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第五十一話:魔物の町チョウラン

 ゆらりと世界が揺らめいて、次いでエレベーターで降りるときのようなふわふわとした酩酊感に襲われる。そして瞬きをする間に景色は変わり、そこはもう山水画に出てくるような竹林の中だった。


「ようこそディスアンへ! 歓迎するよゼット君! うん、思っていたよりも大分荒々しいい容貌だね!」


 目の前にはテンション高めで両手を広げたポーズをとっている頭に花を咲かせた女性が一人。おそらく陽花さんだ。うん、WISでも騒々しかったけど、動きが伴うとさらにうるさいな。


「いきなりそのテンションはやめてあげなさい、どうしていいかわからなくなって固まってるじゃない」


 その隣にいるごつい体格の石人形がクーラさんか、るーさんもそうだったけど、声と見た目のギャップがスゲー。


「いや、初めてのゲート移動で酔っただけだから気にしないでくれ。えっと、陽花さんにクーラさんでいいんだよな?」


「そうだとも! そういえば直接顔を合わせる…と言ってもVRなのだが…のは初めてだったね。では、改めて自己紹介しておこう。植物族アルラウネの陽花だ! よろしく頼むよ!」


 ビシッ、ビシッっといちいちポーズを決めながら自己紹介する陽花さん。ロールプレイが徹底しているなぁ。流石にリアルでこれってことは無いだろうけど………ないよな?


「もう、だから、ちょっとは自重しなさいって。あ、私は無機属ストーンゴーレムのクーラです」


 無機属は、スライムやーゴーレム、パペットなんかの属する種族だ。成長の仕方によって幅広いモンスターになれるので人気の種族でもある。


「これは御丁寧に。こちらこそ、改めまして、機械族…今はギア・バーバイリアンのゼットです。これからしばらくお世話になりますね」


 それにしても……。


「見事な竹林ですね。これはアイディアが捗るなぁ」


 そう竹である。


 木材とはまた違った性質のある新素材。これは利用しない手は……。


「あー、期待してくれているところ悪いんだが、それは無理なんだ」


「え?」


「切れないのよ、それ。下手な金属より硬いの」


「……本当に?」


「少なくともあたしたちの今持っている素材じゃあ切ることはできなかったわ」


「でも、それじゃあ、目の前にある道はどうやって?」


「幸い、燃えるからね、根まで燃やし尽くしてその後彼らが嫌う薬を道に撒いたのさ。その時、燃え残ったのが少しだけあるが、加工はとてもできないね。」


 まじかー、せっかくの新素材なのにもったいない……いや、加工する手段さえ確立してしまえば金属よりも固い竹というファンタジー素材ということになるよな。それはそれでおいしいかもしれない。


 それに無理だと言われれば挑戦したくなるのが、俺のSAGA! そうやって最弱からここまで来たんじゃないか。


「くくく……そうだ…そうだよな……」


「なに一人の世界に入ってんのよ。あっちの二人がひいてるじゃない」


「おう、レキもついたか」


「着いたかじゃないわよ、こっちに着いたら次はあたしの番だから連絡よこしなさいって言ったのにちっとも来ないから来ちゃったわよ」


「すまん、ちょっと新素材について考えを巡らせていたら忘れてた」


「そうよね、あんたはそういうやつよね。あ、挨拶が遅れたけど改めて初めまして。鳥獣族エレメンタルフォックスのレキよ」


「君が噂のツンデレフォックス君か、実に美しいっ! 感動ものだね!」


「ちょっと、だから初対面の人にそれはやめなさいって……」


「あー……なんだかよくわからないけどあなたとは仲良くなれそうな気がするわ」


 同族を憐れむような眼をクーラさんに向けるレキ。そうだな、同じツッコミ属性だもんな。


「というわけで、その燃え残った竹ってのを見せてください」


「なにが、というわけなのかさっぱりわからないわね」


「おっと、観光よりも先にそっちかい? でもさっきも言った通り加工はできないよ?」


「その辺は見てから考えますから、とりあえず見せてください」


「こうなったらこいつはどうにもならないわよ。アタシも街を見てみたいし案内してくれるかしら?」


「なんというか、あなたが陽花と意気投合したのもよくわかるわね。類は友を呼ぶっていうか、変人同士は引き合うっていうか……」


 そんなことを話しながらゲートからまっすぐに伸びている道を上っていくと竹林が終わり開けた場所に出る。そこには城壁に囲まれた、三国志にでも出てきそうな城壁に囲まれた都市が一望できる丘に出た。その向こうにはこれまた山水画に描かれているような切り立った山と雄大な河が見える。


「改めて、ようこそチョウランの都へ! すべてを受け入れ秩序を拒絶する町を堪能していってくれたまえ」


「とか言ってるけど、そこまで混沌とはしていないわよ、すんでるのもキョンシーとか妖怪系の住人が少しだけだし、建物に比べて住人はまだ少ないもの」


「目標はつねに声にだしてこそだとわたしはおもっているからね、少し大げさに言うくらいがちょうどいいのさ」


「なるほど、一理ありますね」


「ないわよ」


 レキにバッサリ切られながらもチョウランを目指して足は進める。


 そして、近づくにつれその城壁の大きさに圧倒された。自分たちの町の規模が恥ずかしくなるくらいに巨大な建造物だ。


「どうやったら、こんなおっきなのが作れるのよ……」


 思わずつぶやいたレキに陽花さんが素早く反応して苦悩っぽいポーズをとる。


「石材は近くの山からクーラが切り出してくれたものさ。それを幽幻道士であるトノサマが大量のキョンシーを使って運んで積み上げた。つまりは単純なマンパワーだよ。どうだい?種を明かしてみると案外つまらないものだろう?」


 トノサマは確かビックフロッグだったよな。カエルの幽幻道士って、ガマ仙人でも目指してんのか?


 しかしそれにしてもこれだけ巨大な建造物が作れるだけのキョンシーが使役できるとなると、彼も相当な実力というわけか。


「へぇ、トノサマさんにはいろいろ教えてもらったけど、やっぱりすごい人なのね」


「レキがさん付けしてる!?」


「あたしは尊敬できる人にはちゃんと敬意を表すのよ? 知らなかった?」


「ある意味知ってた。自分の勝手な理屈が優先ってことは」


「あんたたち全員そうじゃない。あっちのメンバーはいい意味で人のことを気にしないメンツだったしね」


 そうとも言えるか……。


 門のところまで来ると「かいもーん!」と陽花さんが叫ぶ。すると俺の伸長の十倍はありそうなもんがゆっくりと開き始めた。


 動力が気になったのだが何のことは無い内側からキョンシーが押していただけだった。


「ずいぶんとアナクロなんですね」


「陽花のせいよ。こいつがとにかくでっかいのがいいとか言ってどんどん大きくしていったものだから、あれくらいしか動かす手段がなくなったのよ。歯車の図面なんてひける人はいないしね」


「というわけで、実はそういう意味でもゼット君に協力してもらえればと考えているんだが、どうだろうか?」


「面白そうですし、報酬しだいでは全然協力しますよ。今はとにかく竹を見せてください」


「そうだった。では倉庫の方へ行こうか」


「お願いします。レキはどうする?」


「今のところ、あたしがいってもわかんないだろうし、遠慮しとくわ」


「ではクーラ、彼女の相手は任せた。町を案内してあげてくれたまえ」


「わかったわ、羽目を外しすぎないように気をつけてよ?」


「もちろんだとも、今日の主役はゼット君なのだからね」


「あー、それは余計に心配だわ。ゼット、次長しろとか無理だろうから言わないけれど、せめて死んで迷惑はかけないようにしなさいよ!」


「俺が毎回死んでるみたいな言い方すんなよ。誤解されるだろ?」


「誤解でもなんでもなく、ほぼほぼ毎回じゃない。いいから気をつけなさいよね」


 念を押すように言うとレキはクーラさんと町の中へ消えていった。


「さて、我々も行こうかゼット君。倉庫街は町の西側なんだ」


 そういって歩き出す陽花さんの後をついていく。足がはやるのを抑えきれないが、陽花さんを追い越しても何の意味もないので、出来る限り抑えて歩くが、足が好き一夫を踏みそうになる。


 何せ、いよいよファンタジーバンブーとご対面なのだ。加工手段はどうなのか、加工できるのなら何を作ろうか考えが浮かんでは消える。


あぁ、早く倉庫街に着かないものか。


 というわけで、新素材一つ目は竹でした。皆様の予想は当たったでしょうか?

いい意味で裏切れていたら幸いです。


 30万PVありがとうございます。こんな休みがちな作品ですがよろしければこれからも楽しんでやってください。

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