第十八話:女王(クイーン)戦
「さって、じゃあ改めて中ボス戦、楽しみますかっ!」
パーツの修理が終わって俺は自分に喝を入れる。何せ一発勝負のぶっつけ本番でやらなければならないのだ。多少緊張しても仕方ないだろう?
「そうだね。とりあえず楽しまないことには始まらない。全力で楽しもう」
「たまにはいいこと言うじゃない。ここまではぬるすぎたしね、こっからが本番ってことで楽しめることを期待するわ」
「いいですね~。自分からフラグを立てていくスタイルって~、嫌いじゃないですよ~」
「え? あたしなんか変なこと言った?」
「あー、レキは気にしなくてもいいよ。出来るならそのまま染まらないでいてね?」
よっし、仲間たちのテンションも高い。いい感じだ。
今までいた広間から少し狭い通路を抜けるとボス部屋。これは、マニコが菌糸偵察で確かめたから間違いはない。ただ、どんなボスでどんなギミックが仕掛けてあるのかまでは解らなかった。
やがて、通路も終わり開けた場所に出るとそこは・・・・・・一面の卵だった・・・・・・。
「うわぁ・・・・・・、ねぇこれって孵ると思う?」
「間違いなく孵るだろう・・・・・・なかなかうざい戦いになりそうだな」
その卵に埋もれるように鎮座する女王。その甲高い咆哮が戦いの合図だった。
周りの卵が次々と孵り目の前に子蟲があふれる。孵ったばかりの子蟲は子犬ほどの大きさでそれほど脅威ではないが無視するにはちょっと危険すぎる。何より数が多い。
「とりあえずだーさんはボスに集中してください! 雑魚は引受・・・・・・っ!?」
「キュアアアアァァァァァァァァッ!」
指示を飛ばそうとした俺と女王と目が合った瞬間、女王は咆哮と共に卵や生まれたばかりの子蟲を踏みつぶしながら俺へと突進してきた。
エヴァさんの言葉が頭をよぎる。
『蟲避けの秘薬でごさいます。これを塗った場所のから1メートルは蟲が近寄らなくなるでしょう。女王には効きませんがそれなりに役に立つはずです』
『女王には効きませんがそれなりに役に立つはずです』
『女王には効きませんが・・・・・・』
「効かないからってこれはありなのか!? 女王蟲系のボスってもっと泰然としてるもんじゃね!? 食欲に負けて自分から突撃ってどうなのよ!?」
いや、動揺してつっこんでいる場合じゃない。女王のヘイトは自分が一番高いんだから何とか時間を稼がないとっ!
「作戦変更っ! だーさんるーさん雑魚は任せます。殲滅できたらボス攻撃に加わってください! 雑魚が無限湧きの場合はその時考えましょう! マニコとレキは・・・・・・自分で考えてっ!」
「わっかりました~」
「了解っ! 女王が自分で数を減らしてくれてるからそう時間はかからないと思うよ!」
「とりあえず雑魚戦に加わるわよ。ボスに有効な攻撃手段があるとも思えないし」
「とりあえずスローブレスは撃っといて損はないんじゃないかな?」
「え!? ボスにデバフって効くの?」
「わかんないから試そうって事だよ」
「了解っ! スローブレスっ!」
思考が追い付かず、適当になってしまった指示にうまく対応してくれる仲間たち。優秀な仲間でホント助かる。
レキのスローブレスを受けて女王の動きが若干ではあるが鈍った。これならギリ受け止められるか・・・・・・!
俺はディスクシューターとディスクグラインダーを外しあいた腕を前に構える。
「そんなに喰いたいんなら喰らわしてやらぁっ!」
その腕で女王の口に突っ込み受け止める。数メートル押しこまれるが止まってくれた。
受け止めた腕の腕の耐久値は一気に削られて三分の一二まで減ってしまう。
しかしここからは・・・・・・っ!
「耐えないっ!」
俺はその腕をパージして胸の下から横に滑り込んだ。案の定女王はパージされた腕を喰うのに夢中でこちらには見向きもしない。
目論見通りっ! 俺の狙いは女王の大きな腹の横。昆虫の弱点。そう、気門っ!
「体の中から焼け爛れろぉ!」
俺は、スチームシールドランスのノズルをその穴に付きこみ、最大出力で蒸気を噴射した。
「ギィィィィィィアアァァァァァァァァッ!」
さすがに喰ってる余裕は無くなったのか腕から口を放してのたうちまわる女王。見ると『火傷』と『呼吸困難』のバステアイコンが立っている。火傷はともかく呼吸困難なんてバステもあるのかよ。
火傷はスリップダメージで呼吸困難は行動阻害だろうか? さらに動きがのろくなっている気がする。
とにかく、今のうちにダメージ稼がせてもらうぜ。
俺は一撃離脱を繰り返しながらチェーンソーで切りつける。狙うはやっぱり柔らかそうな腹の部分。
いよしっ! パターン入った!
もとより突進の顎攻撃だけの単純な攻撃しか持ってないボスだ。動きがのろくなれば怖いものはない。子蟲が厄介だったのだろうが自分で踏みつぶしたおかげで、その数は激減している。こいつが突っ込んできてくれたのは逆に僥倖だったというわけだ。
そして、かわして、回り込み、攻撃を繰り返してると、クリティカルのエフェクト。だーさんがいつの間にか攻撃に加わっていた。
「助太刀するよゼット君っ!」
「だーさん。子蟲の方は大丈夫なのか!?」
「スローブレスで孵化の方もコントロールできるってわかったから、るーさんだけで十分対処できるよ。だからこっちに火力を集中して早く終わらせちゃおう」
「そういうことならっ!」
そこからはワンサイドゲームだった。俺に当たらない攻撃がだーさんに当たるわけもなく。女王はなすすべもなくHPを削られていく。
「これで終わりだっ! シィィィィィヤォォォォォ!」
最後の一撃でだーさんが女王の首をはねて戦闘は終了した。女王を倒すと卵の孵化も終わったようである。
「終わりましたね~。あドロップアイテムは何ですか~」
「女王蟲の甲殻、複眼レンズ、分泌蜜だね。子蟲ドロップは何もないからドロップ的にはちょっとまずいかな?」
「そうだな。とりあえず分配は後にして、この残りの卵をどうするか決めないか?」
部屋一面の卵はまだだいぶ残っている。ただのギミックとしたらこのまま消えてくれる可能性もあるが、このゲームのことだ油断できない。
「燃やしちゃうかい? ちょっと手間だけどできなくはないよ」
「それがいいかもですね」
パキャ・・・・・・
唐突に音がした方を振り返ると卵が一つ孵っていた。
中から出てきたのはほかの個体より腹の大きな子蟲。女王候補なのかもしれない。
他の卵も孵るのかと身構えたがそれで終わりのようだった。
殺すか・・・・・・と考えていると、それを見てマニコが突然こんなことを言い出した。
「ねぇ、その子飼っちゃダメかな・・・・・・?」
「はぁ? 飼うってこの蟲をか? 蟻だぞ?」
「いや、シロアリはどちらかというとゴキブリの仲間だよ?」
「余計、嫌だろ? っていうかできるのか?」
「多分できるよ、蟲と共生しているキノコはそれなりにいるしね」
「寄生じゃなくて共生か・・・・・・ハキリアリみたいなもんか」
ハキリアリ、中南米に生息する農業を行う珍しい蟻である。彼らは植物の葉切り取り集めて、それを培地にキノコを栽培して餌とする習性がある。
「この場合はシロアリタケかな? アフリカに蟻塚の中で暮らすキノコがいるんだ。うちの森でもそろそろボスクラスのモンスターがほしいところだったしさ・・・・・・駄目かな?」
「駄目ってこたないけど・・・・・・あぁ、巣はここから移せよ? エヴァさんの機嫌はできるだけ損ねたくない」
「りょーかいっ!」
こうして、俺たちは色々やることがあるというマニコを残して、プラントイーターの巣を後にするのであった。
遅くなりました。
倒したボスの子供を育てることになるというベタな展開w
この話は基本王道を行くつもりですので意外な展開には期待しないでください(笑)
それにしても戦闘描写は核のしんどいですね。まともに書ける人はマジ尊敬します。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。




