第三十二話 コボコボコボルトコボルトルト
長い間エタってて申し訳ありません。よろしければまたお付き合いください。
「はい……はい……ありがとうございます。いえ、こちらも楽しみにしていますので……はい、それでは」
SNSの音声チャットを切って、ふぅと一つ息を吐く。
通信していた相手は陽花と書いてヤンファさん。ディスアンでモンスター村開拓プレイをやってる人だ。ゲートのつなぎ先を探していてモンスタープレイ掲示板を覗いたとき偶然知り合うことができた。
つながるのはまだもうちょっと先の話だが、それまでボボンガ再興のアドバイスをしてもらうことになったのだ。
それにしても、
「家かぁ……」
どうやら、家を建てると、住人NPCが移民してきてくれることがあるらしいんだが、立てるのは大変だよなぁ。
まぁ、考えても仕方ないか。今日は取りあえず建設に必要な新しいパーツのでも考えようかな?
なんか最初のコンセプトとはどんどんずれてきている気がするけど気にしない。建機道まっしぐらだ。いっそ、勇者ロボシリーズを目指してもいいかもしれない。そうするとやっぱ消防車と救急車は外せないよな。
何の使い道もないであろう、回転灯の設計図を考えながら、俺はCAOにログインした。
◇◆◇
「……って、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁっ!」
ログイン場所に着いたとたん俺は思わず叫んでしまった。なぜって? 見知らぬ大量の犬獣人が所狭しとうろついていたからだ。
「あ、ゼット。今来たんだ」
よかったマニコは無事か。他はってーと。あ、イザベラが子供の犬獣人をモフってる。あいかわらずぽんこつだなぁ。
「どうなってんだこれ?」
「すまないね、僕がちょっとやらかしてしまったんですよ」
「だーさん。戻ってたんですか?」
マニコにした質問だったのだが、いつの間にか近くにいただーさんが答えてくれた。
いわく、遠征の途中でマッチョエイプの群れに襲われているコボルトの村を助けて、その村の住人がこれからも守ってほしいとついてきてしまったんだそうだ。
「本当はちゃんと許可を取ってからって思ったんですけど。放ってもおけなくて。」
「かまいませんよ。後ろベストタイミングです。そろそろ、家屋を増やそうと考えてたんですけど自分ひとりじゃ手が足りなくて」
「すみませんね、そっちを手伝うのは僕にはちょっと無理ですから。まかせっきりになってしまって」
「こっちも半分は好きでやってるようなもんですから、気になるんでしたら今度伐採でも手伝ってください」
「ぜひそうさせてもらいます。さて、じゃあ、みんなを集めた方がいいですか?」
「できるんですか?」
「任せてください」
そういうとだーさんはすぅっと息を吸い込んで、
「全員っ! 整列っ!」
普段からは考えられないどすのきいた大声で叫ぶ。すると各々勝手に動いていたコボルトたちがビシッと正方形の陣になった。うん、10×10あまり3か。
「これより、我がギルドリーダーよりお話がある。心して聞くように!」
だーさんの言葉に「サーイエッサー」とばかりに吠えて、「休め」の体制をとるコボルトたち。
いや、そんな風にされると変に緊張するんですけど!? だーさんなに仕込んでんの?
「あー、紹介にあずかりました。ギルド『すろーらいふ・もんすたーず』のリーダーやってますゼットです。よろしく……」
いやだぁ、なんか「え? あれが? ダーレスさんの方がよくね?」って思われてる気がするモブNPCだからそこまで細かいAI設定はされてないはずなのに……。
「えー、我が町ボボンガは、再興のための人材を求めておりました。皆様のことは渡りに船ということで歓迎させていただきます」
一部のコボルトが安堵したかのようなしぐさをする。まあ、そうじゃなくても簡単に見捨てたりはしないけどね。
「それでは10人ずつの班に分かれてください。レベルはできるだけ均等にするように。レベルが一番低い3人は私付きとします」
まあ、一番能力の低いのが余るのが一番角が立たないだろう。現実世界では能力を測る方法があいまいだから使えないけど、ここではステータスという絶対的指針がある。
てきぱきとした動きで、班分けが終了する。ほんとにどこまで仕込んでんだ?だーさん?
思わずだーさんの方を見ると、
「ここまでの道中でちょっとね?」
と苦笑した。
やっぱり、この人はできるだけ怒らせないようにしよう。
「それじゃあ、それぞれ担当区の地図を配ります。その範囲にある草を刈って土地を整備してください。早くできた班にはご褒美がありますよ」
この間、マニコが酒を完成させた。あれをご褒美としてやる気(AIにあるのかは知らないが)を起こさせる作戦だ。担当区の地図は俺がせこせこ作っておいた。作業の辞め時を作るための「今日はここまでMAP」。あれがないと、つい時間を忘れて延々やっちゃうんだよなぁ。取りあえず一枚ずつ渡して、どれくらい時間がかかるかを見たら、今後御作業計画の指針になるだろう。
「では解散。作業を始めてください」
コボルトたちはいっせいに持ち場へと散っていった。よほどぐだぐだだったのだが、文句の一つも出ない。うん、やっぱり、モブ用の単純AIだけ積んでいるようだ。動きに無駄がないのは訓練の性だけではないんだろう。イザベラや、エヴァさんとは違うのだ。
「あー、こんな感じでよかったかな?」
「上出来ではないですか? 欲を言えば彼らのAIは犬っぽい設定をされているようなので、なめられないようにもっと上から言ってもよかったかもしれませんが」
「いや、あれが限界だって。あ、そういえば勝手に仕事降っちゃったけど、だーさんも使う予定だったり……」
「その予定でしたら、途中で口をはさんでいます。あまり育成ゲームには興味がないんですよね」
この人もぶれないよな。
とりあえず今日はコボルトノ作業を眺めながらクレーンの設計度もしますかね。
とウインドウを開こうとして三匹のコボルトが目に入る。そうだ、この子たちにも仕事を与えなきゃなんだいんだった。えっと、何かあったかな?




