第十六話:マニコの途中報告、そして地下冒険へ
「んじゃねぇ、いい報告と悪い報告があるんだけどどっちからいっとく?」
「また、ベタな語り出しだな。じゃあ、いい報告からで」
俺は楽しみは後にとっておくタイプなのだ。
「いい報告はねぇ、昨日のうちにギルドホールの地下、ほぼ全ての制圧が完了しました! いぇいっ!」
「おぉっ! すごいじゃないか。っていうか早くないか?」
「ん~本当にエヴァさんが言うように抜け殻というか絞りカスというかほとんど抵抗がなかったんだよねぇ。ま、他にも理由はあるんだけど」
「ということは、その理由が悪い報告か?」
「そう、実はね、地下にプラントイーターっていう蟲系モンスターが巣食っててそれがどうも魔術師の力を殺いでいるっぽいんだよね」
「プラントイーター。名前のまんまだとすると・・・・・・お前の方は大丈夫なのか?」
「今のところは大丈夫かな? 食われる分と成長する分が拮抗している感じ。ただそれは魔術師の抵抗もあってって事だから・・・・・・」
「魔術師の方を先に倒してしまうとやばいってことか?」
「多分、建物の基礎があっという間に食い荒らされてホールの倒壊は避けられないと思う。ただプラントイーターを先に倒すとその分魔術師が強化される可能性が高いよ? 植物の浸食なら止めてみせるけどさ」
安全なクリアを目指して放置するか、それとも完全なクリアを目指して蟲も倒すかか・・・・・・。
「それにしても蟲の存在って地下を調べるマニコがいないと、気がつけなかったよな? ずいぶんと意地の悪い設計だよなこれ」
「一応、ギルドホールの地下室から巣穴につながっているからギルドホールをまんべんなく調べればいきつくんだけどね。それにエヴァさんは気が付いていると思うよ。どうして放置しているのかは知らないけど。で、どうするの? レキは今日は入るのが遅くなるからそっちの判断に任せるってリアルで聞いてきたけど」
「だーさんるーさんにも意見を聞かないといけないだろこれ、今繋いでるかな?」
だーさんにコールすると、すぐに出てくれた。
『もしもし、ゼット君ですか? どうしました?』
「あ、だーさん。今時間大丈夫?」
『適当に狩りをしてただけだから大丈夫だよ。るーさんも一緒だけど、合流した方がいい?』
「そうだな、ちょっと相談したい案件ができたから。合流してもらえると助かる。場合によってはそのまま狩りになるかも」
『穏やかじゃないね。すぐに戻るよ』
数分後、だーさんるーさんと合流して、俺は事情をかくかくしかじかと説明した。
「なるほど、そういうことなら僕らは戦う方を選びますよ。ね、るーさん」
「そうですね~。そもそも、完全クリアするために5日の修行タイムを設けたんですし~。ここを避けて通る選択肢は無いですね~」
まぁ、この二人ならそう答えると思っていた。とは言っても意思確認は必要だよね? 自分の知らないところで勝手に決められて物事が進むのって気分悪いしさ。
「ということで、今日の予定は害虫駆除ってことでいいかなマニコ?」
「あたしは構わないよ。レキにも伝えておくね。現地集合ってことで」
マニコが手元のヴァーチャルパネルを操作する。おそらくレキにメールでも送ってるんだろう
「間に合わなくないか?」
「入口あたりに、子蟲が湧いてるからそれを倒してる間には来ると思うよ。あ、今返信来た。できるだけ急いで帰るから先にはじめておいてってさ」
それくらいの時間なら待った方がいいような気もするが・・・・・・ま、本人がそういうなら甘えさせてもらおうか。
◆◇◆◇◆
「これは皆様お揃いで、どうなされましたか? 約束の日までにはまだ時間があるかと存じますが」
ギルドホールに付くとエヴァネィラさんが、笑顔で迎えてくれた。集まってくるのがモンスターであろうと、ギルドホールが賑やかになることが嬉しいのかもしれない。
「いえ、ホールの地下に蟲が巣食っているみたいなので先に駆除してしまおうと思いまして」
「あぁ、あの蟲どもですか・・・・・・しかし、あれを駆除すると植物の成長を阻害するものが無くなってしまってホールへの浸食が早まってしまうでしょう。それでわたくしも手を出せずにいたのですが・・・・・・」
「大丈夫! このホールを覆っている植物の根はほぼ私が掌握したから。そう簡単に主導権は渡さないよ」
「そうでございますか。それでしたら安心して駆除をおこなってもよろしいかと存じます。あぁ、念の為これをお持ちください」
と言ってエヴァさんは少し大きめの薬瓶を渡してきた。
「蟲避けの秘薬でごさいます。これを塗った場所のから1メートルは奴らが近寄らなくなるでしょう。女王には効きませんがそれなりに役に立つはずです」
なるほど、魔術師のことがなければこれを撒いて追い払うつもりだったのか。それにしても奴らって、蟲に関してだけ口が悪くなるなこの人。
「ありがたく頂きます。駆除には女王を倒せばいいんですか?」
「そうですね、女王がいなくなれば後は散り散りになるでしょう。蟲避けさえきちんとまいておけばホールについては心配ないかと存じます。それでは地下に案内させていただきます」
そう言ってエヴァさんに案内されるままに二階へあがる階段の下にあった地下へと降りる階段を下りていく。地下にもいくつか部屋がありその中の一つへと案内された。どうやら物置の様で大小いくつもの箱が積み重なっているが、どれも植物のつるが絡まっており、おそらく中身は無事ではないだろう。その奥、壁に大きな穴が開いていた。
「おそらく、ここから奴らの巣穴へ入ることができると思われます。お気をつけて」
そう言うとエヴァさんは足早に部屋から出て行った。蟲に対する口の悪さといい、もしかすると実は蟲が苦手だったりするのかもしれない。
「そのようなことはございません。わたくしはただ皆様のお邪魔にならぬようにと退場したまででございます」
あわてたようにドアの向こうから顔をのぞかせて早口でまくし立てるエヴァさん。
わざわざ、読心術まで使って言い訳しにくるところをみると図星なのかな?
さて、からかうのはこのくらいにして、そろそろ行きますか!
取り逃がした子蟲が屋敷内に入っていかないように入口である大穴の周りに蟲避けをまんべんなく塗り、俺たちは巣穴へと突入した。
「結構暗いね、明かりをつけるよ。トーチ」
だーさんが火魔法で明かりをつけるとさっそく3匹の蟲と目があった。
っつーかでけぇ。おそらく子蟲なんだろうけど、中型犬くらいある白アリっぽい何かである。正直気持ち悪い。
「じゃあ行きますよ~。『咆哮』~!」
るーさんがヴォエ~と汽笛のような低い声を響かせる。おそらく俺が持っている『大声』の強化版なんだろう。
それに引き寄せられて子蟲たちは一斉にるーさんに向かって・・・・・・いかない!?
なぜが子蟲たちは全員俺の方へ向ってくる。なんでだ?
あ、そういえば俺、全身ほぼ木製だった。
つまり、子蟲たちにとって『俺=ごちそう』。
もしかして俺捕食ピンチ!?
明けましておめでとうございます
一年の計は元旦にありということで今年もがんばって行進するぞという意気を込めて更新。
多少中途半端ですが続きもできるだけすぐに更新しますのでのんびりお待ちください。




