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第五十話:新大陸のその前に

忘れられたころにこっそり更新。

 さて、念願の新大陸への道を開いた俺たちだけど、本格的に探索に行くにはまだ不安が残る。


 この間のように強MOBに襲われるかもしれないし、何より人プレイヤーに発見されたらつぶされる可能性もある。それまでに最低限の防備を整えておきたい。


「と、いうわけでキリキリ吐きたまえ」


 俺は、ログインしてきたU子を見つけるやいなや真正面に陣取り詰問を開始した。


「いきなり何なのさゼット。吐くってなにを?」


「なにって、人間の町の位置だよ。正式に仲間になったら教えてくれるって言ってたろ? ネット漁っても、座標載せてるとこがないんだよ。町の周りの地図とかは腐るほどあるのに」


「あぁ? そうだったっけ? ちょっと待ってログ確認するから」


 そういうとU子はヴァーチャルパネルを出して何やら操作し始める。


「何してんの?」


「位置情報ログを記録しておいてくれる外部ツール使って町の座標検索してるの」


「え? それってやばくないか?」


「一応運営に確認したらOKって言われたから、大丈夫。位置情報自体は公開情報で、いつでもチャットコマンドから見れるしね」


 なるほど。それならまぁ、いいのか?


「つか、チャット自体めったに使わないからな。知らないやつも結構いるだろ? 俺も、他人のプレイ日記を読んだときにスニークミッションクエストで大活躍してたから印象に残っているだけで、それまでは全く気が付かなかったくらいだ。完全にシステムメッセージ欄だと思い込んでたくらいだし」


「そかなー? ウチのメンバーは結構濃いメンツだし知ってるんじゃないの?」


「ふっ、メンバーの半分はどじっ子枠だぞ? 知ってる訳……」


「いや、普通にオフィシャルページの操作説明には書いてあるし、知ってるでしょ」


「そだよねー、ふつーはしってるよねー」


「なん……だと……」


 横から会話に入ってきたのは、マニコとレキ。この二人が知ってるってことは……。いや、まだだーさんるーさんがいる。あの二人もドジッ子枠だ。


 俺はすぐさまWISを飛ばした。


『え? 知らなかったんですか?』


 帰ってきたのは絶望の一言だった。


「終わった。ペコリカはやり込み派の陽花さんとこにいたから当然知ってるだろうし、知らなかったの俺だけかよ」


 ぬぅ、こんなところでも説明書は読まない主義屋の弊害がある度とはっ!


「あははっ、うけるー。っと、これかー。となるとー?」


 ヴァーチャルパネルとにらめっこすること数秒。U子はほっとした表情でこちらに向き直った。


「一番近くの町とも結構離れているっぽい。しかも方角はその町から見て西側だからまだまだ時間はあると思うな」


 見ると、その町はユルヴァドという名前だった。たしか、首都セグンドの北に位置している。東の方に良い狩場があって。いい感じに奥へ行くほど美味しい敵が出てくるので主にそっち方面の探索が進んでいて、あまりおいしくない、どこまで行っても初心者用のMOBしか出てこない西側はあまり探索が進んでいない状況だったはず。


 ただ、どこにでも、俺みたいな人とは違うことをやりたいやつとか、とにかくマップを埋めることに命を燃やす奴なんかがちょこちょこ進めているので、時間が無限にあるってわけでもなさそうだが、ひとまずは安心していいだろう。


「そいつは重畳。慌てて防備を整えなくてもいいってことだと、ある程度はコボルトに任せておいても大丈夫そうだな」


 コボルトたちも、ある程度は指示なしで動けるようになってきているので柵や見張り櫓なんかなら時間をかければ作ってくれるだろう。当面はそれで何とかなりそうかな?


「ちなみにだけど、あんたがやるとどうなる予定なの?」


「とりあえず、カタパルトとバリスタは作る。それ以外はやってみてからかな?」


「あたしは、それはそれで見てみたい気もするにゃー」


「残念ながら、体は一つしかないんだ。そして、新大陸が俺を呼んでいるんだよ!」


 作るとなると、またかなりの時間がかかってしまうしな。それよりも新大陸と新素材と早くご対面したいのだ。


「そういえば、ウチは残るんだけど、みんなはディスアン探索組?」


「あたしはそうだけど、ってかU子残るんだ」


「うん、まだ復活地点登録してないしね。しばらくは安全地帯で陽花さんに払う素材集めをしてる予定」


「そっかー、じゃあ一緒だね」


「なんだ、マニコも残るのか?」


「ダンジョンもまだ製作途中だし、女王(くいーん)ちゃんのこともあるしね。元々、あたしのプレイスタイルはあちこち移動するものじゃないじゃない?」


「そっか、そういわれればそうだよな」


 なんだかんだ、このゲームを始めてからはずっと一緒だったので、一抹の寂しさを感じるが、他人のプレイスタイルには口を出さないのが、ネットゲームのマナーでもある。


「まあでも、気分転換に遠出したくなったら連絡するから、その時は遊んでくれたまえよ」


「なんでそんなに偉そうなのよ。それじゃあ、探索組はあたしとゼットだけってこと? ペコリカは当然残るでしょうし」


「いや、だーさんるーさんは、もうあっちに行ってる。この間確認した」


 あっちではすでに人プレイヤーと接触して、小競り合いが発生しているらしいし、バトルがしたい、だーさんるーさん的には願ったりかなったりなんだろう。嬉々としてプレイヤーの群れに突貫するさまが目に浮かぶ。


「そっかー、それじゃあ、こっちはしばらく寂しくなるなぁー」


 そんな風につぶやいてから、マニコは何かひらめいたようにポンと手を合わせるとこちらに向かって手招きをしてくる。


「ちょっちゼットさん。かもな、かもな」


「なんだよ藪から棒に……って、のぁっ!」


 不用意に近づいた俺にまうすとぅーまうすをかまそうとしてきやがったこいつ! なに考えてんだ? 


 思わずかわしたので顔からはそれて肩のあたりにマニコのマタンゴ顔が押し付けられる。


「その顔不用意に近づけてくんなよ! 心臓に悪い!」


「にゃはー、交わされちゃったかー。でもこれでおまじないは成功!」


 まじないとのろいって、おんなじ字だよな?


「まー、保険みたいなもんだよ。じゃ、わたしは巣に戻るね~」


 かき回すだけかき回して帰ってくマニコ。いつも通りだと言えばそうだけど……。


「で? マニコの唇はどうだった?」


 からかい気味にちゃちゃを入れてくるU子。お前解ってて言ってるだろ?


「エリンギっぽかった。っていうか、そういうのはリアルで聞きたい」


「へぇ、リアルならいいんだ?」


「ここしばらく、縁がないからな、少なくともあのマタンゴ顔に類するものじゃなければいいよ」


「やだぁ、顔で女を振り分ける男ってさいてー」


「棒読みで言うな棒読みで! 帰って傷つくわ!」


「ま、それはさておいて、どれくらいで出発するの?」


「今週末かな? やっぱ初日はがっつり遊びたいし時間が取れる休みがいいだろ」


「それじゃ、それまではウチに付き合ってよ」


「バカ言うな、コボルトたちへの指示だしとかいろいろやることはあるんだよ。っと、言いたい所だけど、今日は情報をもらったりなんだりで世話になったしな。付き合ってやりましょうか」


「アタシもいいわよ、さっさと借金返して、あんたもあっちに来なさいよね」


「サンキュー、二人とも。じゃ早速だけど……」


 今日はいつもメンツいつもの狩場。それもまたよし。変わることも変わらないことも楽しんだ方が人生はお得なのだ。


 今週末はいよいよ、新大陸。


 どんな素材が俺を待っているのか、ワクワクするぜ。


 

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