきは攻撃を避けられちゃいましたけど、同じことをされたら、どうするのかと思って……」
「それなら一応、考えはある」
「……また、ヤケクソですか?」
「見方によってはな」
「やっぱり」
ロミリアは俺のヤケクソ宣言に慣れてしまったらしい。
不安がる様子も、驚く様子もなく、少しだけ口を尖らせながらも、小さく笑っている。
これは信頼されているということなのか、呆れられているということなのか。
どちらにせよ、俺はヤケクソ以外の戦い方を知らないんだから、しょうがない。
マグレーディのドームは、艦隊の攻撃に長くは耐えられない。
だから第4艦隊とは、すぐに決着をつけないとならない。
とはいえ今の俺は、マグレーディを救う自信がある。




