第二話:死闘(笑)
キッコキコキコキコキコキコキコキコ
やっぱり……
キコキコキコキコキコキコキオキコキコ
ちょっと……
キコキコキコキコキコキコキコキコキコ
うるさいよなぁ……。
昨日作った「小枝のマニピュレーター」をさっそく装備してみたのだが思ったより動きがぎこちなく、そして何よりうるさい。
関節部分の摩擦係数が高いことが原因だろうがやすりも油もない状態ではどうしようもない。しばらくは我慢するしかないか。
と動作確認のためいろいろ動かしていたら。
ボッ
「ぼっ?」
音のしたほう見ると関節部分が火を吹いていた。
「え? ちょっまっ!?」
材料が木だけあって装備を外す間もなく、あっという間に燃え広がり炎による継続ダメージで俺死亡。ついでに小枝のマニピュレーター焼失。
摩擦熱による発火って無駄にリアルだなぁ、おい!
まあ逆に考えると炎を起こす手段を手に入れたともいえるので、まあ好し。
それを踏まえてプヨンスライムにリベンジするためのパーツを思いついたのでさっそく俺は図面を引く作業に入って行った。
◇◆◇◆◇
明けて翌日、さっそくそのパーツを装備してプヨンスライムの居るあたりへ出かける。
新しいパーツそれは槍である。といっても手に持つ槍ではなく、ちょうど前に作ったマニピュレーターの関節をなくして手の部分を三角錐二つを鋏の様に互い違いに組み合わせた感じのもの。これを一頭身の体の右横につけている様はランスを構えたチャリオットといったところか。
アイテム名は「回転式木針」システム的には大きさが足りないせいか槍ではなく針として認識されたらしい。そしてどんな仕掛けがしてあるかばればれのネーミング。ホントはドリルを作りたかったんだけど図面引いて、いざパーツを作ろうとしたところ、連続30回の失敗であきらめました、はい。
ついでにバランスをとるため、左側に新たに作った「小枝のマニピュレーター」を装備した今のステータスはこれだ!
名前:ゼット 大種族:機械族 小種族:プチギア
HP11 SP17
STR:1
VIT:2
AGI:1
TEC:7
INT:1
MEN:5
ATK:10~21 DEF:2 MATK:1 MDEF:5
スキル:機工士Lv8 木工:Lv9
装備
回転式木針[耐久値111]
小枝のマニピュレーター[耐久値105]
アイテムを三つ作っただけなのに異様にスキルレベルが上がっているのは一からの設計だと得られる経験値が多いからだそうだ。
木工が機工士を超えちゃったのは30回連続失敗のたまもの。
ステータスはほぼ変わらないが武器っぽいパーツを装備したおかげかATKがかなり伸びているので、前よりはまともな戦いになると思う。
ほどなく、一匹だけでうろついているプヨンスライムを見つけた。
足もタイヤもない今の俺にできる移動方法は跳ねるのみだ。正直かなり騒がしいので、こちらから近づいて逃げられるのはまずい。草むらで息をひそめこちらの射程内に入ってきてくれるように祈る。
(まだ……まだ……あぁ、そっちじゃない……そう…それでいい……そのままこっちに…………今っ!)
タイミングを見計らって飛びかかりプヨンの斜め上あたりに槍が突き刺さった。
「ぃよしっ! っとわぁ!」
思わず声をあげて喜んだのもつかの間、すごい勢いで震えだすプヨンスライム、そのうえで無様に振り回される俺。昔のクジラ漁って銛一本でクジラにしがみついてたらしいけどそんな感じ。
「ん…なろぉっ!」
暴れるプヨンスライムの上にいるだけでHPが削られていく迷ってる暇はない、俺は「回転式木針」のスイッチを入れる。
キュキィィィィィィィィィィィッ!
森の中に嫌な音が響き、回転式木針の穂先が名前の通り回り始める。スライムの中身をかき混ぜながらその温度はどんどん上がっていき知れは発火するはず……
ィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイッ!
ってあれ? 発火しない……いや、当たり前じゃん!
あんな水分の多いモンスターん中に突っ込んだままで発火温度超えるわけがねえ。なんで設計段階で気がつかない俺っ! ばかなの? しぬの?
かといって抜くわけにもいかないし、こうなりゃ予定変更っ!
「撹拌してやるぜ! 軟体野郎!」
冷静になってみるとたかがゲームにノリノリだなぁ、おい。まあいいやこんなのは楽しんだもん勝ち。
今は機械の顔だから変化はないが、リアルだったら確実に笑っているだろう俺は勝ち組だ。
俺はそのままプヨンスライムの中に突っ込んだ三角錐を横に開き回転させ、かき混ぜるように体を揺らす。回転式木針は全力で回すと30秒持たずにSPが切れる。それまでに相手のHPをけ擦り切れるかの勝負。
HP9 SP13
まだ元気に暴れている、しがみついている小枝のマニピュレーターがギシギシ悲鳴を上げ始めた。
HP7 SP9
だいぶ大人しくなったけど、小枝のマニピュレーターが砕けちゃったのでしがみつく難易度は変わらない。油断するとすぐにでも振り落とされそうだ。
HP5 SP4
もうほとんど動かなくなったこれで勝ったかと油断した瞬間、プヨンスライムの体は大きくうねり回転式木針の関節部分が耐えきれなくなったのか砕けたため俺は大きく跳ね飛ばされてしまう。
幸い柔らかい草の上に落ちたがそれでも落下ダメージを受けて残りHP2っ!
「くっ! このっ!」
二度と油断はするまいとプヨンスライムのほうを見るとちょうど光の粒子になって消えていくところだった。その場に残されたのは一つのアイテム……。
「プヨンスライムのかけら……ぃ…よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!」
ボスを倒したわけでもない。レアアイテムを手に入れたわけでもない。
ただの雑魚MOBに通常ドロップ。
だけれど俺は心の底から叫んでいた。
小さな……小さな一歩。だけれどその一歩を確実に進んだという充足感。
それが俺の心を満たしていた。
そうだよ、ゲームってこういう楽しさが……
「ガウッ!」
パチュンと音がして意識が途切れポップアップ場所へ転送される。と同時にシステムメッセージが流れた。
『スキル「大声」をLv1で獲得しました』
確認するとどうやら「周りの敵の自分へのヘイトを少し上げる」スキルらしい。
つまり、俺の喚声を聞いてイラッ☆と来た別の敵MOBに殴られて死亡したということらしい。どうにもしまらない。
ともあれ、これで当面経験値とアイテムを稼ぐ方法は整った。後しばらくは地道にレベル上げというところか。
何にしても今日はもう疲れたので落ちることにしよう。
明日は、プヨンスライムのかけらを使って何かできないか試してみようと思いながら。俺はログアウトボタンを押した。