第四十八話 戦後処理……っぽい何か
ヒートビート戦後、落ち着いた俺たちが最初にやったのは、犠牲になったコボルトたちの葬式と墓を作ることだった。
死体は光の粒子になって電子の世界へ解けていったので形だけだが、全部で七つの十字架が町の隅に建てられる。
電子データにそこまでする必要はないという人もいるかもしれない。でも、仕事道具だって人形だって、果てはエロゲなんかも供養する日本人だ。短い間とはいえ一緒に過ごした電子データを供養したっていいじゃないか。
コボルトたちは、葬式という習慣がないのか最初はぽかんとしていたが、趣旨を説明すると一生懸命に肉球を合わせて祈ってくれた。その様子に、U子などはボロボロ涙をこぼし、レキやマニコ達からもすすり上げる音が聞こえてきた。ただ、自分は機械の体であるので、ゲーム内では涙を流すことはできない。涙腺機能つけようかなぁ。
そして、そんなこんなが終わった後、戦利品の山分けタイムと相成ったわけだが……。
「ちょっと待って、なんか新しいメッセージが来たし」
U子がそう言ってヴァーチャルパネルを操作する。
「んーどうしよっかなー……。ま、いっか」
そして何かのボタンを押した瞬間。U子の体が光に包まれた。これはモンスターに起こる進化と同じ現象!? でもU子は人間プレイヤーのはず。
「おぉー、こうなったかー」
光がひいた後そこから現れたのは、青黒い肌をした白い髪のエルフだった。
「おい、U子どういうことだ?」
「そうよ、人間プレイヤーは進化できないんじゃなかったの?」
俺の疑問にレキも続く。
「なんかね、モンスタープレイヤーが主催のパーティで一定時間過ごしたことと、その間に一定値以上カルマポイントが下がったことで、闇落ち可能になったんだって。二度と戻れませんがよろしいですか? ってメッセージが出たけど、まいっかって。なんだかんだ、このメンバーで遊ぶの楽しいしねー」
そうか、なるほど、人間からモンスターに一度限りキャラ変可能と。こりゃ、モンスターから人間になる方法もあるな。
「しっかし、そんな簡単に決めちゃってよかったのかよ。もうちょっと悩んでも良かったんじゃねえか?」
「いいのいいの、こういうのは直感即決するのが、ウチ流なわけ。というわけでエルフ改め、ダークエルフのU子、コンゴトモヨロシク」
なんだかマルカジリしそうなイントネーションであいさつするU子。これで、正式にすろ~らいふ・モンスターズの仲間入りだ。
「こちらこそよろしく。じゃあ、早くリスポーンポイント設定するアイテム見つけなきゃだな。その状態で町に戻されたら悲惨なことになるだろ」
「それなら、陽花さんが開発に成功していたので、対価さえ払えばゆずってもらえると思いますよぅ」
「本当かペコリカ?」
「はい、ですから早くドロップの選定を終えてしまいましょう」
どこまでも現金なペコリカである。
「はは、そうだね。じゃーひろげるよー」
一時的に預かっていたマニコが地面にヒートビートのドロップ品を置いていく。
「とりあえず、毛皮はU子ちゃんでいいよね。他に使えそうなのいないし」
ファイバーセラミック小手の上位版ができそうだが、我慢だな自分の目的はほかにあるし、皮の扱いは本職に任せた方がいいだろう。
「それじゃあ、あとは牙と爪を均等に分けるだけね」
「そうだねー。内臓関係がドロップしなかったのがちょっと残念」
なんかもう、終わった雰囲気の二人。
「ちょちょちょ、肝心のもの忘れてませんかね?」
「「??」」
二人して頭の上に?を浮かべる。かんべんしてくれよ。
「魔石だよ! ま・せ・き! 無属性の魔石がドロップしただろ!」
「なに言ってるの、アレはギルド共有財産に決まってるじゃない」
なにをバカなといった風に言い切るレキ。
「そうだよ。あれがあればディスアンへのゲートが開けるんだよね? だったらそれはあたしたち全員のメリットになる。なら選択肢はほかにないでしょ。」
「そうじゃん。だからゼットが責任を持って管理してくれればいいんだしー」
「ほかにほしいやつとかいないのか?」
「もらっても売れるわけじゃないですしぃ。扱い方もわかりませんから、確実に自分にメリットのある方を選んだ方がお得ですぅ」
「なるほどな、そういうことなら俺が責任を持って管理しよう」
っと言っても自分のストレージの中に放り込んでおくだけだが。
「んじゃ、また後日、だーさんるーさんも、そろう日に開通式をやろうか」
「いいねぇ。あっちの人らも元気にしてるかな?」
「結構、のんびりやってますよぅ。ここほどじゃないですけど」
SNSや音声チャットで頻繁に前の仲間ともやり取りしているペコリカが答える。てか、アドレス交換したのにほとんど使わないマニコもマニコだよな。
「んじゃ、ペコリカ。陽花さんへの連絡は任せた。俺はさっそくゲートの調整に入りたいと思う」
「もう始めるの?」
「万全を期するには、事前準備が重要ってね」
「とか言って、単に早くいじりたくて我慢できないだけなんでしょう?」
「そうともいうな」
俺はさっそく作業用のパーツに装備を変更して、どや顔(雰囲気)で答える。
「ウチも、なんか闇落ちしたから、スキルリビルドできるみたいだしやってくるわ。エルフとダークエルフって大分ステが違うみたいだし、時間かかりそー」
セリフとは裏腹に楽し気な口調でそういうU子。あぁ、キャラリビルドとか超めんどいけど超楽しいよな。
「リビルドいいなぁ。あたしも、ポイント制成長だけど、時々降りなおしたいって思うもん」
「一度決めたことはやり直せないのがこのゲームのつらいとこよね。時間さえかければ万能になれるけど。何万時間いるんだって話だし」
「へっへー。羨ましいっしょ。まそういうわけでウチは集中モードに入るから話しかけられても無視しちゃうと思うけど、気にしないでね」
「OK。俺たちもお楽しみを邪魔するほど野暮じゃねぇよ」
「だね。後悔しないようにゆっくりしてくればいいよ」
そう言って俺たちはU子を見送った。
「それじゃ、あたしは今日はもう落ちるかなー。入っていきなり大イベントだったから、今日はもうおなかいっぱいだよ」
「そうね。三日分くらいゲームした気分だわ。だからって明日休んだりはしないけど、今日はもういいかなって感じ」
「そっか、お疲れ。あ、ペコリカ。陽花さんと連絡ついたら事情説明して、都合のいい時に俺へ連絡をくれるように伝えておいてくれ」
「あいあいさーですぅ。私も今日はそれだけやって落ちますね」
「おkおk。じゃ、解散っちゅうことで、また明日な」
ログアウトするマニコ達を見送って、俺は魔石をストレージに入れようと、ヴァーチャルパネルを開く。
「………あっ!」
そこであるアイテムを見つけて頭を抱えてしまった。
「すっかり忘れてたぁ……!」
力封じの霊符。
陽花さんからもらって、ヒートビート戦で使おうと思っていたのに……。
ま、いきなりの襲撃だったから仕方ないよな、結果的には何とかなったんだし、仲間全員誰も思い出せなかったし、貴重なアイテムを温存できたと思えばっ……はぁ。
それでもやっぱり、最初に使っていればコボルトの幾匹かは救えたのではないかと思うとため息が漏れる。
こういうことを起こさないための何かを作った方がいいかなぁ。
俺はゲートへ向かいながら何かいい案はないかと頭をひねるのであった。
タイトルいじりました。特に深い意図はありませんが、スマホでチェックするようになって、「そっかースマホだとタイトルだけであらすじはわざわざ開かないと見れないのかー」と思ったので。コンセプトをタイトルに付け加えてわかりやすくしただけです。特にスマホの人が少ないってわけじゃないのでいらない気づかいかもしれませんけどね。
というわけで、まったり回です。なろう大幅アップデート後初めての更新がこんなのでいいのかって気もしましたけど、無理に派手な話書こうとしても書けませんしね。これで、U子は残留決定です。ダークエルフっていうと日本だと褐色肌が多いけど、欧米では青黒い肌に醜い顔ってのもいるって話をどっかで聞いたので日本のとちゃんぽんして青黒い肌のエルフになりました。(単に俺が青肌萌えってのもあr)気に入ってもらえれば幸いです。
ではでは、ここまでお付き合いくださいましてありがとうございました。




