プロローグ
人を好きなるのに理由は要らない。
プロローグ
10月ってこんなに暑かったっけ?
カンナは自転車のペダルを力強く漕ぎながら呟く。
額にうっすら浮かんだ汗が白い肌を一層眩しく写し、すれ違う男達の視線を奪っていく。しかしカンナは微塵も気を止めずぐんぐんペダルを漕ぐ。
今日は私が17歳になる特別な日。この日をずっと待っていた。彼との約束のこの日を。
もうすぐ、もうすぐ。
もうすぐ、あなたに会える。
出会い
カンナが彼と初めて会ったのは、15歳の夏だった。
その頃のカンナは、いわゆる『荒れて』いて、家にほとんど帰らなかった。学校も家も仲の良かった友達も自分の将来もなにもかもどうでもよくて、その日に初めてあった人の家に泊まる生活を繰り返していた。
大きな理由はなかった。
ただ
ずっとみんなに大事にされて愛されている自分
の役割の飽きていたんだ、と今になってカンナは思う。
カンナは小さい頃から人を惹きつける大きな瞳と白い肌を有し、誰でも彼女に好感を持った。加えて、カンナの両親はそれなりに地位も財産もある人物だった為、経済的にも人間関係に於いても不自由をした記憶がなかった。誰もがカンナを褒め、愛し、側にいたがる。カンナもそれがずっと当たり前だと思っていたし、不満もなかった。でも心の中にはいつもなにか満たされない思いが渦巻いていたのだ。
「いつも明るくて楽しいのが月村カンナ。寂しがりで実は誰かに包まれていたい頼りない私をみたら、
きっと誰も愛さない。」
そんなやり場のない思いが、カンナを夜の街に誘った。
いま思えば何て贅沢で幼稚で短絡的だったのか、と自分でも苦笑してしまう。
でも15の夏、本気で自分を愛してくれる人がいないと「思い込んでいた」苦しさは嘘ではなかった。カンナは苦しくて悲しくてどうしようもなくて家を飛び出した。そして夜の街で彼に会った。
月の綺麗な夜だったのを覚えている。
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