第四十一話 集団先頭のジャングラ・ジャングラ:後編
「敵リーダー確保っ! そっちはあとどれくらいで処理できるっ?」
「2分待って! レキとペコリカ、あとだーさんを送れる!」
「了解! んじゃそれまで何とか抑え込むわ!」
疑問にマニコが即答してくれたおかげで目標がはっきりする。二分なら多少の無茶しても大丈夫か。
雑魚なら普通に狩れるレベルと言っても、さすがはネームド。抑え込んてるだけで腕の耐久値が、みるみる減ってく。このまま二分は無理だな。
「仕方ねぇ隠し玉だ!」
俺は体中のあるギミックに魔力を通す。
バカンっ! ばしゅぅっ!
胸の装甲が開かれ中から何かが飛び出し、ジャングラ命中した。同時に、腕を振り切りジャングラは俺から離れようと飛びのく。そのまままた森の中へ姿を隠そうとかけだそうとするが……。
「ざ~んね~ん。それはさせねぇんだな~」
駆けだそうとしたジャングラの動きが止まる。首に何かがついているのだ。そして、それから延びているロープは俺の胸の円筒上のパーツにつながっていた。
「名付けてブレストウィンチ! 新装備のお披露目が、こうバシッとうまくいくと気分がいいな!」
もちろん同じ様に、ウィンチパーツの耐久力は下がっていっている、けど
これで余裕ができたので。
「この隙に耐久値の減った腕パーツを予備と交換。これで腕は全回復だぜ!」
機械族の真骨頂だな。ピンチでもパーツ交換すりゃ一発逆転。
俺は新しい腕パーツでロープを握り引き寄せる。これでウィンチパーツにかかる負担はかなり軽減できるはずだ。
「さぁて、かくれんぼの次は綱引きだ、そっちの遊びに付き合ったんだから、こっちにも付き合ってもらうぜ」
ジャングラは最初こそ首輪を外そうとしたりロープを切ろうとしていた。だが残念だったな、首輪はスライムセラミック製を形状記憶ゴムで絞めているし、ロープはトレントコットン製だ。俺の魔力が切れない限り、それを外すのはお前にゃ不可能だよ。
そして、その魔力はじりじりと減ってはいるものの、まだまだ持つのである。
「GUuuuuuu…………GAAAAAaaaaaaaa!」
しびれを切らしてジャングラは俺にとびかかってきた。
しかし……!
「残念だけど、時間切れだ……」
「SHIIIIIIIIHAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」
俺の後ろからだーさんが飛び出して迎撃してくれる。
空中でぶつかりお互いに恥じてけ飛ぶ二匹。しかし離れて着地した二匹には明らかな違いがあった。
無傷のだーさんと、ほほをバッサリと切られたジャングラ。流石だーさんだ。
「大丈夫ですか? いま回復します!」
続いて、ペコリカが追い付てきて、呪文を詠唱し始める。
「え? いや、俺は機械族だから、回復呪文は……」
言いかけて、腕パーツの耐久値が回復していっているのが見えて絶句してしまう。
「えへへ、森林呪術師の回復魔法は木製装備の耐久値を回復させることができるんですよぉ。驚きましたか?」
「あぁ、驚いた。素直にびっくりだ。流石、森ガールだな!」
「やだぁ、森ガールは関係ありませんよぉ」
そういいながらもうれしそうなペコリカ。そうだよな、普通木製装備つったら杖か弓くらいで、耐久値がそう減るようなもんじゃないから死にスキルだもんなそれ。そういうのが役に立ったらうれしいもんだ。
「なにデレついてんの! さっさとあれやっちゃうわよ! あっちじゃマニコ達がまだ雑魚相手に奮闘してくれてんだからね!」
「お、おう、そうだな! いくかっ!」
レキに檄を飛ばされ気合を入れなおす俺。
さてフルボッコタイムだぜ!
◇◆◇
本当にただのフルボッコタイムだったので。省略させていただきます。
いやだってさ、ロープでつながっているジャングラを制御しながら、あとは殴るだけの簡単なお仕事だったんだもの。
実に単調でした、はい。
ということで、ミッションコンプリート。リーダがいなくなったら、雑魚もちゃんとわかなくなったので、コボルトたちも安心して木の実が取れることだろう。
「いやー思わずぼうけんだったね」
マニコがつかれたーといった具合に座り込んで、ドロップアイテムの鑑定を始める。その隣ではU子も寝っ転がっていた。
「マジそれだし。いくら一匹一匹はしょうもない雑魚だからって、常に7,8匹が無限湧きってのは勘弁してほしいっての」
「でも~、おかげでスキルはかなり伸びましたよ~、次の進化が楽しみです~」
ほんと何匹倒したんだって位ドロップあるもんな、スキルもだけどステーも伸びていてほしい。
「はい! 私は自分の魔法が初めて役に立ってうれしかったです!」
ペコリカさんが勢い良く手をあげて言う。比較的気の弱い人なのに、今はなんというか興奮気味だ。それだけ楽しかったってことだろう。いいことだ。ここで、あのヒールは、特になくても大丈夫だったなどと言って水を注してはいけない。
「惜しむらくはボスが簡単すぎたことでしょうか? 是非とも真正面から戦ってみたかったです」
「いや、だーさん、たとえ俺のロープがなかったとしても、あいつは正面からは戦ってくれなかったと思いますよ」
「そうなんですか?」
「瀕死の俺から飛びのいて逃げようとするような思考ルーチンのようでしたから」
とりあえず距離をとって隠れるようにAIがなっていたのだろう。正面から戦うとはとても思えない。
「それはますます、残念ですね。どこかに正面からどうどうと戦ってくれる強敵はいませんかねぇ?」
それなりのピンチの後だからか、だーさんも興奮して、若干バーサーカーモードが漏れてる。それにしても、それは「強敵」と書いて「とも」と読ませる的な何かでしょうか?
「楽なのに越したことは無いでしょ。あたしは、最後の方なんか余裕すぎてアイスブレスのレベル上げができたし」
「なんか違うブレス吹いてると思ったらそういうことか! 人焚きつけといて自分は嘗めプとか。どうなってんの?」
「でも何とかなったでしょ? 割と余裕で」
「確かにそうだけどさぁ……。あ、マニコ鑑定、終わったか?」
しゃべりながらも動かしていたマニコの手が止まったので確認する。
「おわったよー、って言っても、大したものはないね。毛皮に爪に牙、珍しいおころで胆石とかあるけどこれは何かに使えるかな? で、これが一番の大物」
そう言って縞模様の石を差し出すマニコ。
アイテム名は、獣の魔石『タイガーアイ』となっていた。
ジャガーなのに、タイガーアイとはこれいかに?




