第二十一話:なぞときときなぞ
次の日、俺たちは予定通りボス部屋にいた。
乱雑に散らばった蔦と雑草そしてその中央にいくつものミイラ化した躯が折り重なった奇妙なオブジェが鎮座している。その一番てっぺんに位置する躯の右目の位置には小さな石が埋まっており、幾重にも絡まった茨の隙間から時折明滅するように弱々しい光を放っていた。
「やっぱり、そういうことだったのですねエヴァネィラさん。のぞいているのでしょう? 出てきてはもらえませんか?」
キィと音を立て入口の扉が開き、エヴァネィラさんが出てくる。顔はいつも以上に表情が無く何を考えているかは分からない。
「気が付いておられ・・・・・・いえ、もう取り繕う必要もないですね。感づかれているような気はしていましたよ」
カマかけは成功したようだ。さて、こっからが勝負だな。
◇◆◇◆◇
時間は戻って今日の午前。
各自成長報告を終えた俺たちは作戦会議に入っていた。
そこで俺は昨日まとめた疑問点をみんなに相談したのだ。
「そこまで気にする必要はないと思いますけどね。要はボスを切っちゃえば済む話でしょう?」
「だーさんの言うとおりだと思いますよ~。罠があるなら踏みつぶすまでです~」
安定のウォーモンガー夫婦である。
「あたしも今回は強硬策に賛成かな? ぶっちゃけもう謎解きしている時間は無いと思うのよね」
「そうか・・・・・・マニコはどう思う?」
「んと、その前に一つ確認したいんだけどさ。ゼットはエヴァさんの正体とかたくらみについて、どんな可能性があると思ってるわけ?」
そうきたか。
俺はちょっと考えてから答える。
「考える材料はそう多くないからな。あてずっぽうになるけどNPCのふりをしたMPKとは考えられないかな? そうすると結構つじつまが合うと思うんだけど」
「MPKにしては手法が回りくどすぎじゃない? ああいうことやるやつって結構短絡的な思考をしてると思うんだけど」
レキが尻尾を揺らしながら反論した。
「こう、罠にはまるのを待ち構えるのが好きな変態プレイヤーかもしれないじゃないか。後はそうだな今までの登場人物のうち、他の誰かとかか?」
「魔術師か女騎士どちらかってことかい?」
「はい。まぁそうするとなんで執事に化けてたかは、ちょっと説明がつかないんだけど・・・・・・」
案外単なる趣味なんじゃないかとも思えてくるのは、さすがに思考放棄だろうか?
「そーいえばね、暴走した魔道具なんだけどさ」
首をひねる俺をしり目にいきなりマニコが話題を変えた。
「また唐突だなマニコ」
「うん、エヴァさんの説明の通りならさ、私がほしいアイテムの可能性があるんだけどそこらへんどうなのかなって思って。そこ、嘘をついてると思う?」
「疑い出したらきりがないからなぁ。俺は全部ウソをついていると思って考えてるけど・・・・・・。ちなみにお前がほしい魔道具って?」
「魔樹の宝玉っていうんだけどね? 私みたいな魔物の影響を受けている植物の生長を促進させる効果があるんだ」
「・・・・・・魔樹の宝玉ねぇ」
ん? 魔樹?
そういえばマニコの領域で切った木で作ったハンマーが魔樹のハンマーだったよな?
よく考えてみるとあの植物が暴走する空間の中で持ち込んだあの木材だけは何の変化もなかった。マニコの推測が正しいとすると本来とは逆方向に暴走しているということなのか?
「マニコの推測が正しいとして、だからどうしたって話よね? ボスドロップ品として期待できるかもってくらいで」
「いや、結構重要な情報かもしれないぞ。マニコ、こういうことはできるか?」
俺はマニコにあることを提案した。
「条件付きで可能だと思うけど・・・・・・賭けだよ?」
「はい、この中でこういう賭けが嫌いな人ー?」
誰も手を上げない。まったく偶然集まったにしてはホントに趣味のあう仲間たちだ。ちょっと運命ってモノを信じてみたくなるな。
◇◆◇◆◇
といったところで回想終了。
そんな作戦会議の後ちょっとだけ準備をして俺たちはボス部屋に飛び込んだ。そんなシーンが冒頭であるというわけだ。
「お察しの通り、私がその魔道具を暴走させたまぬけな魔術師です」
「あ、そうだったんだ」とは言わない。あくまですべてお見通したという風な感じを装うことが肝心だ。
俺たちは謎を解いていない。あくまであたりをつけてカマをかけただけなのだ。真相究明の一番の近道は犯人に語ってもらうことだと、探偵小説のまぬけな刑事は口をそろえて言うじゃないか。
ハイそこ、「それってダメじゃね?」とか言わない。
「あなたの目的はやはりあれ・・・・・・ですか?」
俺はボスの方を指さし問う。
「えぇ、そうです彼女を生かし続けることが私の望みでした」
「彼女・・・・・・?」
だーさんが思わずといった風につぶやいた。
「彼女、私の愛した女騎士。その茨に取り込まれて一体化してしまったあわれなイザベラのことですよ」
一瞬ばれるんじゃ似合いかとヒヤッとしたが、エヴァさんは順調に自分が足りを続けてくれる。案外ノりやすい人なのかも知れないな。
なるほど、女騎士の名前はイザベラというのか。ということはやはりカードに書かれていた名前は・・・・・・。
「周りの躯たちは今まであなたが彼女に捧げたプレゼントというわけですか?」
「蟲達が役に立ってくれましたよ。程よく冒険者の方々を消耗させてくれて・・・・・・ここ150年ほどは無かったんですけどね」
街が滅びてしまって人が来なくなったというわけか。
「そうして衰えていく彼女への次の捧げものがあたしたちってわけ?」
「そう思っていたのですが・・・・・・予想外にあなた方が手ごわくて・・・・・・まさか女王まで倒してしまうなんて思わなかったですよ。これでも人を見る目は持っているつもりだったんですが・・・・・・」
それでも消耗していないわけじゃなかったんだが・・・・・・、あの直後に仕掛けられていたらちょっとどころでなく危なかったよな。
「私たちはモンスターですからね~。見誤っても仕方がないです~」
るーさんはいつも通り間延びした口調でうんうんと頷いている。それにエヴァネィラは「そうかもしれませんね」と小さく答えた。
「で、どうします? 俺たちと戦って彼女へ捧げますか?」
「いえ、私にはもう生前の様な魔力は残っていませんし、彼女ももう限界です。そもそも彼女を生かしておきたいというのは私のエゴだったのですよ。そもそもからして歪んだ愛なのです。このまま静かに終わることも一つの正解なのではないでしょうか?」
今にも消え入りそうな弱い声色。200年もの間守り続けた秘密が明らかにされたのだ。そりゃ無気力にもなるだろ。だけどな?
「そんな正解くそくらえだろ?」
そうだ。そんな結末は面白くない。俺たちはゲームをやってんだ。時にはしんみりするのもいいだろうけど。最後はやっぱりハッピーエンドだろ? 鬱ゲーなんて勘弁だ!
「え?」
「間違っちまえよ。仮想空間はそういう世界でモンスター(俺たち)はそういう存在だ。正解になんてよっかかる必要はねぇ。俺たちもエゴを貫き通すぜ。なぁマニコォっ!」
「おうよ! こっちはいつでも準備オッケイだよ!」
俺はディスクシューターを構えてボス見向けて放つ。ディスクは新品、魔樹で作ったディスクにマニコの菌糸をたっぷり埋め込んであるものだ。
其れを止めようと弱弱しく茨の蔦が動くが、すべからくだーさんに切り落とされ、るーさんに叩きの落とされる。
邪魔をされるもののないディスクはまっすぐに飛んでいき魔樹の宝玉へとぶつかった。
すぐさま表面から無数のキノコが生え出し宝玉を掴む。
「これは、私がもらいうけるからねっ! 支配権をよこせーっ!」
宝玉がひときわ強く輝いたかと思うとエヴァネィラの遺体の下、茨の塊の中から一体のミイラが転がり出てきた。
「うぅ・・・・・・っ」
驚いたことにそのミイラは意識がある様でうめき声をあげ立ち上がろうとしている。
「まさか・・・・・・イザベラっ!」
「え・・・・・・ヴァ・・・さん?」
ミイラに駆け寄るエヴァネィラ。彼女を抱きあげると小さな声ではあるが確かにエヴァと名前を呼んだ。
「イザベラ・・・・・・すまない・・・・・・」
「本・・・・・・当・・・です・・・・・・よ・・・・・・もう」
久々の互いの感触を確かめあうかのように二人は抱擁を重ねる。200年の時を埋めようとするかのような抱擁はいつまでもつd・・・・・・。
「あー感動の再会の最中悪いんだけどさ・・・・・・?」
「何だマニコ。無粋だぞ?」
「あぁうん、解ってる。本当に申し訳ないんだけどさ、・・・・・・宝玉の制御に失敗しました」
「うん、そうか・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!?」
「いや、なんかさ、今までプラスに無理やり力がかかってたのが一気にマイナスに行ったからさらに暴走しかかってて、それを止めようと魔樹の種を使ったんだよ。取り合えずエネルギーを外に出さなきゃと思ってさ。そしたら、なんか周りの何かと共鳴しているっぽくて・・・・・・」
まさか、補強のために打ち込んだ魔樹の木材か?
「で、どうなるんだ?」
「色々巻き込んで急成長しようとしてるから。逃・げ・て❤」
「て・・・撤退――――っ!」
屋敷のいたるところから生えて出てくる木の枝を交わしながら俺たちはギルドホールからほうほうの体で逃げだすことになった。
まさかの崩壊エンド。
あっれ~おかしいな~? プロットではここを拠点にするはずだったんだけどなんか勢いでぶっ壊しちゃいました。
BBA幽霊とミイラ女子の恋愛劇何だかけどこれタグにGLって入れるべきかな? 主人公じゃないからいいよねw
あ、前回チェーンソーで草を狩る描写があったけどあれはゲームだから出来ることです。本物のチェーンソーで草を刈ろうとすると重大な事故につながる可能性があるので絶対にまねしないでね。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。




