第六話|狩り《ハンティング》に行こう。あるいは新たな出会い
名前:ゼット 大種族:機械族 小種族:ディスクシューター
HP25 SP51
STR:9
VIT:3
AGI:15
TEC:21
INT:1
MEN:27
ATK:37~51 DEF:2 MATK:1 MDEF:5
スキル:機工士Lv22 木工:Lv20 錬金術:Lv8 陶芸:Lv5 大声:Lv1 調剤Lv3
装備
ハンドミキサー[111]
小枝のマニピュレーター[105]
セラミッククロウ[215]×4
ポイズングラインドディスク×20
ディスクボウガン[310]
「うん、やっとここまで来たって感じだな」
ステータスと装備を確認して俺は一人感慨深く頷いた。
あれから、どういう形を目指そうか迷った結果、ボウガンに直接足をつけてその上に流線型の頭が乗っかっている形態に落ち着いた。これが一番射撃の命中率が良かったのだ。
足は木製の関節に足先だけクラインドソーサーレシピから砂を抜いたもので作った爪をつけた。全部陶器で作ることも考えたのだが、魔物素材が入っているせいか関節に使うと力は強くなるのだが燃費がハンパないという仕様だったため断念。
進化条件を達成したのか小種族名が変わって「ディスクシューター」になった。機械族の小種族名は○○ギアで統一されていると思ったらそうでもないようだ。それにしても、「ディスクシューター・ゼット!」って言うと、五時くらいにやっているおもちゃ宣伝アニメのタイトルの様だな。
スキルに関しては使っているのが伸びた。しかし、対プヨンスライムで散々近接戦闘しているというのに一向に戦闘スキルが生えないのは、機工士が「機械での戦闘行為」について一括しているからだ。
やっとまともに戦えそうなステータスになったので実戦が楽しみでならない。
「それじゃあ、狩りに行こうか」
今回の獲物ビッグマウス、その名の通り大型犬ほどもあるネズミである。動きが早くそこそこ体力があり、特技挑発で行動阻害してくる厄介な敵であるが、ネズミのくせにこいつは群れない。そしてすべての大陸にまんべんなく棲息しているので、初心者ソロの相手として広く親しまれているモンスターだ。
もちろんこのセグンド大陸にも多く生息しているのだが……
「くそっ! 思ったよりも動きがはえぇっ!」
俺は追いかけてくるビッグマウスの挑発範囲に入らないように必死に逃げながら隙を見てはディスクを撃ち込んでいく。が、効いてるのか効いてないのかほとんど無視するように襲いかかってくるビッグマウス。ついでに言うと毒耐性も高いようだ。そらそうだよな! 鼠だもんなっ! いや不潔に強いのと、毒に強いのは違うのか? だったらやっぱりモンスターとしての特徴……ってそんなこと考えてる場合じゃない!?
少しでも集中力を切らすと、すぐに挑発効果範囲に入ってしまう。こちとら紙装甲の虚弱体質。行動阻害につかまったら、即オダブツだ。
円を描くように逃げながら下に落ちたディスクを回収するのも忘れない。なにせ二十発しかないのだ残弾は大切にしたい。
「しっかし何発撃ちこみゃ、倒れんだよこいつはっ!」
すでに一周分、20発は打ち込んでいるのに一向に勢いが衰える気配がない。
どうする? いったん逃げて戦略を立て直すか?
その時、視界の外れから声がかかった。
「すみません。助けますか?」
「お願いしますっ!」
正直SPも、もうじり貧だったので、一も二もなくお願いした。同時に炎の槍がいくつも飛んできて、それを追いかけるように子供ほどの人影が草むらから飛び出してきた。
「シャアアアアアァァァァァァッ!」
人影は二本の包丁を持って炎の槍が命中してうろたえているビッグマウスに突撃し、あっという間に切り刻んでしまった。
「あぁ、あとちょっとだったんですね。もうちょっと粘ってれば倒せてましたよ?」
赤い帽子をかぶった彼は穏やかな敬語口調とは裏腹に顔には深いしわが刻まれ、大きく裂けた口からはギザギザの歯がのぞいている。まさに化け物といった風情だった。
「うわ、マジか。もったいないことした。それはそうと、助けてくれてありがとうございます」
俺はマニピュレーターを相手に差し向け握手を求める。
「いえいえ、こちらこそ余計な事をしてしまったみたいで」
彼は見た目のおどろおどろしさとは裏腹にやっぱり腰の低い口調で俺のマニピュレーターを握り返してくる。ひとしきり「すみません⇒いえいえ」ループを繰り返してから、俺は自己紹介を切り出した。
「あ、自己紹介もせずにすみません、俺は機械族のゼット。小種族はディスクシューターになります」
「あぁ、ご丁寧にどうも。私は妖精族のレッドキャップでダーレスと言います。気軽にだーさんとでも呼んでください」
「そうですか、それじゃあ俺のこともゼットと読んでください。というか妖精族なんですね? てっきり人鬼族だと思いましたよ」
「見た目怖いでしょw? 所謂、邪妖精とか日本の妖怪なんかもここの進化ツリーに入ってますし結構分類はいい加減なんですよ」
「そうなんですか……。っ!?」
和んでいると急に森の奥からズゥンズゥンと地響きが迫ってくるのを感じ、思わずそちらのほうに身構える。
すると森の暗がりから、身の丈二メートルはありそうな豚人間が飛び出してきた。こっちがちっちゃいものだから余計に威圧感がすごい。
「うあぁっ!?」
「あぁ、大丈夫ですよ。うちの妻です」
「は? 妻ぁ?」
そういえば胸にさらしを巻いている。それ以外女性らしい特徴は皆無だけど……。というか夫婦でVRMMOってのも珍し……くもないのかもしかして? うちの両親とかもそうだしな……。
「もーっ、だーさんったら走るの速いですよ~。あら?はじめましての方かしら~」
いかつい豚人間の顔からはまったく想像できない、あらあらまあまあとおっとりした女性の声が漏れ出てきた。ぶふぅ~と喋るたびに口から出てくる息のエフェクトも違和感を加速させる。
「あぁ、はい。はじめまして、機械族のゼットです」
「はい~、はじめまして~。鬼人族オークのルクスです~。る~さん、もしくは素敵な奥様って読んでくださいねぇ」
俺がマニピュレーターを伸ばしても届かないのをみると、ルクスさんはわざわざかがんで握手に応じてくれた。やや天然っぽいが悪い人ではなさそうだ。
「いや、旦那さんには助けられました。それにしてもお二人はどうしてこんなところへ? ここってもしかして街が近かったりするんですか?」
「そうやって聞くってことは、あなたも迷っているんでしょうか? 恥ずかしながら私たち、サービス開始当日にリポップ場所を指定しないまま死んじゃいまして。今日までランダムリポップを繰り返して、昨日ようやくこの近くで合流できたばかりなんですよね」
この人らも間抜け枠だった。
その各地を死にながら彷徨っている間に戦ってると、今の姿に進化したんだそうだ。
どうやら妖精族は死に続けることで、邪妖精進化ツリーへシフトするらしい。奥さんのほうは何が原因で今の姿かわからないと言っていたが、リアルが小柄なので視点が高いのが面白いので気に入っているそうだ。
「それはお互い苦労しますね。実は俺も……」
俺は自分の、事情も説明した。
「そうだったんですか、それでそんな姿に、でも、ビッグマウスもに苦戦するんじゃきついですね」
「だーさんだーさん、毒が使えるんなら~。あのMOBと相性がいいんじゃないかしら~? ほら、ここに来る途中にいた」
「あぁっ! そうだね。もしかしたらだけど」
「? なにか、珍しいMOBを見つけたんですか?」
「いえいえ、相当数の群れがいたので珍しくはないと思いますよ。ジュエルタートルという名前の亀なんですがアクティブでもないしリンクもしないんですがとにかく硬いうえに、一撃入れると石の甲羅にこもっちゃって、私たちじゃまともにダメージを与えられなかったんですよ」
「なるほど、その点、毒なら固定継続ダメージだから、倒せるかもしれないということですね? 情報ありがとうございます。でもこっちにはお返しできるものが何も……」
「じゃあ~、今拠点にしているマニコさんの領域でしたっけ~? そこを教えてくださらないかしら~? 私たちも、また死んじゃう前に早くリポップ場所を決めようといってたんですけどなかなかいい場所がなくて~。他にプレイヤーがいる所なら心強いんですけど~」
俺が恐縮しているとルクスさんがそんな提案をしてきた。
「あぁいいですよ……っと先にマニコに了承を貰わないとだめですよね。でも、あいつ今日Inしないみたいで」
「では、明日以降に僕たちを紹介してもらうということで、今日は近くで落ちさせてもらいますよ。どのみち、今日はもう二人とも落ちるつもりでしたし」
「はい、じゃあそれで行きましょう。先に亀のいるところに案内してもらってもいいですか?」
「はい~、こっちですよ~」
俺は、二人の先導で森の中を移動し始めた。ほどなく少し開けた草はらに出てそこにはポツリポツリと疎らながらも少なくない数の石の甲羅を持つ亀が草を食んでいた。
俺はその場所を簡易MAPにマーキングしてから二人をマニコの領域に案内して、ログアウトするのを見送る。
「ようし、仕切りなおして亀を狩るぞ!」
今日はもう少し余裕があるので、本当に亀を狩れるか実験しに行こう。狩りはまだ終わらない。
ビッグマウスが瞬殺されたのは、瀕死だったからで、特にだーさんがものすごく強いというわけではありません。
簡易MAP機能はゲームの仕様です。ただ、一キロ圏内ほどしか表示されませんし、マーキングも一度圏外へ出ると消えてしまいます。