第三話:実験準備と第一モンスタープレイヤー
書き忘れましたが更新は不定期になると思います。
「おらっ、しねよやぁっ!」
初勝利より一週間。
今日も俺はプヨンスライム狩りに精を出していた。
というのも、狩りに使っている装備回転式木針(命名「ハンドミキサー」)の使い勝手が良くなったからである。
まず、発火するまでの時間が大幅に伸びた。今では、普通の状態でSPが空になるまでまわし続けても発火しないまでになっている。
そして駆動音がかなり小さくなった。これにより回したまま奇襲をかけることが可能になったので狩りの効率も大幅にアップしたのだ。
以上のことにより導き出される結論は、「スライムは潤滑剤足り得るかもしれない」ということである。
しかし、いちいち新しい装備をスライムに突っ込むわけにもいかないので、かけらからそれっぽいアイテムが作れないか実験するために、材料を集め中なのだ。
ちなみにその過程でSPが少し伸びて25になったので、戦闘継続時間が少し伸びている。
「よし! こんなもんかな?」
そろそろ、落ちなければいけない時間なので、材料を確認する。
プヨンスライムのかけら×35 魔物核(スライム・微)×1 樹液の小瓶×10 木の皮×15 粘土塊×5 砂の小瓶×10 水の小瓶×10
ちょっと少ないと思われるかもしれないが、仕事の後、2,3時間プレイするだけだとこれが限界だった。並行して魔物素材以外も集めていたしな。
プヨンスライム以外の材料はこの森で採集したものだ。
樹液や砂はひとまとまりにしないとアイテム化してくれなくてストレージに入れれなかったので、木製の小瓶を作ってそこに入れた、そして近くの沼から目の粗い粘土も見つけたのでこれも回収。何が役に立つかわからないしね。
そのほかにも小枝や木材があるがこれはほぼ無限に回収できるので省いている。
と、言っている間にいつものリポップ場所に着いた。いろいろ行っているようだが、実は行動範囲は広くないのですぐに着くのだ。
ログアウト場所と決めているうねった根っこの下に入ると、一本の奇妙な茸が生えていた。
自棄にカラフルな黄色と青とピンクの幾何学模様の傘にクリーム色の茎、いかにも毒キノコですと主張せんが為の見た目にしか見えない。つまりは毒攻撃手段が手に入るかもしれないということ!
「ラッキー! 素材ゲットだぜ!」
「イタッ!」
マニピュレーターで引っこ抜こうとすると、その茸が悲鳴を上げた。
「もう、この感覚器はは敏感なんだからいきなり触らないでよ」
「敏感な茸とか、いきなり勘弁してください。ホモは間に合ってます」
「…………いやっ、そういう意味じゃなくて! っていうか私は女だしっ! セクハラだぞ、君っ!」
「あぁ、それはすみませんそんな姿じゃ、性別なんて、わからないもので」
「そうかー…って声! 自慢じゃないけど私の声はだいぶ高いんだけど!?」
「そうですね、アニメ声すごいですね」
「アニメ声っていうな~」
うん、思ったよりかわいいキノコだった。茸からキノコに表記を変えるくらいはかわいい。ピノコでもいいかもしれない。あっちょんぶりけ。
「ところで、その反応はNPCじゃなくてプレイヤーですよね? はじめまして、俺はゼット。種族は機械族です」
「あぁ、ご丁寧にどうも、植物族:マタンゴのマニコです……ってそうじゃなくて」
「あれ? キノコって植物ですか?」
「そこは私も違和感なんだよね。でも、今でこそ生物は動物、植物、菌に分けられるんだけど菌が発見されるのは結構近代になってからなんだ。それまではキノコは植物扱いされていたわけだし、ここはファンタジー世界だとして中世くらいの分類学で動いているとするなら、リアルであると言えなくもないのかも……って、あぁもうっ!」
あぁ、この人理系だ。しかもオタク気質の理系だ。
「で、マニコさんはこんなところで何を?」
「だからっ……あぁ、もういいわ。何か無駄みたいだし。私は自分の領域内に他プレイヤーがいるみたいだから挨拶しに来たんだよ。っていうかなんで敬語なの? 戦闘中はもっとテンション高かったでしょ? 「しねよやぁー」とか言ったりして」
うっわ、あれ見られてたのか。恥ずかちー。
「んじゃ止めるけど。領域って何? 俺いつの間にか不法侵入してたりしたの?」
「そういうわけじゃなくてね。私たち植物族プレイヤーは二つの成長方法があって、一つは普通に戦って熟練度を上げる通常プレイ、もうひとつは植物として地面の栄養をとりこんで成長する方向をポイントで決める植物プレイ、私はその植物プレイヤーというわけさ。そして君は私の体の上にいる」
「からだ? 目の前のキノコは体じゃないの? そういえば感覚器がどうとか……」
「いい洞察力だね。このキノコはあくまで外部とのコミュニケーションツール、私の本体は地面の下この森の木々と共生している菌糸なのだよ。今は50m四方くらいには広がっているんじゃないかな?」
「50mって何そのチート、サービス開始からまだひと月たってないんですけど」
「チートじゃない仕様。それに大きいだけで自分自身はそこまで強くはないんだよ。ステータス的にはHPだけ以上に高くて他は軒並み1ケタ。何せ今日まで広がることと共生植物の改良しかやってこなかったからね。ホントならこのキノコももう少し大きくしたり、木から独立して動き回れるようにしたりもできるんだけど、今日初めてそっち方面にポイントを振ったから。そこまではいかなかったんだ」
何かこの人、俺とは別げー遊んでるっぽい? いや俺も普通のプレイヤーから見たら別げーっぽいのかもしれんけどさ。
「何をめざしてそんなプレイを……」
「最終的にはダンジョンメイク? 共生植物を改造して森の中の生態系を操り、木々やモンスター、トラップの配置を決めて、突入してくるほかのモンスターや冒険者を狩って栄養にする的な?」
「怖っ! 思ったよりも計画がしっかりしてた」
「そういう君は、なんでこんな森の中に? 機械族ならスタンダードにプルミエか鉱山の多いクィントゥムをスタートにするのがセオリーじゃないかい」
「うっ」
そこを突かれると痛い。まぁ、黙っているのもおかしいし俺はこれまでの経緯を話した。
爆笑された。
「なるほど! その姿は行き当たりばったり無計画のたまものかぁ!」
「はいはい、笑ってください。俺はまぬけですよ~」
「いや、ごめん。しかしそんな状態でもプヨンが狩れるとは驚きだよね。まだ打撃のききやすいネズミとか昆虫系のほうが相手をしやすいんじゃない?」
「あぁ、一回やってみたけど、まず相手が速すぎて攻撃が当てられないので無理げーだった。特にビッグコックローチはマジで当てられる気がしない」
「そうかぁ、ままならないものだね。ところでずいぶん早く拠点に帰ってきたみたいだけど、まだ20時を回ったばかりだしもうひと狩り行くの?」
「あぁ、そうだ今日は明日の仕事が早いから早めに落ちる予定だったんだ。その分明日は早めにな入れるから実験準備を済ませておこうと思っていたのをすっかり忘れてた」
「実験!? 実験といった君っ!?」
あ、なんかやばいスイッチ押したっぽい?
「あぁ、うん。スライムのかけらからグリスが作れないかと思って、色々試そうかと……」
「そうかそうか、なかなかおもしろそうな実験じゃない。明日何時からやるの?」
「午後4時ごろ……ってまさか来るの?」
「もちろん、新しい発見の興奮はたとえヴァーチャルでも価値があるよ。自慢じゃないけど、私は面白そうな実験には時間を惜しまないマニコさんと呼ばれているよ」
なんか変なのにつかまっちゃったな。しかし、自分とは違う視点からの意見というのは実験のときにはありがたいものだ。ありがたく提案を受けることにしよう。
「じゃあ、仕事の都合で遅れることもあるかもだし、4時半に待ち合わせということで」
「うん、じゃあ、私はその時間までにキノコを独立できるようになるまで育ててまっているから」
彼女は微妙に重たい発言をして木の根の中に引っ込んでいった。
そろそろ自分も落ちるとしよう。明日は楽しい実験の時間だ。
というわけでヒロイン登場・・・・・・・・ヒロインですよ?
ナチュラルにPK宣言してたりするけどヒロインです。