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第三十一話:狩りにハプニングはつきものです

「ふはははははっ! フォレストベア恐るるに足らずっ!」


「まーた調子に乗って」


「でも狩りは順調だよね。実際」


 あれから一時間ちょっと、俺たちは順調にフォレストベアを狩っていた。


 方法はこうだ。


 まず、網状にした形状記憶ゴムで罠を張る→レキが持ち前のAGIでフォレストベアを罠の上まで誘導してくる→罠発動、縛り上げる→フルボッコ。


 格上の相手なので一匹一匹倒すには時間がかかるが、それでも罠のおかげで安全に狩ることが出来るのだから形状記憶ゴムさまさまである。そのおかげでマニコも安全に弱らせたフォレストベアに寄生することが出来た。現在は猿形態→熊形態である。


 しかしやばいな。なにがやばいって形状記憶ゴムの万能感がやばい。なんかこれさえあれば他の素材が要らない気さえしてくる。


 っと、冗談はさておき。


「拠点に戻る時間もあるし、そろそろお開きにするか?」


「だね~。じゃあ次の一匹がラストってことで、レキよろしくぅ!」


「なんか、この構成私が一番働いてない? ま、AGI鍛えるにはちょうどいいんだけどっ!?」


 と、レキが獲物を探しに行こうとしたその時、少し遠くの草むらが揺れて一匹のフォレストベアが飛び出してきた。


 左前脚を引きずりながらも全速力で駆けてくるそれは明らかに、


「足引きずってるくせに、ほかのフォレストベアより明らか早いんだけど! 何あれ!?」

 

「解らん! だけど奴の進行ルートは罠の真上を通る。同じように拘束してしまえば問題ない!」


 近づいてくるにつれ、顔もはっきり見えるようになった。口元が大きくただれ牙がむき出しになり、右目が赤くぐずぐずに溶けている。


 もしかしてあれは? いや考えている余裕はない。今は罠発動のタイミングを計ることに集中するんだ。


「来るよ! 3・2・1・今!」


「どっせぇい!」


 マニコの合図とともに気合を入れて魔力を罠に通す。


 ゴムの網はフォレストベアをからめ捕り空中で縛り上げた。しかし、


「よっしゃ! ってなぁ!?」


「ガァッァァァァァァァッ!」


 こいつっ! 力任せに拘束を広げて爪で切り裂き脱出しやがった!? なんてパワーだよ!?


 形状記憶ゴム万能説完全敗北。負けるの早かったなぁ、おい。


「灼熱隻眼のヒートビート・・・・・・。やばい! こいつネームドだよ!」


 いち早く相手MOBのステータスを確認したマニコが叫ぶ。


 ネームドモンスター、突然変異的に湧く強化モンスターである。発生の原因はつかめていないが、その強さはまちまちではあるが、概ね元のMOBの2倍。と、攻略サイトの考察には書いてあった。


 フォレストベアの時点で格上、その二倍のステータス。さらに罠も効かないとなると・・・・・・。


「なぁ、一つ作戦を提案したいんだが・・・・・・」


「奇遇ね。あたしも提案したいことがあるのよ」


「それってもしかしなくても・・・・・・?」


 マニコの問いに、俺とレキの声が重なる。


「「三十六計っ! 逃げるにしかず!」」


「だよね~っ!」


 言うが早いか駈け出すマニコとレキと俺。三方向ばらばらでだ。


 倒せない強敵が出た時はばらばらに逃げて被害を減らす。狙われてデスペナもらっても運が悪かったということで文句を言わない。事前に決めておいた通りの行動だ。


 さて、確率的には三分の一だが恐らく・・・・・・。


「ガァァァァァっ!」


 やっぱり俺の方へ向かってきた。間違いない、こいつはゴムを発見した時に追い払った奴だ!


 どういう理屈か知らないが、4足歩行形態であの時とは形の違う俺を認識していやがる。つか、手傷を負わせて放置したらネームドに強化されるとかどんな仕様だよ!?


 とりあえず今の装備じゃ倒せない、今は逃げの一手だ。


 基本動物系モンスターは縄張りから出ないように設定されている。ネームドになろうとほぼ例外は無いそうだ。逃げ切ればデスペナを貰うことは無い。


「装備変更! フライトモード!」


 俺は、ある程度開けた場所に出たところで飛行形態になって空へと飛びあがる。木の上程度の高さならあのドラゴンもやってこないだろうし、まさかこの高さまで追ってはこないだろう。



「ガァァァァァァっ!」


 という甘い考えは打ち砕かれた。


 何あれ、木を垂直に駆けあがってくるよ! ネコバスかよっ!


 手が一本使えないのに器用なことだね!


 くそ、このままじゃ追い付かれる。何か手はないか!?


 横に逃げようにも木々が邪魔して翼長2mのこの身は抜けることが出来ない。上にしか逃げ道はないが速度差で確実に追いつかれてしまう。残るは・・・・・・。


「えぇい! 死中に活あり! 一か八かだ!」


 下! 


 ヒートビートへ向けて一羽ばたき、加速をつけてから装備変更。4足形態になって、装備の中で一番耐久値の高いスチームバッシュシールドを構える。


 右前脚は駆けあがるのに使っているので、動かない左前脚を強引に振って迎撃してくるヒートビート。しかし重力に味方された俺をはじくには至らない。


 そのインパクトの瞬間、俺はスチームバッシュシールドに圧縮された蒸気を解放する。


 すぐに使えるようにチャージをマックスにしたままストックしておいて助かったぜ。


「グギャオォォォッ!」


 たまらず足を木から放してしまったヒートビートは重力に引かれて自由落下。俺はもう一度飛行形態に装備変更して落下にブレーキをかける。


 心地よい空気抵抗を感じながら俺は再び空へ向かってはばたいた。


 下は見ない。


 この程度の高さの落下ダメージであれが死ぬとは思えないし、弱ってたとしても倒せるかどうかは賭けになる。せっかく一か八かの賭けに勝ったっていうのに、もう一度博打とか勘弁してほしい。



 と言うわけで、すたこらさっさだ。


 俺はそのまま木々の上まで飛び上がり。魔大樹を目指した。




◇◆◇◆◇




「あ、おかー。逃げ切れたんだ」


 魔大樹の下、いつものたまり場に降り立つとすでにマニコとレキはたどり着いていた。


 多少遠回りしたとはいえ、レキはともかくマニコにまで先を越されるとは空を飛ぶのってそれほどメリットは無い?


「それにしても、マニコ。なんでマタンゴ形態なんだ? 熊はどうした、熊は?」


「あ、熊をオートにして、放っているんだ。戦闘力は高いけど他では不便だからね。必要な時はいつでも呼び出せるし。ちなみに他の寄生したボディも同じような感じだよ。こっちにおいておいたマタンゴぼでーをアクティブにするだけだから一番乗りだったんだよね」


「便利だなキノコ」


「その代わり、戦闘力は寄生体頼りだし。その寄生体も元のMOBよりステータスダウンしちゃうしね。一長一短だよ。」


「それにしても、よく逃げ切れたわね。かなり速かったでしょあいつ。」


「まあ何とかな。こっちは空を飛べるってアドバンテージがあったし、運も良かった。しかし、あいつがあそこに陣取っているっていう状況は結構きついよな?」


 そう、あそこはゴムの採集場所なのだ。そこに倒せないMOBがいるという状況はちょっと歓迎できない。


「そうね、あんたが考えなしにバンバン使うからゴムの原液の在庫も残り少ないもんね」


「なっ! なんでレキが俺の持ちアイテムの在庫状況を知ってんだよ!?」


「あ、やっぱり、もう無いんだ。景気よく使ってるみたいだから、カマかけてみただけなんだけど」


「ぐはっ!」


 何て単純なカマかけに引っかかるんだ、俺はっ!


「ま、何にせよ今のうちはどうもできないっしょ。せめて無印のフォレストベアを正面から軽く倒せるようにならないと・・・・・・」


「クイーンを倒した時みたいに、だーさんるーさんそろっていれば何とかならない?」


「あの時は時間制限があったしかなりの賭けも入ってたしな。何より低レベルクエストのクエストボスと、バランスも何も考えられていないであろう、降ってわいたネームドMOBとじゃ比較にならないだろ?」


 あの時も正直ぎりぎりだったのだ。出来ればもうちょっと安全マージンを取って戦いには臨みたい。俺はまったりプレイ希望なのだ。


「ま、のんびり戦力拡大しながらやるさ。ゴムだけが素材じゃないしな」


 そうだ、ゲートのこともある。近場で採集が出来ないなら遠出すればいいのだ。いまだつながる相手は見つからないが・・・・・・。


「あんたがそう言うならあたしはいいんだけどね・・・・・・。もう遅いしあたしは落ちるわ」


「そういえば、そろそろお開きにしようって事だったんだよな。最後に事件があってすっかり忘れてたわ。俺も落ちるか」


「じゃ、これで解散だねぇ。おつぅー」


 それにしても、WISして勝手に落ちてもいいのに、こいつらは待っててくれたんだよな。律義と言うかなんというか、まあせっかくのVRだしな顔を合わせるって事にも意味はあるか。


 俺はそんなことを考えながらログアウトボタンを押した。


 あ~、時間がたつのって早いですね~(遠い目

 いや、本当に遅くなってしまって申し訳ありません。今回はキャラクターが動いてくれなくて結構な難産でした。よくまとまってくれたよほんとに・・・・・・。

 次はもうちょっと早くお届けできるように頑張ります。


 ではここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

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