とめられない想い
はじめて人を好きなった。
はじめて恋を知った。
はじめて悲しみも知った。
初恋。
自転車は勢いがますます落ちていく。
この坂、マジでキライ。
急なだけじゃなく、長いのよ!
悪態をつきながらも、カンナの顔は笑っていた。
2年後、あの店で。
彼の柔らかい表情と温かく頭を撫でる手の温もりが、カンナの身体を駆け抜ける。
彼はもうついてるだろうか?
私を待っているだろうか?
ねぇ、早希?
早希にはわかる?
風が少しだけカンナの髪を横切った。
初めて彼に会った日から一週間、私と早希はずっと一緒に過ごしていた。2人でファストフードでお茶して、ショーウィンドウをブラブラひやかし、ゲームセンターでプリクラを撮った。そして夜は適当に見繕った男の家に転がり込む。学校にも行かず、家にも帰らず、街でうろつく私達には沢山の男が声をかけてくる。
可愛いね。
暇なの?
一緒に遊ぼない?
君たち、幾ら?
そんな男の相手をするのは、きまって早希だった。
可愛い?ありがとう~
そう、暇なの~
遊ぶ、遊ぶ。
幾らって下品~
早希のペースに乗せられて、気がつくと男たちは私達に寝床は提供しても、それ以上は要求してこなかった。私達は夜遊びしても、ウリはしない。それが私と早希の暗黙の了解。こんなこと、危ないってのはさすがにわかっていた。でも早希がいれば大丈夫、と根気のない想いだけで、私は泊まり歩くのをやめなかった。
「海、いきたくない?」
何人目かの心優しい下心満載の男の家で、汗臭い布団に横たわりながら早希が呟く。
「水着、ない。」
「水着かぁ~」
「それに海までの足もない。」
「それなら大丈夫!」
前髪のうねりを気にしてヘアピンで押さえつつ、早希はスマホを開く。
「レイジさんが連れてってくれるって。」
思わず無言になる私をニヤリと覗きこんだ早希が笑う。
「カンナって、本当に可愛いよね~。」
耳まで赤くなるのがわかった。
「ヒカルさんのことが気になるんでしょ。」
どういう意味で?
「好きになりそうとか?」
私の心の声が聞こえているんですか?早希ちゃん?
「カンナ。」
いつになく真剣に早希が口を開く。
「避妊はしなよ?」
汗臭いマクラを早希の顔めがけて投げつけた。
リアルな引っ越しは、要らないモノ捨てたり新しい物買ったりしますが、小説の引っ越しはなぜか手が加えられません。