第一話:パーツを作ってみよう
『システムメッセージ:スキル「木工」を1Lvで獲得しました』
「やっとおわったーっ!」
あれから俺は自分にできることの確認を行った。
まず戦闘、これはまったくお話にならなかった。このあたりで一番レベルの低いモンスターはプヨンスライムというその名の通りプヨプヨしたスライムなのだが、こいつは打撃耐性を持っていて(といっても普通のステータスなら問題ないレベル)現状攻撃方法が体当たりのみという自分にとっては相性が最悪だ。
一応挑んでみたがその文字通りプヨンとはじかれてノーダメージ、ヘイトすら発生しなかったのかそのまま無視されてしまった。
というわけで、まず課題は自身の強化ということでスキル「機工士」を調べてみた。
攻略サイトで見る限り基本的には設計図を手に入れて、そこに書いてあるパーツを集めると機工士装備が作れるスキルで、機工士装備は機工士にしか扱えないという制限があるらしい。また、自分で設計図を作ることも可能だが、これはよっぽどうまく作らなければ弱いどころか使えないごみを作りだすだけになってしまう。
幸い、大学でかじったCAD知識だけでも設計図を作ることはできた。
まず手がなければどうにもならないということで、今のTECでも問題なく作れそうな者として、いわゆるCの形をした昔ながらのロボットアームをチョイスする。腕の関節は一応人間と同じ肩と肘と手首のみにしておいた。
そういえば、動力どうすんのだろうと思ったら魔力でOKだった。というか機工士スキルの本質はこの魔力を通す魔力回路を付与することらしい。そして、関節の稼働が問題なければ、魔力回路さえ通せば動く仕様になっている。おかげでモーターとかの動力を乗せなくてもいい分設計がだいぶ自由にできるようだ。
ただジェネレーター出力、特にパーツをつけていない今の状態ならMEN数値の限界を考えないで可動部分や重量、出力を上げすぎると自分の魔力不足で作動しなかったり、気絶判定を食らったりするらしいので、そこは注意か。
パーツの素材には木を選んだ。
というか周りに木か土か石しかない今の状況だと木が一番ましかなという安易な考えである。
そして、材料の小枝を集めてきて、いざ機工士スキル発動!
『システムメッセージ:スキル「木工」レベルが1足りていませんスキル発動をキャンセルします』
「おぅふっ!」
いや、真面目にこんな声が出たのは初めてだったね。
改めて調べてみると機工士はあくまでパーツの組み合わせを行うスキルで、原材料からパーツを作るには各材料に対応した加工スキルがいるらしい。
じゃあ、木工スキルってどうやって取るんだよっ! って見てみたら、
「木工スキルの取得方法:各町にある木工工房の受付で木工体験教室を受講すると取得できます」
はい、詰んだーっ! これ、詰んだよー!
町には入れないのにどないせいっちゅうねん?
ソロモンスタープレイヤーなめとんのか?
そら、似非関西弁も出てくるわ。
……いや、あきらめるな。あきらめたらそこで試合終了ですよ。
このゲームのキャッチフレーズは「史上最強の自由度! 遊びつくせるものなら遊びつくしてみろっ!」だ。正規ルート以外でもスキルをとる道は残されているかもしれない!
さらに調べてみると、一つのプレイ日記サイトにたどり着いた。
この人はゲーム自体の初心者で、趣味の彫刻作成が材料費も置き場所も気にせずにできるかもという理由でゲームを始めたらしい。ちなみに人間プレイヤーで、種族はエルフ。
そしてさっそく手頃な木片を拾ってきてしばらく削っていると木工スキルが生えてきたのだそうだ。
つまり、適当な木片を一定時間(その人は集中していて時間はよく覚えていないのだそうだ)削り続ければ、スキルは生えるかもしれないということだ。
一応、木工体験教室の受講内容も確かめてみたが、だいたい同じような内容だったのでこの推論があっている可能性は高い。
というわけで体のとがったところを擦りつける様にして木を削ること約3時間。スキル獲得メッセージを受けた冒頭に戻るというわけである。
長かった、っていうか長かった。
さしたる目標もなく延々と木を削り続ける作業は、思った以上に精神も削って行ってくれた。途中何度、これで止めようかと思ったほどだ。
結局、あと30分、あと30分といって耐えてたら3時間たってた。さすがに次の30分は精神が壊れて壊れていたかもしれない。というのは大げさか。
ともあれ、これで念願の初パーツゲットだぜ。機工士スキル発動っ!
『システムメッセージ:機工士スキル発動成功。アイテム「小枝のマニピュレーター」完成まで03:45:00』
目の前にウィンドウが現れその中でカウントダウンが始まった。ちなみに作成失敗の場合は失敗のメッセージだけでカウントダウンは発生せずに材料だけ失われる。
つまり一発成功である。TEC低いし5,6回失敗する覚悟で集めてきた材料は次に回すとしよう。
しかし3時間か……TECが高かったりスキルレベルが高ければもっと時間が短縮されてり同時進行で別のものを作ったりできるんだけど、こればかりはどうにもなんないか。
「仕方がない今日はもう落ちて明日以降また頑張るか」
俺は独り言をつぶやくとポップアップポイント近くの大きく地面に盛り上がった根の下に移動すると(カウントダウン中はログアウトしてもMOBに襲われる可能性があるので、できるだけ安全な場所にいる必要があるのだ)ログアウトボタンを押した。