第二十四話:イザベラの悩みと意外な特技
ギルドホールの件から一週間、俺たちは魔大樹の根元に拠点を移していた。中の部屋を物置代わりに使うので近くの方が便利という理由だ。と言ってもリポップ場所は相変わらず前の場所なので俺はそこから魔大樹までの道を整備する作業に明け暮れていた。
木を切って根を掘り起こし石を敷く。自分からやると言い出したこととはいえ、この繰り返しの日々は結構心に来るものがある。一週間でようやっと三分の二を工事し終えて、ちょっと休んでもいいかなと思えてきたある日のこと。
「・・・・・・でね。・・・・・・なのですよ」
「なるほどー。だよねー」
「でも・・・・・・じゃない?」
その日、ログインすると、ポンコツミイラ含む女子組が何やら集まって話していた。姦しいと言う奴か? 近寄らない方が無難かとも思ったが挨拶もしないのも失礼だろうと思いなおし声をかけることにする。
「よう、そんな集まって何の相談だ?」
「あ、ゼット。オハヨー。今日は早いね」
「マスターご機嫌ようです」
「おはようゼット。ちょっと相談を受けていたのよ」
「そうか、何の相談か聞いてもいいものか?」
「大丈夫ですよ。実は私の包帯がほしいなって話していたところなのです」
「包帯? あぁ、ミイラだしな」
「です。ちょっと女子としてこの荒れたお肌をさらし続けるのはどうかなって思って、お二人に相談していたのですよ」
そうか、カッサカサだもんな。ミイラだし・・・・・・。
「それでどうしよっかって話してたわけ」
「そっか、まぁ、布はこれから必要になってくるだろうしな。糸さえ用意してくれれば機織り機は作るんだが」
「え? 作れるの?」
「そりゃ機械の機は機織りの機と書くくらいだからな。産業革命の立役者でもあるし機械と言えば機織り機ってなもんで、簡単な設計図は機工士攻略サイトに結構出回ってるんだよ。材料もほぼ木材で賄えるし魔樹が使える分ちょっと性能のいいものが出来上がる可能性もあるぜ」
「んじゃ問題は一つ解決じゃん? 後は糸だけど定番のスパイダーシルクでも狙ってみる?」
「絹糸の包帯ってなんか違うだろ? エジプトのミイラなら麻布だったはずだけど・・・・・・」
「やっぱり肌に直接触れるものなんだから肌触りと通気性のいいものがいいです」
「意外に注文の多い奴だな、おい。となると綿か? この森の中で手に入るのかそんなもん」
「綿でいいなら何とかなるかもしれないよ?」
「本当ですか!? マニコさんっ」
イザベラが食い気味にマニコに詰め寄る。マニコは動じもせずにそのままの姿勢で答えた。
「うん、ただちょっと時間がかかるよ一週間くらい待ってくれたら綿花は用意してみせるよ」
「綿花だけっていうなら糸車も必要か俺も道の敷設が終わるのが3日後位だと思うからそこからもろもろ作って一週間後と言ったところかな?」
「ありがとうございます。こんなに良くしてくれるなんてわたし皆様にお仕え出来て本当に良かったです」
「大げさねあたしたちにとっても布系アイテムは必要だと思ったからで、別に百パーセントあんたのためってわけでもないんだからね? じゃ、あたしはに布を染めるのに使う染料の研究でもするわ」
「おいおい、レキまでそんなツンデレかましてこっちに来ることは無いんだぞ? 自由にレベル上げでもしていれば・・・・・・」
「これ系はあたしも趣味の範囲だからいいのよ。ボッチでやってたら何のためにネトゲやってるのかわかんないじゃない? それとツンデレ言うな」
「テンプレ発言をしたのだから仕方がない。んじゃ、当面の目標はそんなところで俺は土木作業に戻ります」
そう言って俺は三人と別れて道の整備に戻っていくのであった。
◇◆◇◆◇
三日後。予定通り道の敷設を終えた俺は機織り機作成に取り掛かった。
さて一口に織り機と言っても様々な種類があるが、今回俺が設計図をダウンロードしてきたのは古風な足踏み式の織り機だ。
なぜこれにしたかと言うと構造が比較的簡単で木材だけでも作れて、そして何より日本人にとって機織りしているという実感が一番おこりやすいからだ。
所謂、絵本などで織姫が使っているものと言ったらわかりやすいだろうか?
しかし、簡単と言ってもそのパーツは多数に及びまた細かいため何度も失敗を繰り返しながらの製作になった。
特に縦糸を通して上下させるための綜絖と呼ばれる部分の作成には時間がかかった。
結局機織り機の作成に4日のゲーム時間すべてをかけてしまい糸車の作成は間に合わなかった。
そして出来上がった機織り機はなかなか満足のいく仕上がりだったのでそこは許してもらえたらいいなぁ。
[魔樹の機織り機]
魔物の領域でしか育たない特殊な木を材料にして作られた機織り機。
布作成スピード338%UP。
布にエンチャントを行う場合、その効果を一段階、数値の場合は6%UPさせる。
製作スピードUP? えらい数値が出てるけどどういうことだ?
それに、エンチャント? まだ知らないシステムがあるのか・・・・・・魔法関係みたいだし後でエヴァさんにでも訊くかな?
◇◆◇
マニコが約束した当日。俺たち「すろーらいふ・モンスターズ」の面々は彼女の領域の一角へ呼び出されていた。
「ジャジャーンこれがマニコ特性コットントレントの綿畑だよ」
そこには柵で仕切られた中にうじゃうじゃとひしめき合う木が何やらうごめいていた。
「トレントってことはこれモンスターなのか?」
「そだよー。人面樹トレントに寄生して綿花を咲かせるようにしたのさ。おまけにモンスターだから勝手に採集して一つのところへまとめてくれる便利っぷリ。どうよっ!」
マニコのマタンゴ顔がドヤァと自慢げにほころぶ。
確かに畑の一角にはすでに大量の綿花が積み上げられていた。
「いや、すごいね。これならしばらく布素材には困らなそうだ」
「だーさんの滞っている裁縫師のレベリングもはかどりそうですよね~」
「あ~盛り上がってるときにすまないんだけど・・・・・・」
俺が、糸車の件を懺悔しようとしたその時。
「それじゃあこれ糸にしていきますね」
そう言ってイザベラが大量の綿花を自分のストレージに入れたかと思うと、数分で全て糸にしてしまった。
「あれ? 糸にするには糸車が必要なんじゃ・・・・・・?」
「糸車? あぁ、あれば便利ですけど裁縫師のレベルが上がれば誤差みたいなものですよ?」
「えっ? 裁縫師持ってるのイザベラさん?」
「言ったじゃないですか家事に関することなら任せてくださいって。掃除洗濯裁縫料理そのほか色々雑用のレベルならちょっとしたもんですよわたし」
うあーごめん、いままでポンコツミイラとか言っててホントごめんなさい。イザベラさん(・・)ですわホンマ。
「じゃあ、布を作ったりするのも?」
「はい、裁縫師の製作スロットに入れておけば出来ますけど」
あぁっそうかぁ! 製作スピードUPっていうのは裁縫師の素の状態から製作時間短縮が出来ますってことで別に頑張って作る必要はなかったのかぁ。
「ま、頑張ったからこれも使ってくれないかな?」
「わぁ、これわざわざ作ったのかい? ゼット君」
「さすがマスターです。こんな立派な機織り機見たこと無いですよ」
俺が魔樹の機織り機をストレージから出すと裁縫師組のテンションが駄々上がりだった。
いや、設計図はダウンロードしてきた手抜きだからそんな褒めないでくれ、恥ずかしくなってしまう。
「じゃあ、さっそく使わせていただきますね?」
「あ、僕もレベリングをしたいから手伝うよ」
そう言うとさっそく布を織り始める裁縫組。
「うんうん、こうやって喜んでもらえると作った甲斐があるよねぇ。ゼット?」
「あぁ、そうだな。そう言えばマニコ、こういうモンスターの牧場って他のでも可能だったりするか?」
「物によるね、あまり凶暴すぎるのは難しいよ? 逆におとなしいモンスターだったら結構格上でも何とかなっちゃうこともあるね」
「じゃあさ、土地は俺が切り開くからさ。チャレンジしてほしい事があるんだよ」
「なになに? なんだか悪だくみの気配だねぇ」
こうして、俺たちのゲームライフは静かに更けていく。
というわけで、イザベラちゃんはポンコツじゃないよアピールでした。ぶっちゃけ今いる女子の中で一番女子力が高いのは彼女です。僅差の次点がでるーさん。
ではここまでお読みいただきましてありがとうございました。




