第五十五話 D・C・H・S!!
いろいろ考えた結果バンブードリルは左手に仕込むことにした。ショートカット装備切り替えに登録してマニュピレーターと切り替えて使っていく。ATK137~203かついに200の大台に乗ったなぁ。まぁ、最前線のATKは400越えが出始めたってところだから、半分程度なんだけど。
さておき、他にも作りたいものはあるのだけれど、まずはこのドリルの使用感を確かめたいところ。っていうか使用欲求の方が断然強いので早く試したいのだ。
「と、いうわけでいい試し突き場所はないですかね?」
「あたしに訊くんだ? 陽花じゃなくて」
「だってあの人に聞くと、ノリでとんでもないとこ連れてかれそうで……」
「まぁ、それは否定しないわ」
相談相手に選んだのはクーラさんだ。今日はレキはINしていないので誰かいないかと探していたところ、何やら忙しそうにキョンシーたちに指示を出していた彼女を発見して相談があると声をかけたのだ。
「でも、ちょうどよかったわ。……あ、トノサマ聞こえる?」
クーラさんはヴァーチャルパネルを開くとWISコールをかけ始める。どうやら相手はトノサマの様だ。
「うん、その件。ゼットさんが手伝えるかもって。うん、報酬とかはこっちで相談するから気にしないで、戦力増強は急務なんだから。ギルドとしての依頼ってことにするわ。じゃあ、話まとまったらそっちにゼット君送るから」
「何の話ですか?」
WISが切れたのを見計らって問いかける。何をやらされるんだ一体?
「そんな大したことじゃないの。今トノサマが新しく作ったキョンシーのレベリングしてるんだけど、それに付き合ってくれないかなって。護衛ができたら、もうちょっと効率のいい狩りができるのよ。あたしは見ての通り忙しいし、今はほかのメンツも手が空いてないのよね」
「なるほど、そういうことならお手伝いしますよ。報酬は……魔石でお願いします」
「? それでいいの? ウチの鉱山から出るのはあなたが今使ってるような立派なのじゃなくて、砂粒みたいな屑石ばっかりなんだけど……」
「はい、それをまとまった数ほしいんです。昨日チャンタと話してて俺には価値のあるものだってことが判明したので」
「そういえばチャンタもゲートの修理に使ってたわね。OK具体的な量はチャンタと相談して決めさせてもらっての後払いになるけどいいかしら?」
「全然かまいませんよ。それで、どこへ行けばいいんです?」
「ここから南へちょっと行ったところ。鉱山のふもとに今はいるわ。この町の南門のすぐのところに直通トロッコが設置してあるからそれで向かってちょうだい」
とろっこ!? そんなものまであるのか。今度チャンタに作り方を聞いておこう。
俺はさっそく出発することにした。
◇◆◇
「とうちゃーく。鉱山まえー、 鉱山まえー」
直通トロッコはキョンシーによって運営されていた。驚いたことにここのキョンシーたちは簡易ながらも会話が可能らしく、乗りたいと話しかけるだけで鉱山まで連れてきてくれた。
肝心のトロッコだが車輪に箱をのっけたものに魔力回路を通しただけの非常に簡素なものだった。ホント、機械的な仕掛けには興味がないんだなアイツ。しかしその魔力回路は複雑に絡み合って、キョンシーたちの低い魔力でも動かせるようになっている。
だけど惜しいなぁ。もっと車輪周りを効率化できるし、何よりブレーキまで魔力に頼り切りにしてしまってるから、そこまでスピードが出せないようだ。うん、この改造案は売れるな。覚えておこう。
「えっと、君がゼット君でよいのかな?」
トロッコをまじまじと眺めていると後ろから声をかけられた。振り返ると頭にちょんまげを一本はやした2mほどのガマガエルがたくさんのキョンシーを引き連れてそこにいた。もしかしなくてもトノサマさんだろう。特徴的すぎる。
「はい、そうです。すみません、夢中になってしまって気が付きませんでした。機械族ギア・バーバリアンのゼットです。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。そう固くならんでくれ。楽にしたらいい」
そういってニィっと口の端を釣り上げるトノサマ。いや、WISで聞いてた時も思ったけど、改めてダンディーないい声してるなぁ。まさにロマンスグレーという言葉がぴったりだ。……ちょんまげだけど。
「頭のこれかい? ファッションだよ。せっかくトノサマなんてキャラクターネームを付けたんだしね」
「いや、すみません、なんかジロジロ見てしまって……」
「気にしなくてもいいよ。むしろみられるためにやっているんだ。レキ君にもさんざんつっこんでもらったよ」
そういうとトノサマは、「はははっ」とこれまたさわやかダンディに笑う。
うーん、懐が深い。こういう大人になりたいものだな。
「さて、ゼット君も来たことだしもうちょっと深いところに行こうか」
「はい、行きましょう」
そうして山のふもとの林を抜けてごつごつとした岩山に出た。
「普段はふもとの林でMOB.を狩っているんだけどね。やっぱりここまで来てストーンゴーレムを相手にした方が効率がいいのさ」
「そうなんですか、でもストーンゴーレムって言ったらクーラさんの種族ですよね? あんなでかいの作りたてののキョンシーで狩れるんですか?」
「クーラは鍛えているからね。ここに出る程度の小さい奴なら集団……ここに連れてきているのは16人だけど、それだけの人数で囲めば一匹くらいは安全マージンを取ったうえで相手どれる。ただ、二匹以上だときつい」
「そこで、俺の出番というわけですか」
「その通り。同時に二体以上出たときや、相手にできないくらいでかいのが出たときに対処してほしい。キョンシーたちはまだ私が直接操作しないといけないから、彼らが戦っている間、私は戦えないんだよ」
「了解しました」
キョンシーは一度破壊されると、一から作り直しで能力はリセットされてしまうらしい。一匹も破壊させられないというわけだ。
将来は盾職前衛希望なのだし、敵を引き付ける練習もさせてもらおう。
と言っている間に一匹目が来た。あ、本当に小さい。クーラさんの1/3位しかないや。
それを集団で囲みながら背後にいるキョンシーが攻撃していく。見事な連携だ。
あの精度で16人全員を一度に操作するって大変だろうなぁ。実際キョンシーたちが戦い始めてからトノサマさん微動だにしていないし、きっと集中しているんだろう。
そういえば、俺の武器って石相手に徹るのかな?
まだ出番は先の様だしちょっと試してみるか。
俺は適当な岩の前に立つとまずはチェーンソーアックスを起動させて振り下ろしてみた。
ジャガンっ!
結果はそこそこ。
刃の半分あたりまで食い込んで止まった。押し当てれば普通に両断できそうだ。っと言うかチェーンソーなんだから元々はこんな風に相手に振り下ろして使うもんじゃないんだけど、普通のチェーンソーでやったら跳ね返ってきて危ないだろうしな。そこはまぁファンタジーゲーム補正というところか。斧の方の属性が乗っているからだろう。
さて、お待ちかねのドリルの使用運転である。
起動、回転は工房で試したときと同じく何の問題もなく行えるSPも多少きついが問題になるほどではない。
回転速度が最大になったところでさっきとは別の岩に向かって突き出してみる。
「ドリルクラッシャーハリケーン!」
ジャギャァァァァッッッン!
……砕け散った。……岩が。
いや、見た目花崗岩っぽかったしそれほど頑丈な岩じゃなかったんだろうけど、それでも俺の腰くらいあったのの上半分が見事に削られている。
すげぇなATK200オーバー。
なんにせよこれで護衛を務めるのには何の問題もないことが分かったし、改めて護衛に集中しよう。
っと、意識をトノサマさんたちに戻すとそっちの方に黒い大きな影が迫っているのが見えた。
「あちゃー、今日は運が悪いなぁ」
気が付くとトノサマさんが隣にいた。キョンシーたちもストーンゴーレムを処理し終わったのか、その横に整列している。
「なんですか? あれ……」
「玄武ゴーレム。ここに時々湧く強MOBでね。その名の通り玄武岩でできたゴーレムさ。かなり硬いんだよ。正直ここに連れてきているメンツじゃダメージを与えられない」
「っと言うことは俺の出番ですか?」
「やめといたほうがいい。君の武装は見たところ切断や刺突系だろう? あれはそっち方面にかなり耐性が高いんだ。ウチの連中もクーラの打撃や、陽花の魔法以外だとまともなダメージを入れられなかった。加えて、攻撃力もかなりのものだ。そのボディ、耐久力はいかほどかな?」
そういって、数瞬目をつぶってから決断したように。
「仕方がない。アレは見た目よりも足が速くて、ただ逃げたんじゃ逃げ切れないだろうし、キョンシー1チームをおとりに使うか」
といった。
しかしそれは承服しかねる。
「待ってください。こっちにも護衛を引き受けたプライドってものがあります。時間稼ぎくらいなら、やって見せますよ。それに俺には緊急脱出手段もありますから」
むろん飛行形態のことである。
「そうかい? それなら助かるけど。本当に大丈夫なんだね?」
「任せてください」
「なら、任せよう!」
そういうとトノサマさんは一目散に山を下り始めた。同時に玄武ゴーレムがこっちに気が付いたのか駆けだす。ってホントに速ぇ!?
あわてて、その間に立ちふさがる。近づくにつれ相手の姿がはっきりと見えるようになった。大きさは俺と俺の二倍ほど、その名の通り黒い六角柱で構成されたそのシルエットは意外にかっこよかった。
「だけど、だからってここは通せないなぁ」
目の前に出たことで攻撃目標を俺に定めたのか。玄武ゴーレムはその黒い拳を振りかぶる。
「そんな大振りには当たってやれないぜ!」
振り下ろされる拳を俺は再度ステップでかわして同時にその腕に向かって斧を振り下ろす。
ジャギャァァァァッッッン!
砕け散った。……斧が。
えっ? 確かに全力だったけど耐久力ほぼほぼMAXだったチェーンソーアックスが一撃で? 防刃性能ってそういう?
混乱してる間に横薙ぎの拳が俺を襲う。完全に気が付かなかったので少しふっ飛ばされた。
その時、目端にトノサマたちが入った。まだ見えてるってことはもうちょっと時間を稼ぐ必要があるか。
気と体勢を立て直し再度玄武ゴーレムに向き合う。
幸い、俺をほってトノサマたちの方へ向かう気配はなし。
さてと、初めての相手があんな堅そうなので悪いがバンブードリルの初陣と行くか。
繰り出される右ストレートをダッキングでかわし懐に入り込むと俺はそのどてっぱらに最大回転のバンブードリルを叩き込む。
「ドリクルラッシャーハリケーンスペシャルァっ!!」
ギャイィィィン!
「クソっ! 咬んじまったか!?」
バンブードリルは突き刺さったものの半ばで刃が何かに咬んだように回転を止めてしまった。
抜こうと思っても抜けないし、相手はゴーレム腹に穴が開いたくらいで止まってくれるわけもない。横目で確認するがトノサマたちはまだ十分距離を取ったとは言えない。
時間を稼ぐにはドリルをパージしていったん距離を取る手もあるが……。
「退くか進むか迷ったら、前に進むのが漢の子ぉ!」
俺はそのまま近くの大岩に向かって押し出しの要領でたたきつけた。
そしてインパクトの瞬間に合わせて。リミッターを無視して魔力回路に魔力を注ぎ込む。
その瞬間。
バギャァァァァァァァッッッッン!!
玄武ゴーレムは、内側からはじけ飛んだ。何を言っているのかわからないかもしれないがそうとしか表現できない。
「何が……ってあぁっ!?」
そしてよく見るとバンブードリルも外側に向かって花開いていた。要するに、玄武ゴーレムの中でドリルがほどけて外側へはじけ飛んだのだその勢いで玄武ゴーレムも……。
しっかし、
「これじゃあ、実用段階にはないなぁ」
いつ刃が咬んではじけ飛ぶかわからないなんて恐ろしくて使いようもない。今回はいい方に働いたがいつもそうだとは限らないのだ。
「やっぱり刃にするために竹の先を外に出したのがいけなかったか……それに……」
この後、心配してトノサマさんがWISしてくるまで、その場で考え込んでしまったのは秘密である。
子供のころから「ストーゴーレムって何岩なのかな?」って疑問でした。今回はそんなお話。
評価ポイント3000並びに、50万PV越えありがとうございます。これからもよろしければお付き合いください。




