第四十四話 はっくあんどすらっしゅ
「着いたよー。ようこそ、マニコの不思議なダンジョンへ!」
マニコに案内されたどり着いたそこはなんというか、腐海だった。
様々な菌類キノコは言うに及ばす、カビや粘菌らしきものまで、所狭しと木々に寄生していて、しかも時折瘴気らしきものを放っている。
そして、毒々しい紫がかった青を基調に、毒々しい赤やら、毒々しい緑やらの色が、なんとも言えない配置でおかれていた。
「ねぇ? 帰っていい?」
レキが思わずつぶやく。
「え~、なんで?」
「いや、どう見ても入りたいとは思わないんだけど」
「? ダンジョンっってそういうもんでしょ? アトラクションじゃないんだし。キャッチーなダンジョンってぬるいJRPGだけで十分だと私は思うな」
「だとしても、これはやりすぎ……」
「いいじゃん。あたしはこういうん好きっしょ。そこはかとなくキモカワだし」
そう言うのはU子。こいつのセンスも結構ぶっ飛んでるよな。キモカワってこういうのを言うんだっけ?
「こういうのはキモカワじゃなくて、単にキモイっていうんですぅ」
あ、やっぱり違ったんだ。まぁ、それはともかく……。
「俺はマニコの意見には賛成だな。秘境とは人を拒むから秘境なのだ」
「だよねぇ。さっすがゼット分かってるぅ」
ただ、女子が作る系ダンジョンとは決して思えないけどな。
「まぁ、とにかく入ってみようぜ。お試しだし、途中リタイアもありだよな?」
「だねぇ、まだ調整段階のテストプレイだから、簡単すぎるか、難しすぎるかの二択だし、途中で動けなくなったら迎えをよこすよ」
「ま、ここまで来ちゃったしね。でも、そうそう以上にキモかったら速攻リタイアするからね」
「あたしは、最初から乗り気だし。毒関連のダンジョンっぽいのに対策なしで挑むってのは、ちょっと不安だけど」
「それなら、毒消しは各種用意してますぅ」
「準備がいいなペコリカ」
「えへへぇ。森ガールのたしなみですよぉ」
森林呪術師(森ガール)のたしなみな。
「よしそれなら、迷うことは無いな。いざ、マニコのダンジョンへ!」
「「「おぉーっ!」」」
ノリのいい仲間たちで助かります。ホント。
◇◆◇
ところで、ダンジョンの雰囲気が毒っぽいと思った時点で俺は、「勝ったな」って思ってたんだ。だって、機械族は毒無効を種族特性として持ってるんだもん。しょうがないよね。
で、その結果が。
「いやぁぁ! 体が解けるぅ!」
これってわけ。
いや、油断してたんだよ。罠とかあっても毒無効の俺が踏みつぶせばいいかなって。
「ふははははは、甘いよゼット。ゼットが生体毒無効なんてこっちはとっくに知ってるのさ。プラントイーターたちから採った蟻酸のトラップの味は、どぅだぁ~い」
ダンジョン管理に集中するよ。と言って、姿を消したマニコの声が響く。どうやらダンジョン内ならどこでも見れるししゃべれるようだ。
「キュアアシッド! ライトヒール!」
何とか酸がコアに達する前にペコリカの魔法で事なきを得る。
「ははははは、ゼット油断しすぎじゃん。はははは、おなかいたーい」
「今回は同意せざるを得ないわね」
笑うU子と、あきれるレキ。
「いや、お前らだって俺が罠を踏むって提案したら了承したじゃねぇか。同罪だ同罪!」
「だけど、トラップだらけってなったらうちら不利じゃん? スカウトとかレンジャーとかシーフ的なスキル持ってる人っていない訳だし?」
「あたしの子の可愛い肉球でトラップ解除ができると思うかしら?」
「私も、天然のはともかく人工のトラップはちょっと厳しいですぅ」
「となると、やっぱゼットに踏んでもらうのが、一番安全なんじゃん?」
「というわけで、これからもよろしくね。ゼット」
「ちょっと待てお前ら、俺におにゅーのパーツ溶かしながら進めって言ってるのか?」
「わたしが完璧に回復してあげるので、大丈夫ですぅ。安心して罠にかかってくださいぃ」
意識統一された女子三人vsおっさん一人……。勝てるわけありません。
くっそー、帰ったらトラップ解除ツール作ってやるかんな! こんちくしょう!
◇◆◇
しかし、俺専門で狙ったトラップは少なく、案外漢解除でも順調に進めた。
モンスターは毒系の魔物を中心に、森で出てくる奴らにキノコが規制しているタイプのモンスターがちりばめられているが、進化したレキと、新しくなった俺の敵ではなかった。
回復もペコリカとU子で安定している。
ダンジョン攻略は順調化に見えた。
「あれ? これ、前にも通ったんじゃね?」
U子が指さす方を見ると、確かに目印で付けた木の傷がそこにあった。
っていうか、同じ傷のある木を見るのは三回目だったりする。
「またか……完全に迷ったな、こりゃ。」
「法則が見いだせないのが厄介よね。ねぇマニコ、これちゃんとクリアできるようになってる? 完全にランダムとかじゃないわよね?」
「もちろんだよー。クリアできないなんて、そんな鬼畜使用のダンジョン、誰も来てくれないじゃない。ただ、言った通り、難易度調整はまだだからちょっと法則性を見つけるのは難しいかも」
「ちなみにどれくらいのルートを正解すれば、たどり着けるんだ?」
「ほんの80程度だよ。法則にしたがって進めばいいだけだからそれさえわかれば後は簡単だね」
同じような景色が続く森の中でルート選択を間違えずに80も正解しろと?
「あ~、それ無理ちゃんだわ。あたしそろそろ落ちなきゃだし、トライアンドエラーしてる時間はないっしょ」
「そ、そうですね。というわけで、ここで降参ってことでいいですかぁ?」
「いいだろう。これ以上は苦行だろうしな」
「異議なし。というわけでマニコ降参よ。迎えをよこしてちょうだい」
「え~、本当に法則を見つければ簡単なんだけどなぁ」
そういいながらも、マニコは迎えの蟻をよこしてくれた。(今回の蟻はおとなしくて襲われるようなことは無かったぜ)それに乗ってダンジョンの入り口へ着くと、マタンゴ形態のマニコが待っていた。
「お帰り~どうだった?」
そして、早速感想を聞いてくる。
「まあまあなんじゃん? 最初のトラップはマジ笑ったし」
「そうね、敵の強さも、あたしたちに合わせて、調整してたでしょ? それはよかったわ」
そうだったのか。気が付かなかった。ということは、このダンジョンに限ってマニコは、もっと強い魔物を使役しているってことなのか?
「まぁねぇ。でも、ボスとの対決は見たかったなぁ、時間がなかったんなら仕方がないけど」
「つか、無限ループ分岐80個とかMMOのダンジョンギミックじゃねぇっての。普通のRPGだってそんな苦行強いてくるようなのは、今日び少ないってのに」
「うーん、それに物足りなさを感じていたから、自分ではこういうギミックを作ったんだけど、そっかー攻略に時間かけれる人ばかりじゃないもんねぇ」
「だったら、いっそ、ダンジョン全体を毒ゾーンにして、疑似時間制限を付けるのはどうですぅ? それなら、無限ループが少なくてもはごたえがあるんじゃないですかぁ?」
え? なにさらっと鬼畜いこと言ってんのこの子?
「え? でも、それだとゼットみたいな機械族だと、簡単に攻略出来ちゃわない?」
「そこは、別のトラップを用意すればいいんですよー。っていうか、ずっとゼットさんと一緒にいるから感覚くるってるのかもしれませんけど、機械族意識しすぎですぅ。全体で見れば数%しかいない種族にメタ張りしてもなにもいいことありませんよぉ」
「そういえばそうか。なんか、ゼット基準で考えちゃってたけど、もっと数の多い種族を巻き込めるようなトラップの方が効率はいいんだよね」
「よし、じゃあその方向で再調整してみるかな。ありがとねペコリカ」
「いえいえ、どういたしましてですぅ」
なにか、怖い方向でまとまる女子二人の会話。まぁ、モンスタープレイしてるような女子はこんなもんですよね?
まぁ、ダンジョン制作はマニコのプレイ第一目的でもあるんだし好きにすればいいさ。
「そういえばさ、殺気の無限ループ超えてボス部屋いったらどんなのが勝ち構えていたんだ?」
「いろいろ、ボスは用意しているけどねぇ。今回はキメラマタンゴの予定だったよ。このダンジョンにかかったモンスターをいろいろ菌糸でつなぎ合わせたつぎはぎモンスター」
「それはまた見た目えぐそうだ」
「基本、モンスターって気持ち悪くないといけないって思うんだよね。かっこよかったり可愛かったりするのは邪道とまではいかないけど、少なくとも私は作らないよ」
変な信念で決意を新たにするマニコの横で。他にはどんなボスモンスターがいるのだろうと考えるが、聞く勇気はない俺なのであった。
法則ってのは、政界ルートにはn本花が咲いてるとかその程度のものです。ただ、ちょっとだけ見た目の違う花が混じってたり、花の数がちがったりするのでそこまで簡単ではないですが、シーフ系技能を持っていればガイドがでたりもする仕様。ってのを今思いつきました。




