第五話:今後の方針と新しい武器
「ふむ、今日はあいつはいないようだな」
ログインして見まわしたが、それっぽいキノコはいない。まぁ、毎日俺に付きあうこともないだろう。
俺はそんなことを考えながら昨日、成型しておいた粘土塊を確認するためにいつもの木の根の下に入る。
「お、どっちかはひび割れが入るかと思ってたけど、どっちもいい感じに乾燥しているな」
真中に穴のあいた円盤状のそれは八つ。
四つは、プヨンスライムのかけらに樹液を少し混ぜて粘液状にしたものを、残りはそのままのかけらを入れて後から固形化するまで樹液を混ぜたものだ。そして両方に砂も混ぜこんである。
あとはこれを火の中にくべて焼き固める。焼きにかける時間を計るため四つずつ30分ごとに取り出せるようにタイマーをかけた。
焼きあがるまでの間に、これからの成長方針について考えた事をまとめよう。
まずしばらくはこの一頭身は克服できない。出力が足りないからだ。
色々調べてみた結果まず通常のギアボディに使われている素材は魔力伝導率が非常に良いため、初期キャラクターのSPでも人型を維持できるらしい。
SPを増やす方法、これはもう動き続けて鍛えるしかない。CAOの成長システムは基本熟練度システムだ。使えば使うほどスキルも基礎能力も鍛えられ上がっていく。
機械族の場合はINT MEN SPのみがその仕様で上がり他はパーツ頼りだというわけだ。
まあ、それでも追い付かずに最終的にはマジックジェネレーターとかいうパーツに手を出す羽目になるらしいんだが、そこまではまだ果てしなく遠い道のりだから気にする必要は今のところないな。
攻略サイトには金属パーツの魔力伝導率を上げる方法は色々載っていたのだが、木材についてはまったく皆無だった。
なんでだよ! 誰か一人くらいカラクリ武者を目指してる人とかいないのかよ?!
いや、そういう人は攻略サイトに情報とか上げないのかな? 俺もあげてないし。設計でのロスをできる限りなくす方向で考えるしかないのかね。
ともあれ、しばらくは一頭身で我慢しなくてはならないのだが、移動方法がいつまでも飛び跳ねるではいただけないので足を作るのがまず先である。タイヤや、キャタピラも考えたのだが狭くて凹凸の多い森の中が拠点なので、昆虫のような多脚タイプを選ぶ。まずは4本分の図面を引いてこうとヴァーチャルパネルを開いたところで、パキッ!っと竈のほうで音がした。
タイマーをみると23分。
最初の30分持たずにあとから凝固させたほうは全部われてしまった。熱膨張かそれとも焼き締まりかのどちらかあるいはその両方が合わなかったんだろう。割れてしまった欠片を片付けている間に最初の30分が過ぎたので一つを取り出して見る。
見事に固まっており近くの岩にぶつけてみても割れない硬度を獲得していた。一応実験のため他三枚はさらに焼き続けることにする。
『システムメッセージ:スキル「陶芸」を1Lvで獲得しました』
陶芸ってw 何かどんどん機械からは離れているような気がするなぁ。
さて、足を作ろうと思っていたけど予想外に早く、メインパーツができてしまったので武器を先に作るか。
俺は二本の棒状のパーツの先に、ちょうどかみ合うように凸凹の円筒状の突起の付いたパーツを取り出す、失敗が怖いのでスキルではなく手作業で組み合わせることにした
円盤パーツの穴の内側に木製のパーツをはめさらにその.内側の円周が凹パーツの外周とがかみ合うのを確認する。軽く回してみて問題なく回るようなので、グリスを塗り突パーツを接着剤ではめ込み基本は完成。
もうお気づきだとは思うが「ディスクグラインダ」である。手持ちの材料から切るのではなく削るほうが効果的なものが作れそうだからという選択。
さっそく魔力回路をつないで回してみ……っとぁ!?
『システムメッセージ:SPの過剰使用により状態異常「気絶」を受けました。回復まで00:00:30』
SPがまるでストップウォッチの小数点以下みたいな早さで減っていった。どうやら、今の状態で使いこなすのは難しいということらしい、素材の問題か……? それとも設計の問題か?
しかし、作ってしまったものは仕方ない、しばらくストレージの肥やしになってもらおう。
「おはよー、あれ?なんか面白そうなことやってる!」
といったところでマニコがINしてきた。宣言通りアイアイの様な眼の大きな小型のサルに寄生しての登場である。目が大きくなった分キモさも倍増だ。
「おはようって、今何時だと思ってんだ?」
「夜の八時過ぎ。しょうがないじゃんこの子捕まえるのに今日の昼ごろまでかかって、今起きたとこなんだから」
「しょうがなくはないと思うが……」
「それより今はなにしてんの?」
「あぁ、火力アップを図ろうと武器を作っていたんだがな……」
俺はこれまでの経緯をマニコに説明した。
「要するにさ、固定して回転させるのに魔力を使い続けるのが問題なんだよね? じゃあ回転の最初にだけ力を使って、それ以降は惰性で回し続けるのを何回かに分けるのじゃ駄目なの?」
「あぁ子供のおもちゃみたいにか、もうちょっとSPが…せめて3ケタあればそれもよかったんだが……いや待てよ、発想としては悪くないのかも、つまり力が加わるのが一瞬であればいいんだよな? ……飛ばすか?」
俺は早速射出装置の図面を引き始める、ボウガンの派生形として弦は昨日あまりったグレイウルフの腸膜を、灰と一緒に煮て処理した後こよったものを使い(ちゃんとマニコの許可は取った。っというか昨日渡した分は全部上げたつもりだったそうだ。なんでそんなに気前がいいんだか)、直接ではなく木製のパーツをかませて其れを押し出す形で射出する機構だ。ちょっと大きくなりすぎたので装備個所は頭の上。ちょっと不格好だが仕方がない。早く足を作ろう……。
動作確認では巻き上げに相当のSPは食うが、射出時はまったくSP消費はなかった。どうやら弓系はそういう仕様らしい。
作っている間に、残りのディスクはどんどん焼きあがった。ついでなのでディスクの耐久テストと試射を同時に行ってしまおう。
まず焼き時間が1時間のディスクをセットして木の根に向かって射出、結果木の根に少し傷をつけてはじかれた。思ったよりも威力がないが、ディスクを拾ってみると、ひび一つなく問題なく再利用できそうだった。
次に1時間半焼いたもの、刺さりもせず砕けてしまった、それでもちゃんと飛んだのでこれはこれで使い道があるか……使い捨てなのがもったいないが。
最後は二時間焼いたもの、一時間半があんな結果だったので期待はできないが一応ということで弦を巻き上げセットしてトリガーを引く……。
パキャッ!
そんな音とともにブラックアウトどうやら死んだらしい……何が起こったし。
「あ、お帰りー」
死に戻るとマニコが何やら破片を片付けているところだった。
「すまない、俺には何が起こったのかさっぱりだったんだが、どうなったんだ?」
「単純だよ? 射出の勢いに耐えきれなくてディスクがボウガンの上で破裂。破片がコアに刺さってしゅーりょーって感じ」
なるほど、つまり2時間以上焼いてしまうと使い物にならないということだな、まあ普段使いの分は30分でいいだろう。問題は威力不足だなぁ。次の獲物に定めているビッグマウスに何発撃ち込んだら倒せるのか……。
「ふっふっふ~お困りの様ですな、君?」
ディスクをにらんでいるとマニコが意味ありげな声をあげて覗き込んできた。
「何か火力アップのいいアイデアでもあるのか?」
「あたしの種族が何かお忘れ?」
「何ってそりゃ茸人間……毒かっ!」
「いえす・あい・どぅー。今はスリップダメージからバッドステータスまでなんでもござれ。昨日渡したアイテムの中に毒胞子があったでしょ? それをすりつぶして水と混ぜるだけでも結構なダメージ毒になるよ?」
「まじか。使っていいんなら、ありがたく使わせてもらうわ」
「後、あたしの領域の中の草には毒ポイントを結構振ってあるから、毒草がいくつか育ってると思うんだけど、私は自前で毒使えるから詳しくは調べてないんだよね。また後日自分で検証ヨロ」
「あぁ、そこまで世話にはなれないからな。っていうか今でも十分世話になりっぱだけど……俺に出来ることがあったら何でも言ってくれよ? 今はできること少ないけど将来的にはできるだけ力になるから」
「ん、まぁ期待しないで待ってるよ。それじゃあこの後は試し射ちを兼ねた狩りかい」
「いや、そこまで時間はないかな? 毒液作った後はディスクも量産したいし、足パーツを作りたい、そしたらもう時間がないと思う」
「………そっか、私は明日は入れないから狩りには付き合えないねぇ。ちょっと残念」
「なんなら、予定をずらしてもいいけど。ほら何でもするって言ったし」
「いや、それはいいよ、最初から全部おんぶにだっこじゃつまらないでしょ? 次会ったときに毒の使い勝手と感想聞かせてもらえればいいから」
「………それが、マニコと交わした最後の言葉になった」
「ならないからねっ!」
「ははっ。んまぁわかった、感想楽しみにしておいてくれ」
それから俺たちは毒液を作りながらとりとめのない会話を楽しんだ。
さぁ、明日は新しい敵に挑戦だっ!
何だかマニコがどんどんかわいい系のキャラで固まっていくなぁ。当初の予定だともっとふてぶてしいはずだったのに。
あ、タイマーとかつけてるのは外部ツールです。ゲーム内でもネットはできるのでそういうアプリを起動していると思ってください。