第二十九話:牧場完成
よし、今日もはりきってゲートの修復を行うぞ! と、思っていたのだがマニコから牧場完成の報が入ったので急遽予定変更。そっちの様子を見に行くことにした。
4キロも離れているのにそんなに気軽に戻れるのかって? そこはほら便利な移動方法ってのがゲームにはあるからさ。
◇◆◇◆◇
魔大樹の西、自分で切り開いた放牧地には予定通りの生き物がのんびり草を食んでいた。
その生き物とは、そう亀である。
俺がマニコに依頼していたのはジュエルタートルの品種改良による鉱石の安定供給であった。
「遅いよゼット」
顔の前で腕を組みながらマニコがぷりぷりと出迎えてきた。
「これでも出来得る限り最速の手段で戻ってきたんだけどな? で、塩梅はどんな感じなんだ?」
「予定通りとはいかないね。やっぱりグレードダウンは起こってジュエルタートルからオレタートルに種族変換してしまったよ。多分だけど魔石ドロップはほとんどないと思う」
うん、それは種族改良を頼んだ時に聞いているから問題ない。そこに文句を言うとしたら客として最低限のマナーもわきまえてないことになるしな。
「その代わり繁殖率は高いし鉱石のドロップ率はほぼ100%まで持ってこれたね。コットントレントみたいに自分で収穫までしてくれるんじゃなくて自分で屠殺しなきゃだめなのが面倒くさいんだよね」
「ほぼ依頼どおりじゃないか。まさが自動収穫まで期待してないって」
「あとね~なんでかわからないんだけど防御力とHPが本家より伸びちゃったんだよ。ただでさえ硬いのにこれじゃ屠殺に時間がかかるんだけどさ、どうしてもなおんなくてそれだけはホントにゴメン」
「マニコは甘いなあまあまだ! キノコの山よりも甘い!」
「なんですと!」
「俺がそんな事態を予想していないとでも思ったか?」
「ま、まさか・・・・・・! 人生で言ってみたいセリフTOP10に名を連ねるあのセリフが飛び出すの?」
「その通り! こぉぉぉぉんなこともっ! あぁぁるぉかとぉっ!」
テンション高めで俺はストレージからそのアイテムを取り出す。
四角形に並んだ10mほどの木製の柱の上に形状記憶ゴムが十字に張ってあるだけのシンプルな見た目だがそれで侮ってはいけない、これは・・・・・・。
「その名も屠殺用カタパルト「打ち上げ君一号」だ!」
完成してもアイテム名不明のままだったのでそれっぽい名前を付けてみた。
構造はいたって単純。十字に張った形状記憶ゴムをひもで引っ張っ下ろし、その上にオレタートルを誘導、魔力を通してゴムの反発で打ち上げ落下ダメージで屠殺するというものだ。
発想はもちろん前に自分が打ち出されたところからきている。転んでもただで起きないのだよ私はっ!
「おぉっ! なんだかわくわくするね!」
「そうだろう、そうだろう! さっそく試運転へと移ろうか!」
「がってんしょうちっ!」
マニコは一匹の亀の鼻輪を掴んでさっそく「打ち上げ君一号」のセットしたゴムの上に誘導してくる。
「マニコその鼻輪も作ったのか?」
「そんなめんどくさいことしないよ。これはモンスターとしての生まれた時から持っているもの」
なんともファンタジーだ。ともあれ。
「第一射いくぜっ!」
俺は操作盤に手を当てて魔力を通す。
その瞬間、ベッキャと音を立てて柱が4本ともへし折れてしまった。
「あちゃーこれは亀の重さを甘く見ていたか・・・・・・」
「駄目だよゼット!」
「そうだな、柱を強化してもう一度挑戦と行こう!」
「そうじゃなくて、今のは折れた柱にぶつかって一死にって場面でしょ! 自分の持ちネタを理解しなきゃ!」
「いや、俺はいつもネタで死んでたわけじゃないんですよ!」
いや確かに、今まで戦闘で死ぬより実験失敗で死んでる方が多いけどさ!
「ま、冗談はこれくらいにして実際どれくらいの強度が必要なんだろうね?」
「冗談だったのかよ・・・・・・。とりあえず一辺の倍にしてみようか」
幸い木材はいっぱいある。作り直す素材には事欠かない。
「それもいいけど、形状を四角柱から円柱に変えてみたら?曲りにはそっちの方が強いと思うよ」
「そうだな、じゃあさっきの一辺の倍の直径の円柱で試してみるか!」
俺は早速製作スロットに木材を突っ込んでいく。構造自体は単純なので時間はほとんどかからない。ほどなく試作二号が完成した。
「じゃ、一匹連れてくるね」
「おう、頼む」
さっそく亀をセットして試運転。
「打ち上げ君1号改始動っ!」
ミシッハビュンっ!
今度はうまく飛んだが少し軋む音が聞こえたもっと強度が必要だろうか?
「おぉ! けっこう飛んだねぇ」
「そうだなッと、そろそろ着弾か?」
ほぼほぼ真上に飛んだと思ったのだが、亀は装置のより40mほど離れたところに落下した。
ズムン!
そして地面にめり込んだ。
「結果は・・・・・・だめだ生きてるっ!」
「地面が柔らかすぎるのかな? どうしよっか?」
着弾地点が読めない性質上広範囲を固めなくてはならない。さすがにこの装置のためだけにそんな広い範囲の地面を押し固めるなんてことはできないしな。
二人でうなっていると、レキがログインしてきた。
「何二人して見つめあってんのよ?」
「いや、かくかくしかじかでな」
「わかんないから! ちゃんと説明して頂戴」
超古代伝達魔法は通じないようだ。俺はレキに事の経緯を説明した。
「それってさ、地面じゃなくて天井に叩きつけるのじゃ駄目なの?」
「「えっ?」」
「いやだからさ。こう、硬い天井を用意して・・・・・・」
「レキお前天才! マニコお前の領域によさそうな岩ってないのか?」
「この前蟻の巣を掘ってるときに見つけたいいのがストレージに入ったまんまだよ。運がいいね」
「譲ってくれないか? お代は何がいい?」
「これは共同出資でチームみんなの利益になることだから別にいいよほら使っちゃって」
マニコからシステムを通して岩を譲られる。
よしこれで改造して・・・・・・大きな岩が乗るからもうちょっと丈夫な方がいいかな?
柱を4本から6本にして天井を支えられるようにする。
ストレージから出してみたが自重で崩れることなどはなさそうだ。とりあえず構造には問題なしと。
「それじゃあ「打ち上げ君一号改二」の試運転と行こうか」
「何そのだっさいネーミング」
「解りやすさを重視してみました。じゃあさっそく一匹連れてきてくれ」
「OKゼット!」
三度目の正直。操作パネルに魔力を通す。
ハビュッガイン!
大岩の天井にぶつかったオレタートルは見事光の粒子となって消えていった。残されたのは鉱石一個。
「大成功だ! レキ、サンキュな! お前がいなきゃこの装置は完成しなかった」
「いや、あたしは最後にやってきてちょっと意見言っただけだし・・・・・・」
「そのひらめきが大切なんだよ! 1%のひらめきが無ければただの人なんだよ!」
「天才ってそんな大げさな。でもま悪い気はしないわね」
一通りレキを褒め殺したところで俺は装置に向き直った。
「ようし!じゃあどんどん屠殺していくか!」
「待って、今の規模だとそんなにたくさんやると全滅しちゃうから・・・・・・そうだね、一日30匹を目途にしといて」
三十匹か・・・・・・それでも一日確実に鉱石が30個手に入るのはでかい。ジュエルタートルの場合はあたりもあるけどはずれも相当多いからな。
「ゲートの修理は後回しにしてしばらくはこっちで功績をためてあの目標をクリアする方に専念するか」
どうせ、ゲートの方は相手が見つからなければ起動はできないのだ。こっち優先でも問題ないだろう。それにはまずだーさんるーさんを呼び戻さなくっちゃな。
俺は二人へのWIS回線を開いた。
リクエスト来ないだろうと高をくくってダイスを用意してたんですけど来ましたね。しかもディスアン。
実のところ一番何も考えてない大陸でもあります。これだから人の意見って面白い。
まあ今回の話もマニコとゼットが牧場へ行くってとこだけしか考えないで書き始めたのに、なんか変な装置が生えてきたので、きっとこの件も何とかなるでしょう。
では、ここまでお読みいただいてありがとうございました。




