第四十九話 ゲート開通。新しい大地へ……
『やぁやぁ、ゼット君。今日は素晴らしい日だね。まさにVR日和だ』
ゲート開通式当日。あらかじめログアウトしておいたゲート前にログインするとすぐに陽花さんからコールがあり、テンション高めの挨拶をかましてく来られた。
「……そうだと言えばそうなんでしょうね」
外は今年初めての台風で大荒れなのだけど、そのおかげでメンバーが全員集合できたというのなら、それはVR日和というのかもしれない。ちなみにだが、警報ならともかく、避難勧告が出ている地域だとVRシステムは強制シャットダウンされる。意識のない状態で災害に会う心配はなくはないがそれなりの安全対策はされているのだ。地震の場合は予報技術がまだ不確かで、予告警報が出た時点でどんな小さい地震でも強制シャットダウンなのでクレームをつけるやつもいるみたいだが、命には代えられんだろうに。
まあそんなわけで、平日の朝からVRというわけだ。寝起きなのでちょっといつもよりテンション低めである。
すでに集まっているほかのメンバーも心なしか眠そうなのが多い。マニコは妙に元気だけど。
「だねぇ。結構大きな台風だけど、メンバーの誰も避難勧告地域に住んでいないのは僥倖ってやつだよ」
『まさに! まさにそれだよマニコ君! ゼット君たちが魔石を手に入れてすぐにこのような機会が巡ってくるとは、まさに運命としか言えないね! そもそも、私たちが出会って、そう間もおかないうちに二つも魔石が見つかること自体奇s……』
『あーうちの団長こうなると長いから、無視して進めちゃっていいですよ』
いつもテンション高めではあるけど今日は特別飛んでる陽花さんをクーラさんがさえぎって言う。
『まちたまえクーラ君。ここからがいいところ……』
「あ~じゃあ、ボボンガと……そういえばそっちの町はなんて名前なんです?」
確か、陽花さんのサイトには載ってたと思うんだけど、ド忘れしてしまった。
『なんと、まだ行ってなかったかね? では、教えてあげよう。その名も……』
「チョウランでしょ? 確かサイトに載ってたわよね?」
「っちゃ~、レキっち。それはないわ」
陽花さんがもったいつけている間に、レキが答えてしまった。なんとも言えない空気がその場を支配する。
「……っえ? あたしなにかやっちゃった?」
『……うぉほん! そう、チョウランというのだ。ちなみに開拓者である私がつけた』
その空気にもめげすに、陽花さんが続ける。なんていうか、強い人だ。
「確かそっちはうちと違って、廃村を再生したわけじゃなくて、一から作ったんでしたよね」
『その通り。まあ、君たちと違ってこちらは最初から仲間がいたし。近隣部族も多かったから、難易度としてはそれほど変わらんと思うがね』
それでも、何もない荒野にモンスターの都市を築くのは並大抵ではない。サイトには載ってない苦労も多くあったろう。
『そして、こうしてゲートでほかのモンスタープレイヤーとつながれる日がやってきた。なんともうれしいじゃないか、ではそちらの準備はできているかね?』
もう待ちきれないといった具合にせかしてくる陽花さん。
「えぇ。昨日のうちに全てすましてありますよ」
ついにその時だと思うと、俺の寝ぼけた脳も血の巡りがよくなってくる。
「おぉー、さすがにあれからずっとこもってただけのことはあるねぇー。WISしても生返事ばっかりだったし」
「そうね、せめてU子みたいに、ちょっと話しかけられても返事できないって事前に行っとくべきだったんじゃない?」
「あ~、そうだったかもな。自分じゃちょっと自覚足りなかったわ。すまん」
マニコに便乗して、レキまで俺を責めてくる。まぁ、俺が悪いので、平謝りしかないのだけど。
「まぁ、今はいいじゃないですか、今日はこのめでたい日を祝いましょう」
見かねただーさんがフォローしてくれた。レキもマニコも本気で怒ってたのではないのか、それで引き下がってくれる。持つべきものはおっさん仲間だな!
「それじゃ~、早速起動しましょう~」
『そうだな。こちらも待ちきれないといった風情だぞ?』
『一番待ちきれないのは団長でしょう? さっきから蔓がそわそわ動きっぱなしですよ』
『そんなことは……あるが。では、君たちは楽しみではないのかね?』
『そりゃあ、やってきたことの集大成だからな。楽しみでないと言えばウソだが。お前ほどじゃねぇよ』
陽花さんの問いに答えたのはフェイロンさんか。何にしろ、あちらの席も温まってきたようだ。
「じゃあ、堅苦しいことは抜きにして、とっとと起動しますか!」
俺はゲートのそばに行き魔石と回路に異常がないか確認したのち、ゲートを起動させる。最初に送るのはこっちの特産品である。トレントコットンの布地だ。あちらが送ってきてくれたものに比べればしょぼいが、仕方がない。その他に送れるような特産品はまだないのだ。
ペコリカがセットして離れる。
周囲に他に何もないことを確認して、おれはヴァーチャルパネルから送信のボタンをタッチした。
布地の束は光の粒子へと分解され、ゲートの中心にできた光の中に吸い込まれていった。
「とりあえず、送信は成功か……陽花さん、そっちはどうです?」
『こちらも無事成功だよ! やはり、私たちのギルドは運命の糸で結ばれているようだ。女神の祝福は常に……』
『はいはい、長くなるからあとでね。それにしても、ずいぶん大量の上質な布地だが、こんなにもらってよかったの?』
へぇ、トレントコットンって上質だったのか。基準があれしかなかったら気が付かなかった。
「こっちじゃ余ってるくらいのものなので全然かまいません。むしろ、そっちが送ってくれたものに対して釣り合ってるかどうか……」
『いんじゃねぇか? 布は装備の修理にも使う消耗品でいくらあっても足りないからよ。それがこれだけの品質のものを大量に送ってきてくれたんだ。こっちとしてもありがてぇ』
「ありがとうごさいますフェイロンさん。そう言ってもらえると心が軽くなります」
『別に、感想言っただけでフォローしたわけじゃねぇよ』
あ、この人ウチのレキに負けないくらいツンデレだ。
思わず見てしまったレキと目が合ってしまう。
「なんかくだらないこと考えてんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことはないじょ?」
「かんでるしー。まぁ、見事なツンデレだよね。レキっちを連想するのも無理はないよ」
「『あたし(おれ)はツンデレじゃない(ねぇ)』」
電子の波に乗ってみごとに重なる二人の声。そうそう、ツンデレの人はみんなそういうんだよ。
「ねぇ、成功したんなら早く次にいこうよ」
マニコがそんな二人を無視してマイペースに自分の要求を突き付けてくる。こちらからあちらへ行く第一号は相談の結果、マニコと決定しているのだ。
理由は単純。あっちに行って戻れなくなっても、どこか変な所に飛ばされても、マニコなら戻ってくるのが容易だからだ。
ちなみに体はウルフ君である。
「せかすなって。陽花さん、そっちは準備いいですか?」
『いつでもOKさ。むしろ早くしてくれたまえ。待ちきれないよ』
「それなら、常時接続設定、ONにしますね」
『あぁ、こちらはもうONにしてある』
常時接続設定。
これをONにすることで二つのゲートは常につながった状態になり、機工士がいなくても誰でもヴァーチャルパネルからの操作で飛ぶことができるようになる。もちろん新しい接続先を設定すると気なんかは機工士がひつようだけれど。
「おー、ゲートに近づいたらヴァーチャルパネルになんか新しい項目が追加された。んじゃ、みんな行ってくるね」
そういうとマニコは迷いもなくヴァーチャルパネルを操作する。
先ほどのトレントコットンと同じように、光の粒子になって消えるマニコ。
「それが、マニコを見た最後だった……」
「ちょっと、冗談でもそういうこと言わないでくれる?」
確かに不謹慎だったか……。反省。
「すまない、衝動が抑えきれなかった」
「ごめんで済んだら、警察はいらないわよ。あ、マニコからWISコールが来たわ。公開にするわね」
そう言って、レキはヴァーチャルパネルを操作する。すると突然。
『やだ……嘘……。ナニコレ……ッ! イヤァァァァァァァァァァッ!』
公開WISがマニコの悲鳴をまき散らした。
まさか、失敗だったのか!?
「どうしたっ! マニコ何があった!」
慌てる俺を、レキが冷めた目で見つめてくる。ドユコト?
「あーはいはい、そういうのいいから。その様子だと成功なのよね?」
『ばれたか。流石に付き合い長いと騙せないねぇ……』
「あんたそれ、何回同じパターンでやったと思ってるのよ。いくら何でももうだまされないわ」
『最近反応が少なくなってると思ったんだよねぇ。流石にちょっとやりすぎたかぁ。別パターン考えないとなぁ』
「考えなくていいわよ。で? そっちはどんな感じ?」
『大成功だよ! 此方へやってきたマニコ君が突然静かにしてくれっていうジェスチャーをしたと思ったらあんなサプライズが用意してあるとはね。なかなか、エンターテイナーじゃないかマニコ君』
冗談じゃない。こっちは心臓が止まるかと思ったっての。まぁ、サプライズイベントだと思えばどうってことないか。
「行きは成功だな。じゃあ帰ってきてくれマニコ」
『りょうか~い』
行きはよいよい帰りは恐い……とはならなかったようだ。ゲートは問題なく起動して光の粒子からマニコがキチリと再生される。
「恥ずかしながら、帰ってまいりました」
ビシリと敬礼しながらそんなこというマニコ。なんだかんだ、こいつもいつもよりテンションたけぇな。レキが「だからそういうのいいから」と言いながらマニコの近くに駆け寄っていく。なんだ、心配だったんじゃないかやっぱり。
何にしろ、これで、俺たちは新しい大地へと一歩を踏み出す準備を整えたのである。俺たちの冒険はこれからだ!
もうちょっとだけ続くんじゃ。
っていうネタをやりたかったのです。打ち切らないよ。ホントだよ。




