そして、恋に落ちる
はじめて人を好きなった。
はじめて恋を知った。
はじめて悲しみも知った。
初恋。
「こないだはどうも。」
爽やかな笑顔でレイジさんが手を振る。その横で荷物を積み込んでいる背中にドキっとする。
ヒカルさんだ。
視線が磁石のように彼に引きつけられて、離せない。引き締まった身体とかなり鍛えているのが分かる、ふくらはぎの筋肉。長身の彼はどんな服もサラリと似合うだろう。瞳に少しかかる前髪と、綺麗にそろっている白い歯が清潔感を感じさせる。レイジさんの幼い造りとは対照的に精悍な彼の顔。
その顔が向きを変え、まっすぐ私を捉える。
「おはよう。」
「・・・おはようございます。」
再び薫る、白檀の風。彼の匂い。
同級生とも父親とも、何人かの知らない男達とも違う、洗練された匂い。これが大人の男の香り?
「ヒカル、これで全部?」
レイジさんの声に我に返る。横にはニヤニヤ顏の早希。
「カンナ、目がと~ろりんこだよ。ウシシ。」
「何がウシシだ。バカ。」
早希を叩く真似をして、私は汗を拭った。
8月の太陽が昇り始めていた。
車の窓を大きく開けて、潮風を浴びる。車から見る限り、波は穏やかだ。
「ヤッホー!」
早希が叫ぶ。
「ヤッホー、は山でしょ。」
「カンナは固い!海でも山でも心の雄叫びはヤッホーでいいのよ。」
「そういうもん?」
私達の会話をレイジさんと彼は面白がった。
「何か早希ちゃんとカンナちゃんって最強コンビだよね。」
レイジさんがハンドルを大きく右に切りながら言う。途端目の前には、白波がたつ青い海!
「オーシャンビュー♪」
「さすがにそれは違う。」
堪らず彼が吹き出す。笑うと優しく崩れる彼の瞳の中には私が映っている。
恥ずかしそうに。それでいて色鮮やかに。
自分でも何か良く分からないオーラの様なフェロモンの様な、甘い薄い膜が私を包んでいるのを感じた。
「着いたよ。」
車のドアを開けて差し出された彼の手を握った瞬間、私は悟った。
これが恋だと。
私、まだ2回しか会ったことのない彼に、恋、したのだと。
私の初恋はよういち君だ。あれ?ようすけ君?あれ?よう・・・・