第三十七話 予告は突然に
マニコの巣穴を出たところで、WISコールがかかってきた。
パネルを開いてみると、陽花さんだ。
『やぁ、ゼット君。今時間いいかな?』
「かまいませんよ? どうしました?」
『ふふ、聞いてくれたまえ。こっちではゲート用の魔石が手に入ったのだよ』
「マジですか? どうやって?」
「私のところでは近くの鉱山から出たんだがね。他にもMOBが落とすようなことを掲示板で見たよ。」
無属性の魔石(大)は用途の広いアイテムだ。
当然その情報はたくさんあるんだけど。
「そうですか……こっちには大きな魔石を落とすMOBも鉱山もないんですよね。いても倒せませんが」
鉱山なら見つければ、穴掘りのエキスパートがいるんだけどな。いかんせんここは見渡す限り森が続くばかりだ。
『そうか、まぁ気長にやり給え。その内ダンジョンにも出くわして、よい敵MOBにであえることもあるだろうさ。さて本題なのだが……』
「なんですか?」
『魔石が手に入ったことで、うちのゲートは使えるようになったわけだが、そちらも少しは直せているのだろう?』
「はい、と言っても出力は三割も出ませんけど……」
『十分だ! よしこれで実験できるな!』
「実験?」
実験と聞いたら黙っていられない。
『そうともさ。ゲートの送信実験だよ。ゲートは主に送信の時にエネルギーを使うんだ。受信には1割ちょっとしかエネルギーを使わないことが町のゲートを研究しているプレイヤーによって解き明かされてる』
「そうだったんですか。つまり……」
『こちらから一方通行ならそちらに送ることができるはずなんだ。理論的には!』
「おおおおおおぉぉぉぉ!」
「理論的には」この言葉にはロマンがあふれている。可能性の第一歩なのだ。
『というわけで早速、実験を執り行いたいのだが、大丈夫かね?』
「ちょっと待ってください、今ちょっとボディをなくして取りに帰るところなので、ゲートに着いたらこちらから連絡しますので、待っていてください」
『うむ、なるべく早く頼むよ』
陽花さんは、そう言ってWISを切った。
「ようし、急いで戻らなけりゃな、久々の大実験だ!」
「実験って言った?」
「どわお!」
マニコ、心臓に悪いからいきなり後ろに立つのはやめてくれよ。
「マニコ、さっきぶり。ホント実験のことになると神出鬼没だよな」
「発言される前の空気に実験のにおいが漂っているんだよ。それをかぎつけてきているのさ」
そういって胸を張るマニコ。
いつもの冗談だろうが、こいつならやりかねないと思ってしまうあたり、実にマニコである。
「で? 何の実験なの?」
「ふふーん、聞いて驚け! ゲートの受信実験だ!」
「おぉ、ついにほかの大陸への道が?!」
「いや、まだこっちの出力が足りてないから、あっちから一方通行なんだよ」
「そうなんだ、まああたしはこの森を離れたくないしいいんだけど、ゼットやレキ的には残念だね」
離れたくないって、いつまでひきこもるきだ? まあ、プレイスタイルはそれぞれだし好き好きでいいんだけどさ。
「まあそれでも、他の大陸の素材が手に入るようになるだけ大きいさ。しばらくは甘えさせてもらうことになるだろうな」
「ふーん、でもさ、手放しで信用してるけど陽花ってちゃんと信用できる人なの?」
「一応、SNSで本名さらして攻略情報出してる人だしある程度は信用できると思うよ。まあ、ネットの付き合いだからちゃんと一線は引いてるさ」
「あたしたちにも?」
「え?」
「あたしたちにもゼットは一線引いてるの?」
ちょっと戸惑う、こんな質問が来るとは予想していなかった。いや、マニコにとってはいい変化なのかもしれないが……。
「ん~、まぁ、リアルで付き合うのと同じようにはいかないだろ? でもゲームの中でなら、全幅の信頼を置いてるし、なんなら騙されてもいいと思ってるほど信用してるぜ」
「なんか、よくわかんないね。でも、ありがと」
「そっか。よし、ゲートまで行くんだけどせっかくだから全員誘っていくか。どうせ、俺も体取りに倉庫に戻らなきゃいけないし。送って行ってくれるか?」
「いいよ~。じゃあ、ウルフの体連れてくるね。あれが一番早いし」
そういうと、マニコの体はログアウトした時のように消えて、近くでお覚えが一つ。
すぐにマニコはやってくるだろう。
やばい、ワクワクが抑えられない。さぞかしリアルの顔はニヤついていることだろう。気持ち悪いことこの上ない。
そして、マニコが来るまでの間、遠足が楽しみな子供のようにあっちにうろうろこっちにうろうろ、落ち着きなく動き回る。俺なのであった。
短いですけど、このまま書くと長くなりそう(なるとは言ってない)なのでここでいったん切ります。




