第三十八話 ギルド交流と接近遭遇
準備を終えて、ゲートに着いた。メンバーは仲間たちに加えて、エヴァさんとイザベラも来ている。コボルトたちもできるだけ連れてきた。イベントごとというのは、出来るだけギャラリーの多い方が盛り上がるのだ。
はやる気持ちを抑えて、陽花さんに、WISコールを鳴らした。
『ゼットくん! 準備はできたのかね?』
半コールで出る陽花さん。心待ちにしていたのはこちら側だけではないようだ。
「ばっちりです。以前聞いたそちらのシリアルナンバーも登録済みですからいつでも行けますよ」
『まあ、待ちたまえ正規の手順ではないのだ。準備は慎重に行うべきだよ。出力は安定しているのかね?』
「はい、回路いじってブーストさせてありますからね、魔石が不良品でも最大3割弱まで出せます」
『できるだけ不確定要素はなくしたい。回路を元に戻して出せるのはどのくらいだい?』
なるほど、確かに素人のいじった回路でいきなり本番というのも、いただけない。
「一割3分、無理をして一割5分ですかね」
『十分だ。ではそちらも作業にかかってくれたまえ。私の方も魔石取り付けの最終調整があるのでね』
「わかりました。あ、このWIS公開バージョンにしていいですかね?」
『かまわないよ。こちらも公開しよう。』
公開WISとは、WISをつなげた二人無いし複数人をスピーカーマイクにして、その周りにいるプレイヤーとも会話ができるようになるシステムのことである。
「じゃあ、俺は作業に入るから、あとは適当にしててくれ。メインイベントまではしばらくかかりそうだしな」
それから、各ギルドメンバーは自己紹介をして交流に入った。
はじめのうちは、公開WISでの会話だったんだけれど、好みによってグループが出来上がって、今はそれぞれ、個人でWISをつないでいた。一応公開にしているから聞こえてくる
『つまり、刃物の芸術性ってのは切れ味と丈夫さのバランスにあるわけじゃん。単純だけど、そこが深いんだよな』
「そうですね、まったく同意します。それに比べると見た目の形なんて毛ほども価値がありません」
『やっぱり、今は鳳関が一番だと思います。厚い脂肪に包まれていますがその下の筋肉がしっかりしているので、体に張りがあるんです』
「わたしは~、グリフォンゲートのイアンくんも~いいと思います~。決して恵まれてるわけじゃない骨格にまとった筋肉の鎧。熱いですよね~」
だーさんは、リザードマンのフェイロンと刃物談議に花を咲かせ、るーさんは、ストーンゴーレムのクーラと筋肉について語り合っている。
『え? 同じ魔法でも、使う魔力によって威力調整できるんですか?』
「はい、そんな基本的なこともこの時代では失伝してしまっているのですね」
『しかし、どうやるのだ? そんな方法は魔法使用のに関するシステムの中にそんなことのできる方法は、一切見当たらないのだが?』
「感覚でって言いたいところだけど、魔力を物理的に感覚で理解できるNPCと違って、プレイ屋の場合はそこまでシステムサポートが追い付いてないから、それは無理。あたしのやり方だと、あらかじめ魔法を複数の段階で設定しなおすようにしているわ。魔方式を組み替えたショートカットをたくさん作る感じ」
レキはエヴァさんを巻き込んで、ビッグフロッグのトノサマと猩々のペコリカを魔法の話をしているようだ。
『だからここは打四筒だろうが、三色になりたがってんだよこの手牌は』
「全く理論的じゃないね。そもそもテンパってもいない三色に期待するのが間違ってる。いい? イザベラちゃん、麻雀の基本は両面。打一筒が正しい打ち方だよ」
「きゅ~~~……」
意外だったのはマニコ。河童のチャンタさんと麻雀談義だ。途中で興味を持ってしまったイザベラがうかつに参加してステレオでの麻雀講義に目を回している。
モンスターギルド同士の初の交流は、なんだかんだうまくいっているみたいだ。
そうこうしているうちに作業は完了して、陽花さんがみんなに声をかける。
『さぁ、ギルド交流も楽しいだろうが、本日のメインイベントだ! 集まってくれたまえ!』
それぞれバラバラで分かれていたみんなが集まってくる。コボルトたちもポスポスといつもの拍手もどきをやってくれた。
「こちらの出力は安定しています。いつでも行けますよ」
『よし、それでは、今回の実験を改めて確認する。ゲートが開けるようになったことの確認のために、いまからあるアイテムをゲートを通してセグンドに送る。これは我がディスアンでしか取れないアイテムだ。これを、君たちに知らせずに送り、届いたことを確認できれば実験成功。ちなみに、音声しか届かないのでこちらから送るアイテムの名前を知らせないことで、本当に届いたかどうかの確認とする』
「了解です。じゃあ始めますか」
『おう、それじゃあ、ペコリカ、これをあの台の中心においてくれるか?』
『わかりました』
『うむ、それでよい。ではいくぞ!』
そう、WISから聞こえてきたかと思うと。次の瞬間こちらのゲートが光り、出てきたのは一枚の紙だった。
「マニコ、鑑定よろしく」
「任された! ……すごい、これ力封じの霊符だよ!」
「マジか!?」
『マジさ! どうやら実験は成功のようだね。それはこちらからの一種の餞別だよ取っておきたまえ』
力封じの霊符。文字通り相手のSTRを一定時間下げるアイテムだ。確かにディスアンでしか取れない複数のアイテムを使って、ディスアン限定JOB「道士」を持つキャラクターが作ることができる。ディスアンからの贈り物でこれ以上わかりやすいものはない。
「そんなこっちからは何もお返しができませんのに……」
『気にしないでくれたまえ。言った通り、これは餞別だ。ゲートの安全が確保されたから、ペコリカがそっちに行きたいといっていてな。受け入れてもらえるだろうか?』
「それくらいなら全然。むしろ歓迎しますよ!」
『だ…そうだペコリカ。よかったな』
『はい、これでようやく森ガールになれます』
いや、森の猿はガールって言わないだろう。どうやら新しくやってくる子も結構キャラが濃いみたいだ。
『では、ゲートに乗ってくれたまえ。スイッチを入れるぞ』
『準備は万端ですよ』
『うむ、ではスイッチオン!』
ゲートは、さっきと同じように光り、
「へぇここがセグンドですか~。って誰?!」
現れたのは、毛足の長い白いサルと。
「え? なに? ここどこ?」
金髪エルフの人間プレイヤーだった。
やっぱり、そんなに長くなりませんでした。w




