第十五話:忘れられた素材(恥)
さて、まず忘れていた火鼠の毛皮から加工していくか。
皮はあらかじめだーさんに四角く裁断されていたので丁度良い大きさになっている。その際判明したことだが、この火鼠の皮はともかく毛は高い防刃性も兼ね備えているそうだ。そこから導き出される可能性。
そう、ファイバープレートを作れるんじゃないかと俺は思っていたのだ。今日ストレージでこれをみるまで、すっかり忘れていたが。(笑)
まず、プヨンスライムと樹液を小瓶三分の一分混ぜた粘液を毛にまんべんなくなじませた後、腕と同じ形に成型した木型に巻きつけてから形を整え、残りの樹液を加えて固まるのを待つ。
固まった皮を木型から外して叩いてみるとカンカンといい音がした。後はこれを火に突っ込んで焼き固める。耐久度でどっちが上か確かめるために焼いてないのも用意しておかないとな。
焼きあがるまでに、装備の改造も済ませてしまおう。
改造するのは今回の狩りで大活躍だったスチームシールドランスである、
大活躍だったのはいいが戦闘で使うとなると木製のノズルが少々扱いにくかったのだ。
というわけでノズルを外してアタッチメントを変えようと思ったのだが、ノズル装着用に開けた穴が思ったよりも大きくこのままだと相手に向けても威力が期待できないうえに盾としても微妙という結果になりそうだ。
どうするか数秒悩んで、魔石の付いている取っ手だけのこしてまったく新しい装備に作り替えることにする。石亀の甲羅の小さめの背の部分に穴を四つあけて魔導回路で動く弁を取り付ける、そして取っ手を付けた大きめの腹の部分を合わせて密閉したら完成だ。
つまり、密閉空間で加圧した蒸気を弁の開放で一気に噴き出す仕組みである。名付けてスチームバッシュシールド。圧力計がないのでどのくらい加圧できるかはちょっと実験しなきゃいけないけど。さすがに今日はそんな時間はないか。
元のランス形態に戻そうとしてふと思いついて、ストレージから直接装備欄へランスパーツを移動させてみる。とSF的な光のエフェクトと共に一瞬でスチームバッシュシールドはスチームシールドランスへと切り替わった。
「おぉ、すっげぇーヒーロー物の武器転送っぽいな。かっけぇ」
興奮して何度も切り替えて遊んでいる間に火鼠の皮で作った籠手も焼きあがったので取り出しておく。
「っ! ・・・・・・っとゼット君か。姿がすっかり変わってたから、一瞬分からなくて思わず切っちゃうところだったよ」
「あはは~。だーさんは相変わらずせっかちですね~」
丁度そこにだーさんるーさん夫妻が帰ってきた。
「丁度良かった。だーさんちょっとこれ切ってみてくれます?」
俺は焼いている方と焼いていない方の両方をだーさんに手渡す。現在鋭い刃物を持っているのがだーさんしかいないので防刃実験は彼の手を借りなければできないのだ。
「え? いいの? じゃあ遠慮なく逝っちゃうよ。シュォォォォォォォ!」
威勢と共にだーさんは籠手を放り投げ双剣を一閃させる
ギンっと鈍い音がしてから、籠手は二つとも地面に落ちた。どうやら二つとも切れてはないようだ。
「チッ! 無駄に硬い・・・・・・」
だーさーん、なんかキャラ変わってますよー。いつもの穏やかヘタレおやじ口調はどうしたんですかー?
もしかしてそっちが素? とか思いながら俺は落ちた二つの籠手を確認する。脚気固めた方は傷一つついてないが生のままの方はわずかに傷が付いていた。やっぱり焼き固めた方が強度が増すのか。
「じゃあ~次は私の番ですねぇ~」
座り込んで籠手を観察していた俺に、るーさんがそのぶっとい腕回りと同じくらいあるメタリックな棍棒をブォンブォンと素振りしながら近づいてきた。
「るーさん、つかぬことをお聞きしますが、それは?」
「昨日のうちに何とか青銅の鋳造はできる程度に金属加工ができるようになったので~、ちょっと作ってみました~。本当はパイクもつけたかったんですけどちょっと技術が足りなかったんですよね~。これでもらった錫と銅の鉱石は使い果たしちゃいましたけど~」
「いやいや、金属の棍棒って。普通青銅なら剣じゃないんですか? それに鉱石使い果たしたって盾とかはどうするんです?」
「こんな立派な肢体があるのに~、どうして盾が必要なんですか~?」
やばい、ネタじゃなく本気でそう思ってるっぽい。旦那だけアレかと思ったら奥さんも結構アレだった。そら、そんな戦闘スタイルだとオークにもなるわ。金属が必要ってでっかい武器が必要ってことかよ。壁役を何か勘違いしてないか? まあ、ヘイト稼ぐにはよさそうだけどな!
「解りました。で、私の番というのは?」
「こういう意味です~」
言うが早いか、二つの籠手めがけてるーさんは棍棒を振りおろした。つまり俺の目の前ぎりぎりに・・・・・・。ヴァーチャルでよかった~。リアルだったら確実にちびってるわ。
そして、るーさんが棍棒を上げると、そこには、粉々になった籠手と、地面にめり込んだ籠手があった。ちなみに粉々になった方が焼き固めた方である。
「なるほど、焼き固めると硬くなるけど衝撃には弱くなるのか・・・・・・。防具として使うのなら生のままの方がよさそうだな」
「む~、だーさんの仇を取りたかったんですが~、半分しか取れませんでしたね~」
もうやだ、このウォーモンガー夫婦。
「それはいいですけどるーさん、今度から先にちゃんと説明してから行動してくださいね。突然だと驚いちゃいますから」
「はい~すみません~」
ホントに分かってんだろうか? あらあらまぁまぁ口調のせいでいまいちるーさんは読みにくい。
「それはそうと、こんな武器を思いついたんですけど・・・・・・」
おれは例のスチームランスの穂先の相談をして、この日はログアウトした。
そして次の日。今日はマニコから報告を受ける日だからと思って入ってみたが、たまり場にマニコの姿はなかった。
「まぁ、実験してりゃそのうち来るだろ」
俺は早速昨日作ったスチームバッシュシールドの加圧実験を始める。
破裂するまでの時間を図る実験なのでコアパーツと小枝のマニピュレーター以外はすべて外して臨む。新しく籠手とすね当てを着けた手足パーツを早々に壊したくはないのだ。なんだか実験に際して死ぬことが前提になっていきているような気もするが気にしてはいけない。科学とは常に命がけなのだ。
では、加圧開始。
・・・・・・・・14・・・・・・・・15・・・・・・・・16・・・・・・・・17バシュウゥゥゥ!
17秒ちょいで継ぎ目が外れてそこから蒸気が噴き出した。
「17秒か・・・・・・実戦で使うなら15秒チャージが望ましいかな? それにしても・・・・・・」
「ちょっとつまんないよねぇ。もっと派手に破裂するかと思ったのに」
「だよなー・・・・・・ってマニコいつの間に」
ホントに実験してたら現れるとは、神出鬼没スキルでももっとるんじゃなかろうな? ちなみに今は茸人間形態だ。その体で肩に乗るのはやめてほしい。体が木製だからか、なんとなく植菌されている気分になる。
「んっふっふ~実験あるところにマニコありだよ。っていうのは冗談で途中経過報告をしに来たら実験中見たいだったからのぞかせてもらったのさ」
「そうか、こいつの仕様実験だけ終わらせたら聞くからちょっと待ってくれ」
「おっけー、楽しく見てるから気にしないで続けて」
俺は予備のスチームバッシュシールドパーツを出し15秒加圧を加える。
「よし、行くぜ! スチームバッシュ」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
アーツスキルが無いもんで溜まってたストレスの分、技名を激しく叫んでみたが、むなしく声が響いただけだった。
「おかしいな、動作不良か?」
同じ気候を持つ壊れた方のパーツに魔力を通し動作確認を行ってみたけれど事らは酢通に動く。
「普通に圧力がかかりすぎて弁が開かないだけなんじゃないの?」
「なるほどじゃあちょっと、かける魔力を増やしてみるか」
限界ぎりぎりまで魔力を流し続けて約30秒、ようやっと弁が開いて蒸気が噴き出した。
「っこりゃ、ちょっと改良しないと実戦じゃ使えないなぁ。まぁ改良はまた今度にするか。マニコ報告を聞かせてくれ」
「えぇ~もう実験終わり? ってうそうそそんな顔しないで、じゃあギルドホールへの侵攻状況の途中経過を報告しまっす」
実験終了い不満そうな顔をしたマニコだったが、一にらみすると素直に報告を始めたのだった。
作中のあれを忘れていたのはもちろん作者です。
まあ、伏線はって忘れることなんてよくあr・・・・・ネーヨ
ということで今後はできるだけないように気をつけます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。




