九
いきなりなんの断りも前触れもなく、世界がわたし一人を覗いて滅亡したのは。
何十年も前から危惧されていた、わずか数分で終わる最終戦争というやつである。
東西対立は終わった、だの、冷戦構造は過去になったなどとほざいても、核ミサイルは地上のほとんどの生物を死滅させるのに十分な数があったし、事実それらはそのような用途にしっかりと使われた。
わたしが知っているのはそうした結果だけであって、原因、つまりどこの馬鹿が最初のボタンを押したのかなんてことは、てんで知らない。
調べようもないし、第一あまり興味もない。
あれ以来、長いながーい時間が経ったけど、わたしは生きて動いているわたし以外の生物を一度も見ていない。
そりゃあ、この地上は核の冬とやらで今や陽が射すことさえまれな極寒の地だし、そこいら中放射能だらけでもある。
けれども、そろそろそうした環境に適応した生物か、それとも生物もどきが現れてもいいように思う。
わたしの記憶と計算が正しければ、あれから五十三万七百六十二年と二週間と三日も経つのだから。
わたしはといえば、あれ以来、ずっと凍えっぱなしで餓えっぱなしだが、こうして死ねないでいる。
その間に何度も自殺を試みたり気が違いかけたりしたが、どうした加減か時間が経つとすべて元に戻っているという始末。
わたしは、この週末以後の世界で、あとどれだけ憂鬱な不死の時間を過ごせばいいのだろうか?
その疑問に答える者は、もちろん、どこにもいない。