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第124話 陰鬱な城

 魔界惑星から脱出した俺たちは、ヤンの伝言通り、急いでノルベルンに向かった。

 移動にかかった時間はわずかに40分程度。

 2月20日超大陸中央時間16時28分、すでに俺たちは、夕日に浮かぶノルベルン王都の地に立っている。


 小型輸送機で降り立ったノルベルン王都は、一面が雪に覆われた白銀の世界だ。

 やはり2月の北緯55度の街は寒い。

 冷気に肌が冷やされ、もはや痛い。

 南半球や島嶼連合、過ごしやすい温度に調節されたマグレーディに慣れてしまったのも、寒さを増長させている。


「うう……寒いです……」

「ニャーム……」


 トレンチコートに身を包みながら、なおも手に息を吹きかけ寒がるロミリア。

 同じく震えるミードンと一緒に、お互いが抱き合うことで暖まろうとしている。

 できれば俺も混ぜてほしいものだが、最大の理解者を失いそうなので止めておこう。

 

「うお! 雪じゃん!」

「これほど多くの自然の雪を見たのははじめてだ。以前に騎士団の訓練で――うわ!」

「リュシエンヌ、雪玉が顔に直撃してやんの! おい相坂、雪合戦だ!」


 ……単純バカが幼稚バカに成り果ててやがる。

 雪に興奮して雪合戦なんて、幼稚園児かよ。

 俺たちは雪合戦どころか、マジな合戦を止めようとしてるところだろ。


「これから元老院議会だ。雪合戦なんてしてる暇はないだろ」

「チッ」


 なんだよ、なんで舌打ちされなきゃいけないんだよ。

 この馬鹿野郎、俺にとってはストレスしか生み出さない存在だ。


「お、落ち着いてくださいアイサカ様。ほら、ノルベルン城に急ぎましょ?」


 石を詰めた雪玉を水魔法でガチガチに固め、無意識のうちに対村上雪玉を作っていた俺を、ロミリアが止める。

 よく見ると、彼女の首にミードンが抱きつき、マフラーのようになっていた。

 ……まあよかろう、ロミリアの可愛さに免じて、今回は村上を許してやる。


 小型輸送機が着陸したのは、ノルベルン城前広場だ。

 ヤンが許可を取り、ここへの着陸を許された。

 俺たちの目の前には、要塞にもみえるノルベルン城が、丘の上にそびえ立っている。

 装飾は一切なく、雪を被った石壁が、重々しい空気を放つ。

 おそらく暖房のために石炭か何かを燃やしているのか、城の各所からは、煙がもうもうと立ちのぼっていた。

 あの陰湿な城の中で、元老院議会が行われているのか。


 ノルベルンは超大陸北部最大の国家。

 王様は、今や元老院で唯一リシャールに真っ向から対立できる、イヴァン=ヒューゲル。

 過去には海軍大国として、現在では豊富な鉱物資源を利用し工業国家として栄えている国家。

 何よりフォーベックの故郷である国だ。

 フォーベックを見ているとそうは思えないが、勤勉で合理主義な人間が多い国だそうで。

 

 さて、勤勉さと合理主義を陰湿という形で表象するノルベルン城に、俺たちは入る。

 城の中は暖房がよく効いており、非常に暖かい。

 それでも外見と同じく、城の中身も殺風景で、徹底的な合理主義が不要な装飾の全てを排している。

 機械設備のようなものがそこら中に置かれている点は、工業国家ならでは。

 ヴィルモン城とは真逆であるが、同じ重厚さを感じるな。


 しばらく城内を歩くと、ようやく知った顔に出会うことができた。

 俺たちを見つけるなりこちらに手を振るヤンと、女官を口説くパーシングだ。


「アイサカさん! ムラカミさん! 待ってましたよぉ!」

「うん? ああ、来たのか。すまないがお嬢さん、君の美しさにはまだまだ魅了されていたかったのだが、仕事がはじまってしまった」


 元老院会議の合間に女性を口説くとは、パーシングの女好きには呆れてしまう。

 よくあれで、王様と講和派勢力リーダーなんかやってられるよ。

 女好きはもう1人いるんだが。


「じゃあ、詳しい話はパーシング陛下から聞いてくださいねぇ。ロミーちゃん、寒くない? 大丈夫? そのマフラーも――あ、マフラーじゃなくてミードンか。可愛いなぁ、ミードンは。リュシエンヌさんもそう思いますよね?」

「なに? ミードンは、この世に降り立った天使様のように可愛いが……」

「ですよね、ですよね! さすがはリュシエンヌさんですよぉ」


 ヤンのヤツ、ついにロミリアだけじゃなく、リュシエンヌにも手を出したか。

 しかも動物好きを利用するとは、まさに策士である。

 

 いや、ヤンの女好きはどうでもいい。

 ホントは問題だが、今はどうでもいい。

 今の俺がすべきことは、パーシングに現状を聞くことだ。


「会議の方は、どうなんです?」

「リシャール陛下の独壇場だ。旧サルローナ勢力が必死に抵抗しているが、異世界者追放が取り消されるのは確実だろう。中立だったイヴァン陛下が、取り消し賛成に傾いているしな。ま、それ自体は悪いことじゃない」

「え? なら、俺たちを呼んだのはなぜですか?」

「実は、ノルベルンの過激派がこの会議でテロを起こす可能性があってな。それを止めるには共和国騎士団で十分だが、うちの諜報機関が、ヴィルモン政府と過激派の連携の可能性を見いだした」


 過激派のテロだと?

 それをヴィルモンが支援?

 意味が分からない。

 そんなことをして、リシャールになんの得がある。


「なんでヴィルモンが過激派の支援を?」

「分からん。だがおそらく、元老院議会に対するテロ攻撃が、リシャール陛下にとって都合の良いことなんだろう。議会がヴィルモンじゃなくここで開かれてるのも、先日の魔界軍の攻撃を理由としてるが、ホントのところは知らん」

「……ともかく、騎士団は信用ならないから、俺たちがテロを防げということですね」

「そうだ」


 めんどくさ。

 ついさっきまで、魔界惑星で和平交渉と脱出劇を繰り広げたばっかなのに、忙しい。

 あ、そういや魔界惑星で起きたこと、きちんと話しておかないと。


「パーシング陛下、実は大変なこと――」

「悪いが後にしてくれ。もう休憩が終わる」


 重要な報告をしようと思ったのに、無下にされてしまった。

 なんだか、パーシングはあまり機嫌がよろしくない。

 顔を合わせてからずっと、彼の言葉は事務的な感がある。

 代わりにヤンが話し相手になってくれた。


「最近、ボクたちはリシャール陛下の後手に回ってますからねぇ。パーシング陛下も忙しくて、疲れてるんですよ。ほら、酒も飲んでないんですし」

「マジか!?」


 あの万年酔っぱらいが酒を飲んでいないだと!

 でも確かに、パーシングの顔が赤くない。

 機嫌が悪いのも納得だ。


 俺たちはパーシングの後を追って、元老院会議が行われる大広間に入っていった。

 大広間は、元老院ビルの会議室と同じように、立派な円卓を各国の王様が囲んでいる。

 元老院ビルとの違いと言えば、建物の新しさぐらいだろうか。

 むしろ、こちらの方が重苦しで勝っている。


「で、魔界惑星で起きたことなんだけど――」

「もう会議ははじまりますよぉ。後で聞きますね」


 むむむ、またも話を遮られた。

 佐々木が死んで、久保田が魔王になったことは、早く伝えたいのだが。

 和平交渉の結果や降伏文書についても、きちんと相談したいし。


「パーシング君、君はなぜ、ムラカミ君とアイサカ君を連れているのかな?」


 早速、リシャールが俺たちの存在に噛み付いた。

 旧サルローナ派閥の王様たちも、俺たちのことを睨みつけている。

 一方で、イヴァンやヴィルモン派閥の王様たちは、歓迎ムードを漂わせている。

 異世界者追放取り消しの話し合いらしい反応だ。


「陛下は異世界者追放取り消しの動議を提出したんです。なら異世界者本人も会議に参加するのは、当然では?」

「異世界者は強大な力を持つ。彼らの力は、存在だけでも脅迫になる」

「そんな旧サルローナ派閥への配慮、いらないでしょ」

「しかしだな――」

「異世界者の参加は予も賛成だ。リシャール、やはり当事者は必要であろう」

「……よろしい。異世界者の参加を許可する」


 イヴァンが味方してくれたおかげで、リシャールは嫌そうな表情だが、なんとかなった。

 でも不思議だ。

 リシャールは異世界者追放取り消しの動議を提出したのに、なんで俺たちの存在を嫌がるのだろう。

 やはり、過激派のテロが関係するのか。


「では、異世界者追放の取り消しに関する話し合いを再開する。今一度、各々の主張を」


 久々に参加する元老院会議。

 今回は会議の内容に緊張する必要がない代わりに、気が抜けない。

 テロリストの襲撃というが、下手するとそれは、リシャールの陰謀かもしれないからだ。

 一体ここでなにが起きようとしているのか、俺たちにはまだ分からない。

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